「入門リスク分析」
デヴィッド・ヴォース著、長谷川専・堤盛人訳「入門リスク分析:基礎から実践」、勁草書房、2003年。
文字通り、リスク分析の基礎から実践を解説した本である。リスクについての考え方の基礎的な説明、リスクの定量的把握の手法、リスクを「伝える」ための技術などが満載。必要にして充分な解説、実践的な手法紹介、豊富な事例など、実用書としての位置づけを徹底しているところがよい。
特に気に入ったのは、第10章「専門家の意見に基づく分布の設定」である。リスクの定量的評価というと、どうしても過去のデータを用いた推定ということになるが、今はまだ存在しないものに対するリスクを考えるためには、どうしてもなんらかのかたちで専門家の意見を使わなければならない。
この点について、系統だった手法はないではない。単純なアンケートやデルファイ法など、意見そのものを集約する手法や、今私が研究対象としている「予測市場」を用いることも考えられる。本書では複数の専門家による予測を統計的に処理して期待される確率分布を導く手法が紹介されている。しかし本書では、そうした手法の紹介の前に、「専門家の予測なるものが、単純に信用していいような代物とは限らない」ことを、説得力のある事例とともに紹介している。頼るべき専門家の予測でも、そのまま鵜呑みにはしない。このような「さめた」態度は、リスクを考える者にとって、まさに必要とされるものだろう。
本書に問題点があるとすれば、金がかかることである。本書は税込み7140円だ。本書を必要とする人はかなり多いのではないか。もう少し安く設定していただければと思う。さらに、本書を読むとモンテカルロシミュレーションのソフトが欲しくなる。Crystal Ballはスタンダード版でも102,900円だ(アカデミック版は71400円)。
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