Main | 吉野家応援団 »

April 06, 2004

改革の効用

変えるべきか。変えざるべきか。
この2つの間の葛藤は、個人レベルでも、企業等の組織でも、国や社会、世界全体といった大きなレベルにおいても、よくみられるものであろう。現状はたいてい、不満はあるが決定的なものではなく、問題を抱えながらもそのままなんとかやっていける程度である。これに対し、改革を行うことは、期待されるメリットは相対的に大きいとしても圧倒的なものではなく、加えて未知の領域につきものの不確実性がある。したがって、期待されるメリットから考えれば改革する方に軍配が上がるが、リスクを最小化しようとすれば改革しないほうがよい。典型的なトレードオフの状況である。

リアルオプション理論の見方で考えても、不確実性の下で将来開かれるであろう新たな機会を獲得するために今投資をするのだという成長オプション的な見方と、不確実性があるのだから、しばらく待ってみようという延期オプション的な見方がある。学術論文であればモデルで評価し、価値の大きいほうを選べばよい、となるのであろうが、現実には、1つの問題をどのようにみるかということは、それほどシンプルなものではない。同じ問題がまったく相反する2つの考え方でそれぞれ整理できることもよくある。

ここに、それぞれの立場を代表する新興勢力と既得権層の利害対立がからむと、問題はさらに複雑になる。第三者的・中立的にふるまうことは実際には難しい。問題に関心をもち、意思決定プロセスに参加しようとするのは、たいていの場合、利害がからんでいる人々である。賛否どちらかの立場にコミットしている人は、中立的な判断が自らの意見とちがっていれば、それを敵とみなす。したがって、中立的な立場なるものは問題の構図から消滅してしまう。

もとより一般的にあてはまる答えなどない。しかし、多くの場合にあてはまることが1つある。「変え続けることに意義がある」という考え方だ。人でも組織でも、同じ環境下で過ごしていると、その環境に適応し、最適化していく。このことは効率を高めるが、一方で変化への耐性を失わせる副作用もある。牙が大きくなりすぎて絶滅したトラ、効率化を追求しすぎて脆弱になった組織。失職後、再就職の面接で「部長ができます」と言った大企業の元部長の例なども、このパターンであろう。

過適応による変化への耐性の低下を防ぐ方法として、小さく変え続けることがある。大きな変化に対して機敏に反応するためには、ふだんから小さな変化を経験しておくのだ。テニスの選手がレシーブの直前に体を小刻みに動かすのに似ている。このことは、組織や社会についてもいえる。変化を脅威ではなくチャンスとしてみるためには、ふだんから変化に慣れていたほうがよい。小さな変化への対応には、余分なコストを要するだろう。これは「柔軟性」を得るための対価なのだ。

つまり、改革というものの効用は、それ単体で測るべきでないということだろう。たとえ若干余分なコストがかかっても、たとえ最適と思われる対応に比べて不充分であっても、変え続けること自体には意味がある。社会全体としてみれば、環境の変化を止めようとするよりも、私たちが環境変化に対して強くなるほうが、よほど安くすむのではないだろうか。

テクノラティプロフィール

テクノラティプロフィール

テクノラティプロフィール

|

Main | 吉野家応援団 »

Comments

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 改革の効用:

Main | 吉野家応援団 »