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May 14, 2004

ネット通貨としての「認知」

「HPO:個人的な意見」というblogに、面白い投稿があった。ネットの世界で、他人から認知されることを価値基準とするとき、それが「通貨」として考えられないか、というものだ(こちら)。このblogの管理人である平山氏は、このような「認知通貨」が今後インフレに向かうのかデフレに向かうのか、について論じている。

ネットの世界で「認知」が1つの価値基準となっていること、互恵性が行動規範となっていること、したがって、参加者が互いにサービスをやりとりする行為が通貨を通じた価値の交換と似ていることなど、もっともな主張である。私も、こうした活動が今後どうなっていくのか、たいへん興味がある。

ちなみに、ネットの世界での情報交換を財の交換にみたて、この情報財に独自の価値単位を与えようとする試みについては、平山氏も指摘している通り、CNET Japanの梅田氏のblogでも紹介されている。(こちら)ただ、梅田氏は、これを「通貨」としては意識していないように見える。また、クリエイティブコモンズの活動はややこの考え方に近いようにもみえるが、昨年講演会の場で同活動の中心人物であるローレンス・レッシグ氏に質問したところ、価値の交換に通貨的な考えを持ち込むという発想はとっていないようだ。

ネット上の仮想通貨の現実世界へのインパクトについては、カリフォルニア州立大学フラートン校E. Castronova准教授の論文が有名だ(日本語で読みたい方は、翻訳がこちらにある)。仮想財の販売で暮らせるかを実験したJullian Dibbell氏のサイト「Play Money」にも興味深い読み物が多くある。平山氏がリンクしているこの論文もたいへん面白かった。不肖私メもちょっとした駄文を書いてみたが、いずれにせよこの分野は、経済学的なアプローチはまだまだこれからだ。ネットの世界での議論に追いつくためには相当の時間が必要だろう。平山氏や梅田氏の議論は、この問題について考えを整理するうえでたいへん参考となった。

上記を前提として、重箱の隅をつつくがごとき指摘を1つ2つ。ここでのインフレ、デフレということばの使い方は、やや注意が必要だ。平山氏のいう「インフレ」は、この認知通貨を多くのネット参加者が「発行」し、その「流通」がさかんになるさまをさしているようだが、そもそもインフレとは、財・サービスの量に対して通貨の供給量が多いため、相対的な通貨の価値が下落することをいう。しかしここでの場合、ネットにおける「通貨」としての情報財は各参加者が生み出すものであり、財と通貨の量のバランスは崩れないから、インフレとかデフレとかの問題にはならない。

ある情報財の供給量が別の情報財の供給量に比べて増えるために、相対的に価値が下落することもありうる。この場合は、2番目の財の「価格」(1番目の財を価値基準とした)が上がることになる。しかし、平山氏自身が記すように、この認知通貨の価値はきわめて主観的なもので、人によってちがう。とすれば、そもそもインフレとかデフレとかを考えること自体が難しいのではないか。

したがってこの部分は、「インフレ」「デフレ」という用語ではなく、こうした活動が今後発展していくかどうか、という問いかけにしたほうがよいと思う。

私は、この「認知通貨」は、通常の通貨になぞらえるのではなく、「地域通貨」の一種ととらえるほうが適切だと思う。地域通貨は、参加者たる地域住民のなんらかの活動が価値として認知され、価値の表象として与えられるものだ。もしネットでの互恵的なサービスや他者からの認知を通貨として考えるなら、それはネット地域社会における「地域通貨」と考えるべきであろう。

ちなみに、オンラインゲームなどの仮想世界について社会科学的なアプローチで研究していこうという流れが、アメリカなど一部で起きつつある。興味のある方は「Terra Nova」を参照。日本では、これまた不肖私メが最近「Virtual World Update Japan」を始めたのでご参考まで。

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Comments

山口さん、はじめまして、おはようございます、

ここまで的確なトラックバックをいただくと、ほんとうにはじめましてというのも、ちょっと照れくさいです。私の記事はおろか、プロフィールまでもしっかりご覧いただいているようですね。

取り急ぎ、下記のペーパーですが、サマリーまではたどり着けたのですが、本文がPDFで開けません。ほんとうに恐縮ですが、当該サイトのリンクをご確認いただくか、テキストをいだけるか、お願いできないでしょうか?

http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=544422

ほんとうに「はじめまして」の山口さんに、このようなことをお願いして恐縮です。とても、興味をもっています。

Posted by: ひでき | May 14, 2004 08:52 AM

online game関連では近頃これみつけたので、いちおはっときます↓

「Game Theories 」
http://www.walrusmagazine.com/article.pl?sid=04/05/06/1929205&tid=1

On-line fantasy games have booming economies and citizens who love their political systems. Are these virtual worlds the best place to study the real one?

By Clive Thompson


※まだ全然読んじゃいませんが、これまでの流れの概観...って感じですかね..

Posted by: m_um_u | May 15, 2004 07:05 AM

m_um_uさん、ご指摘ありがとうございます。この文章は初めてみましたが、Castronova氏の話、Alphaville (Sims Online)の話、"State of Play" Conferenceの話など、virtual worldに関する現状をコンパクトにうまくまとめていますね。アメリカやデンマーク、その他のヨーロッパの国々では、オンラインゲームをまじめな研究対象とする研究者たちがあらわれ始めています。今一番盛り上がっているのは社会学や法律学あたりかもしれません。よろしければ別blog「Virtual World Update Japan」のほうも一覧いただければと。
http://hyamaguti.cocolog-nifty.com/virtualworlds/

Posted by: 山口 浩 | May 15, 2004 09:51 AM

山口さん、こんばんわ、

大変失礼をば...トラックバックをダブルでしてしまいました。どうか削除ください。ほんとうにお手数をおかけして申し訳ございません。

Posted by: ひでき | June 10, 2004 11:26 PM

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