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May 10, 2004

ネットの匿名と実名

@Nifty上のblog「週刊!木村剛」に、「匿名の人はコミュニティを壊す権利を持っているのか?」という興味深い問いかけがあった。「権利」があるかないかは論ずるまでもなく、ない。問題は、制度や慣習として匿名を許容すべきか、という点だ。ネットでの議論に際しての実名、匿名の問題は、私の知る限り、パソコン通信と呼ばれていた時代から議論されてきた。極論すれば、①ネットでの自由な言論の確保のために匿名を許容すべきだという肯定論と、②匿名の参加者の無責任な言論がネットコミュニティを破壊するから実名とすべきだという否定論の2種に分かれる。結論を先に述べると、私はどちらかというと①の意見に近い。

もちろん、①と②の間に無数の中間的な意見があるわけで、典型的なのは、③実名でできない発言は匿名でもするな、といういわば精神論だ(たとえばこの方の意見)。この議論には、裏返しとして、「匿名で無責任な中傷をする人々に対して精神論は効果がない」という反論がある。すべきでないといわれても、悪意の参加者には強制できない以上、意図的な「荒らし」は防ぐことができない。たとえば木村氏が嘆く匿名の無責任な(低レベルな)発言に対処するために、同氏のblogで実名性を導入しても、偽の「実名」で発言したり、当該blog以外で中傷したりすることは可能なわけで、問題の抜本的解決にはならない。

匿名性が無責任な「荒らし」を助長するとの意見に対しては、匿名性が可能にする真摯な議論もあるということを認識すべきだ。「2ちゃんねる」を批判する人は多いが、その中で繰り広げられている議論の中には、まぎれもなく真剣なものがある。おそらくは内部者のため素性を明かせない人々の、匿名ゆえに許される本音の議論。リスク管理のために、匿名での内部告発制度を導入している企業のことを思い出す方も多いのではないだろうか。なぜ内部告発制度に匿名性が必要かは、いうまでもないだろう。そういえば、選挙という制度も匿名性がその本質的な特徴だ。なぜ選挙が匿名でなければならないか、思い出してみよう。

だからといって私が純粋な①のように「何でもあり」を支持しているわけではない。現実にはできることとできないことがあるし、またできるとしてもそこまでやるべきかという議論が必要だと主張しているだけだ。

ここで、現実世界での問題解決はどのように行われるか、という視点を入れてみたらどうだろう。たとえば、最近近所で空き巣の被害が多いがどうすべきか、などという問題だ。空き巣が多いから街中に監視カメラを設置すべきだ、という主張には説得力があるだろうか。英国の市街地では監視カメラが多数設置されていると聞くが、ネットでの実名義務付けは、さらに進んで常に身分証明書を胸に付けておくことを義務付けるようなものではないか。あるいは、警察官を大幅増員して、街中を絶えずパトロールさせるべきか。そのコストは誰が負担するのか。絶えず見張られているコミュニティは、安心かもしれないが快適といえるだろうか。

私の意見は、突き詰めれば、「荒らし」側に自制を期待するのではなく、「善良な市民」側に、「荒らし」に負けないコミュニティを作るよう努力すべきだ、というものだ(この方の意見に近い)。無責任な中傷は、無視しよう。見当ちがいの言いがかりには、反論しよう。それは、現実世界の上記の例でいえば、地域住民が力を出し合って、不審人物を見かけたら通報するとか、いわゆる「自助努力」によって、コミュニティを維持しようとするものだ。

もちろん、それには手間もコストもかかる。何より「善良な市民」側のリテラシーが必要だ。しかしそれは、警察のような第三者による包括的な監視よりはよほど安くすむはずだし、言論を封殺するおそれも少ない。その手間やコストは、大きくいえば、まさに民主主義を維持するために必要なものなのではないか。

木村氏は、同氏のblogへのトラックバックに無責任な中傷コメントがなされたことを気にしておられる。有名税だという議論はやや乱暴だと思うが、影響力のある発言に対し一部無責任な中傷があったとしても、甘んじて受けるべきものではあろう。木村氏は「熟読してから批判せよ」というが、それもやや過大な要求だと思う。「私は木村氏の主張を熟読し正しく理解している」と自信をもっていえる者が(木村氏以外に)どれだけいるだろうか?

ただし無責任な中傷に対処する責任は、木村氏を囲むコミュニティが分担して負ってもよいのではないか。木村氏を囲むコミュニティは、木村氏だけのものではない。そのコミュニティに属していると思う誰もが、無責任な発言を無視したり、反論したり、正しいと思う対応をしていってはどうだろう。そのコミュニティが健全に保たれているなら、多少のゆらぎは許容範囲内ではないだろうか。

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