決済性預金とペイオフ
4大銀行(みずほ、三井住友、東京三菱、UFJ)は、来年春に予定されるペイオフの全面解禁への対応として、解禁後も全額保護される「決済用預金」を導入する(記事はこちら)。また、八千代銀行は4月20日から取り扱いを始めたという。これに対し朝日新聞は、「ペイオフの骨抜きにつながる」と批判しているが、必ずしもそうではないと思う。
そもそもペイオフを解禁しても1,000万円以下の預金は全額保護されるのであるから、預金を守るために決済性預金の利用を必要とするのは、どのくらいの割合か詳しくは知らないが、預金の中でも一部のはずだ。また、1,000万円超の預金者の中でも少なくとも個人の場合、実際に守られるかどうかより前に、「安心できる金融機関」かどうかのほうが重要であり、「当行は破綻リスクがありますが決済性預金があるので大丈夫です」などという金融機関を選好するとは思えないし、第一金利がつく預金が他で利用可能なのにわざわざ無金利の預金を選ぶ理由はない。
要するに問題は、決済性資金が主に企業を対象とするとして、法人の決済取引の安全が保護されることのメリットと、ペイオフ対象外の預金制度を持つことで金融機関間の健全な競争が阻害されるリスクとのどちらをとるかということだ。ここで考えなければならないのは、批判派が決済性預金を「ペイオフの骨抜きにつながる」、つまり金融機関間の健全な競争が阻害されると考えるのはなぜか、ということだ。
健全な競争とは、公正なルールに基づいたフェアな競争ということだ。受けるべき規制を受け、負担すべきコストを負担したうえで競う。決済性預金についてこのことを考えると、カギは預金保険料だ。批判派の主張は、決済性預金の預金保険料が適切に決められていない、ということを暗に言っているのだろう。しかし、預金保険法を詳しくチェックしたわけではないが、保険料の設定に関して、リスクに応じた保険料を徴収することを禁じる規定はあるまい。
預金保険料は金融機関によって差はない。したがって金融機関の信用リスクに差がある場合、金融機関間で負担と受益が不公平になる、という問題はある。ここはやはり民間保険会社で導入されている「リスク細分化型」のようなスキームが使えるよう検討すべきだ。この一線が守られれば、預金保険料に当該金融機関のリスクが反映して、健全な競争に近づけることができる。
「リスク細分型預金保険」を考えるとしても、果たしてリスクを適切に保険料に反映させることはできるのか?という懸念はあろう。一案だが、預金保険のデリバティブを資本市場で売ることで、信用リスクを一部市場にさらすという考えはどうだろうか?預金保険運営機構のリスク管理になると同時に、リスクを市場で評価させることができ、保険料の適正な設定に役立つのではないか。
これらの案は、つまるところ、「預金保険制度の目的は預金者を守ることであって金融機関を守ることではない」という正論をまじめにかたちにしただけのものだ。金融機関を守りたい面々には面白くないかもしれないが、せっかく作った制度がよりよく機能するために、検討する価値はあるように思う。
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