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June 15, 2004

プロ野球を考える ②経営学的にみた球団合併問題

プロ野球球団を企業と考えれば(多くの場合実際企業形態をとっているはずだ)、球団の経営統合は企業の合併と同様に考えることができるだろう。そうした観点からみたとき、今回の近鉄-オリックスの経営統合は価値のあることなのだろうか。

一般に、企業が合併するとき、①固定費などのコスト負担の削減による利益率の向上、②収益源の拡大による増収、③競争圧力の低下による収益力の向上、などが狙いだろう。今回の場合、このうち③は考えにくい。12ある球団のうち1つが減ってもまだ11あるし、そもそも地域的に分散しているため、需要の競合はあまりないのではと思うからだ。したがってここでは、①および②について考える。

プロ野球球団が合併することによって、コスト負担は減るのだろうか。一般には、合併によるコスト削減は、企業規模の拡大によってオーバーヘッド部分の負担が「薄まる」ことから達成される。しかしプロ野球球団の場合、これはあたらないだろう。合併したからといって一球団あたりの選手数が増えることはないだろう(登録できる選手数には限りがあるはずだ)、仮に増えたとしてもその分収益が増えるわけではない(試合数は変わらないし、球場が大きくなるわけでもない)から、比率としてのコスト負担は減らない。もう1つ、合併する2社のうちコストの低い企業の技術をコストの高い企業に導入するなどして、平均的なコストを引き下げるというかたちもあるだろうが、「技術」が制約条件とはならないプロ野球球団のコスト構造において、これは合併によって成し遂げられるコスト削減とはいえない。合併しなくても、選手の年俸を引き下げればすむ話だからだ。

では、合併によって収益は拡大するのだろうか。同業種企業の合併では、通常、新しい収益源をあてにすることはできない。シナジーの働く余地が小さいからだ。プロ野球球団の場合はそれにとどまらず、むしろ合併によって、1+1が2以上ではなく、むしろ2より小さくなるケース(シナジーの逆は何というのだろう)もありうるのではないかと思える。地元で受け入れられてきた球団が合併で他の場所に移転した場合、従前のファン層をどの程度とどめられるかは疑問の余地があるし、たとえとどめられたとしても、異なる地域では日常的に球場に足を運ぶことはできないからだ。従来のファンの「歩留まり」がどの程度なのか、本拠地を移転したダイエーや日本ハムの例を詳しくは知らないが、あまり高くはないのではないかと推察する。

とすると、既存球団の合併で解決できる問題はそれほど多くはないように思うのだが、他に何か事情があるのだろうか。

オーナー企業がプロ野球球団を保有することの意義は、利益というよりも、社会における認知度を高められることにあるという。実際、オリックスなどは、球団を持つまでは、国民の大多数が知らない企業だったのではないだろうか。球団経営の事業収支が赤字であったとしても、このようなケースでは容認されるだろう。赤字を広告宣伝費とみなせばよいからだ。とすれば、経営の苦しい球団同士が合併するより、新たに「広告宣伝費」を支出してもよいと考える企業に売却するほうが、手法としては適切なのではないか。○○業はだめとか外資はだめとかいっている場合ではないのではないかと思う。そういう企業こそが、今プロ野球球団を欲しがっているのではないかという気がするが、どうなのだろうか。

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Comments

以下は自己つっこみである。
ニュースをみていると、どうも合併の目的は「選手のいいとこ取り」にあるという論調が目立つ。この点には気付かなかったので、上記記事は訂正されなければなるまい。

なるほど、経営資源のリストラクチャリングの機会としての合併ということだ。それぞれの強みを生かし、企業体力を強化する。これなら合併にもメリットが出てくる。その「経営資源」が選手という人間であることからくる諸問題を除けば、企業としてまっとうな対応なのかもしれない。どこぞの球団オーナー(この「オーナー」という用語はよくわからない。球団の過半数の株式を保有しているのだろうか?態度からみると全プロ野球を所有しているかのようだが)が「いいとこ取りは許さない」などと主張しているようだが、それなりのリスクをとって行うものであり、横槍を入れる筋合いはないと思う。

Posted by: 山口 浩 | June 23, 2004 09:53 AM

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