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June 18, 2004

The Obesity Myth: Why America's Obsession With Weight Is Hazardous To Your Health

Paul Campos (2004). "The Obesity Myth: Why America's Obsession With Weight Is Hazardous To Your Health." Gotham Books. ISBN: 1-592-40066-3

ワシントンDCのダレス空港で半日足止めを食ったため、ひまつぶしに買った本だ。ちょうど本blogでアメリカ人の肥満について書いたところだったので関心をもった。空港の本屋で売っているぐらいだから売れているのだろうが、いや、これは驚くべき本だ。しかし、どうも似た趣旨の本は他にもいくつかあるらしい。

本書の主張を一言でいうと、「アメリカ人の肥満はさしたる問題ではない」ということだ。肥満が病気の原因になるという考えは事実を歪曲・誇張したもので、むしろダイエットやその後のリバウンドのほうが体に対して悪影響を及ぼすという。現在のダイエットブームは、それによって巨額の利益をあげる「ダイエット産業」に踊らされている、と主張するのだ。

たとえば著者は、過去の研究で、肥満者の死亡率がやせた者に比べて高いとの結果が出たものを検証し、この研究で喫煙者がサンプルから除かれていることを批判している。喫煙はダイエット法として定着しているから、やせた者と喫煙者には相関関係があるはずであり、喫煙者をサンプルから除くのは不適切だ、と主張するのだ。喫煙者を含めれば、やせた者の死亡率は上がり、肥満者と変わらなくなるといわけだ。(わからなくもないが、喫煙を肥満に起因するものとみるのはやはりおかしいと思う。)

本書の主張の根底には、次のようなロジックがある。

人間は、3種類に分類される。①まだ肥満となっていない者、②肥満となった者、③かつて肥満だった者、の3つだ。人間は、タイプ①として生まれる。しかし、成長するにつれて、あるいは成長が終わった後、やがてタイプ②となる。このうちある者は一念発起してダイエットを行い、③となるが、大半はタイプ③を達成できず、また一時は達成してもそれを維持できず、また②に舞い戻る。人間の健康にとって最も問題があるのは、タイプ②ではなくタイプ③なのだ。多くの専門家は、この意味でミスリーディングな主張をしている。

ダイエットの王道は食事の制限と運動だが、これはかなり難しく、ほとんどの人が達成することができない。したがってダイエット薬や脂肪吸引などの外科的療法に頼ることになる。しかしこれらは健康に深刻な影響があるにもかかわらず、国民は充分に知らされていない。

この主張は、タイプ②とタイプ③を比較し、タイプ③のほうが悪いというもので、人間はもともとタイプ①として生まれることをまったく無視している。アメリカ人が考えるべき最大の問題は、「人はなぜタイプ①として生まれながらタイプ②になるのか」だ。「タイプ②がいいかタイプ③がいいか」ではない。アメリカだけしか知らなければ疑問に思わないかもしれないが、アメリカほど肥満者が目立つ国はないように思う。このこと自体を異常と思わない方が異常だ。

遺伝的にみれば、生物としての人間は、飢餓によりよく対応するように作られている。余分の栄養があれば蓄積するようにできているのだ。生物としての進化が文明の進歩に追いついていないからだが、その意味では確かに人間が太るのは自然な反応ともいえる。しかし世界中の多くの土地で、文明の進歩にもかかわらず、人間はアメリカにおけるほどには太っていない。アメリカが特別なのだ。

著者は、コロラド大学の法学の教授で、かねてより肥満の問題について同様の主張をしてきたらしい。「白を黒といいくるめる」ような上記のなんともいえない論理展開をみていると、法学者よりも弁護士のほうが向いているのではないかという気もする。あるいは、この種の我田引水こそがアメリカ的なところ、というべきか。著者が本気でこのように考えているとすれば、おそらくどんなに議論しても分かり合えることはないだろう。「デブの壁」とでもいうのだろうか。

笑ったのは、この著者がもともと肥満者であったが(正確にいえば若い頃にダイエットし、その後リバウンドしているので、タイプ③を経たタイプ②だ)、本書の執筆中にたいへんな努力をして再びやせた(タイプ③になった)、と告白しているところだ。「diet(食事)」ではなく主に運動によってやせたようだが、本書の主張は「太っていてもかまわない」ということではなかったのか。

著者は、妻から離婚を持ち出されてやせることを決意したようだが、どうも、本書の執筆動機は、肥満者に対する社会的な冷遇や、それにつけいるダイエット産業に対する不満やら怒りやらが根底にあるらしい。それはそれで共感しなくもないのだが、やはり問題の本質をはき違えているように思える。

さらに笑い話なのは、本書を持ってやっと乗り込めた飛行機で私の隣に座ったのが、これぞまさに「肥満者」と呼ぶしかない見事な巨漢だったことだ。おかげで飛行中の3時間、私は体をすぼめて窓に体を押し付け続けなければならなかった。彼は本書を読む私を、そして自分自身をどのように思ったのだろうか。

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Comments

アメリカの肥満、やっぱり問題です。 センシティブな個人的な問題でもあり、かつ低所得者ほど肥満が多いという事実なんかをみると、社会的な問題でもあります。 
先日、あるアメリカの消費者団体が、肥満を導く要因として「スターバックス」を相手に抗議活動を考えているとのニュースを聞きました。それぞれのメニューの栄養成分表について「オンラインなんかでは確認できるけれども、現代人の忙しいライフスタイルではそれだけでは不足であり、皆の注意を喚起するために、お店でも一目でわかるような表示がされるべきだ」とのことだそうです。 アメリカの肥満問題、いつか解決する日がくるんでしょうか?

Posted by: マティーニ | July 05, 2006 03:10 PM

マティーニさん、コメントありがとうございます。
スターバックスまで。いったいどこまで他人のせいにすればいいんでしょうか。このサイトの別の記事に書いたんですが、あの国の場合、何を食べるかの前に、まず食べる量を減らさないといけないと思います。たとえどんなに注意書きをしたとしても無駄ですね。気を使う人はそもそも注意書きを必要としないし、気を使わない人はどんな注意書きも見ない。確か「肥満との戦いはテロとの戦いより重要」と言った政治家がいたとか聞きましたが、本当にそうなんでしょう。で、テロとの戦いよりさらに勝つのは難しいと。

Posted by: 山口 浩 | July 06, 2006 02:25 AM

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