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June 29, 2004

年金問題:だいなしにする人々

6月28日発売の「週刊現代」の巻頭特集は「このままでは年金はパーになる」というセンセーショナルなタイトルで、森永卓郎、金子勝両氏の対談を掲載していた。このタイトルでは何も期待できないだろうとは思いつつ、一応立ち読みしてみた。

この国には言論の自由があるから、特に政府や政治家に対しては、相当のことを言っても法的には問題にはならない。それはわかるのだが、これはあんまりだ。法的に責任はなくとも、マスコミの社会的責任という観点からいうと、かなり深刻な問題だと思う。(ことわっておくが、この記事はいかなる政治的立場に加担も批判もするつもりはない。)

まずは週刊現代の編集部にひとこといいたい。この記事の本文を読むと、「年金がパーになる」とはひとことも書いていない。似たような意味の表現もない。「パーになる」とは、日常的な日本語では、「まったくなくなる」ということだ。当然ながら、経済の専門家である森永、金子の両氏がこんな乱暴なことをいうはずがない。記事で語られているのは、「今回成立した年金改革法は、国民の負担を増やして給付を下げただけのものだ」というしごく当たり前のことである。「パーになる」はあきらかに編集部の独走で、事実にも記事の内容にも反している。

編集部の意図は、おそらく読者の目をひいて売上増加をねらいつつ、小泉政権崩壊という政治的目的をも果たしたいといったものなのだろう。売上の増大を目指すのは民間企業として当然だし、新聞ではなく雑誌でもあるから、政治的に特定の立場を持つこと自体に文句をいうつもりはない。しかし、それにしても、この「パーになる」という見出しはいったいなんだろう。羊頭狗肉にしても度が過ぎる。これでだまされる読者がいるならきわめてミスリーディングだし、だまされない読者にとってはばかにされたようなものだ。これは企業倫理の問題といってもいいのではないだろうか。

森永、金子の両氏もいただけないと思う。最近は景気の回復基調で、両氏の「テレビ経済評論家」としての旗色はよくない。だからいつにもまして現政権に批判的だとしてもわからなくはないが、2人とも立派なバックグラウンドをもった経済の専門家である。この期に及んで年金問題とイラク問題とその他さまざまな問題をごっちゃにした、飲み屋でくだ巻くような議論で盛り上がっていてどうするのだ。今後の年金制度をどのようにしていけばいいのか、専門的知見の上に立った具体的な提案や議論やらが必要なのに。年金給付の切り下げで森永氏得意の「年収300万円時代」どころか「年収100万円時代」がやってくるというなら、そうならないための制度設計の提案を出すべきだ。

記事が気に入らなければその雑誌を買わなければいい、というご意見もあろうが(買わなかった。さすがに金がもったいないと思ったので)、私が気にするのは、こうした無責任で乱暴な記事の氾濫で、まじめに年金制度を議論しようという機運がそがれてしまいはしないかということだ。モチベーションの高い人々は影響されないだろうが、それほどでもない人の中には、「やっぱりパーになるんだ、自分が何やってもだめだ」などとしらけてしまう人が出てきそうな気がする。そうした風潮が蔓延すれば、せっかく建設的な議論をしようとしている人たち(この人とかこの人とかこの人とかこの人とかこの人とかこの人、他にもたくさん)の努力をだいなしにしてしまう。

「週刊現代」には、「今月の羊頭狗肉大賞」を差し上げたい。賞金はない。副賞は、不名誉と、今は果たしていない社会的責任である。今後より建設的な議論の場を提供することを期待したい。

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Comments

そうですね、財政見通しを読むと、大甘な前提とはいえ、2100年までは支給できる試算になっていることを今回はじめて知りました。
マスコミによって、自分たちの老後の支給すら危ういんじゃないかと思い込まされていた様に思います。

年金問題、僕にとって検証することは大きすぎる問題だと考えていましたが、多少は理解することが出来そうです。
それも「ワクワク」の一つかもしれません。

Posted by: 聞きかじり | June 29, 2004 06:36 AM

私もこの記事をつり革広告で見かけて、あれ?って思ってたんですけど、山口さんが書いていたので、早速読んできました。週刊現代をコンビニで立ち読みは私はさすがにちょっと恥ずかしかったですが、頑張りました。

はいはい、って感じの記事ですね。

Posted by: Hiroette | June 29, 2004 11:09 AM

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