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The Wisdom of Crowds: Why the Many Are Smarter Than the Few and How Collective Wisdom Shapes Business,Economies, Societies and Nations

James Surowiecki (2004). "The Wisdom of Crowds: Why the Many Are Smarter Than the Few and How Collective Wisdom Shapes Business,Economies, Societies and Nations." Bantam Dell Pub Group.

著者はNew Yorker誌のコラムニストだそうだ。「Collective Intelligence」は、「集団知」とでも訳すのだろうか。本書の主張は、ひとことでいえば、「適切な状況の下では、人々の集団は、その中で最も優れた個人よりも優れた判断を下すことができる」ということである。適切な条件とは、
(1) 意見の多様性
(2) 各メンバーの独立性
(3) 分散化
(4) 意見集約のための優れたシステム
であり、これらが満たされれば、個々のメンバーが正解を知っていなくても、また合理的では必ずしもなかったとしても、グループのほうがよいという。
(Economist誌の書評はこちら。ただし有料)

昔、ビジネススクールの講義で、同様の趣旨のことを聞いた。ある実証研究で行われた実験なのだそうだが、品物のリストを手渡され、「月へのミッションの際に必要と思われる携行品のリストである。携行できる許容量が限られているので、これを必要度の順に並べかえよ」という問題をまず個人で考え、次にグループで議論してグループとしての結論を出す。その結果できあがったリストを正解と比べてみると、グループで議論した結果は、そのグループの中で最も正解率が高かった者よりも正解率が高くなる傾向があるという。実際、試してみると、必ずというわけではなかったが、グループのほうが正解率が高かったケースがけっこうあった(どのくらいの割合かは覚えていないのだが)。このときの講師の説明は、「誰も正解を知らないようなケースでは、グループのほうが、その中の最も優れた個人よりも優れた判断を下せることが多い」というものだった。

ここでカギになるのが(4)意見集約システムだろう。Blogでのコメントやトラックバックを通じた議論もこうしたシステムたりうるのかもしれないが、「集約」に的を絞ると、やや制約があるように思う。全員が同意できる場合ばかりではないからだ。先ほどの講義の例では、受講している学生として、指示されたように合意に至ることが求められており、合意しようと努力するインセンティブが働いていた。しかしこうした状況ばかりではなかろう。

今私が注目し研究テーマとしているのは、意見集約システムとしての「市場」である。市場では、さまざまな意見をもった独立な参加者が、それぞれの利益のために取引を繰り返す。その結果成立する価格は、その参加者たちが「集団」として下した価値判断の結果である。ここでは、最終的な判断が割れることはない。評価額がちがえば、裁定取引が起きるからである。そして最大のポイントは、それが市場であるがゆえに、そこからの「利益」(たとえそれが仮想であったとしても)を最大化するために、他人の意見と自分の意見をすり合わせるインセンティブが自然に働くということだ。

このようなしくみを将来予測に用いることができる。つまり将来に関する予測を、「仮想市場」における「仮想先物」として取引するのである。たとえばNewsFutures社のサイトでは、「明日の日経平均は今日に比べて上がるかどうか」といった予測問題が取引され、また「Foresight Exchange」では、「2036年までに人間型ロボットが実用化される」といった予測問題が「予測先物」として取引されている。このような「予測市場」は、さまざまな意見を持つ人々から効率的に「集団知」を導き出す道具になるのではないかと思われる(近々日本でも予測市場の実験が始まる。乞うご期待)。

このような「集団知」に積極的な価値を見出す考え方は、ネットワーク世代とそれ以前のPC世代との違いに関する梅田望夫氏の議論と共通するものがあるように思う(この記事へのトラックバックも必見)。こちらの議論に入ると長くなりそうなので、別記事としたい。

※2006/02/26追記
404 Blog Not Found「Apathy of Crowds
「集団知」という考え方はMachiavelliのころまでさかのぼる古い考え方とのこと。へぇそうなのか。ひとつ賢くなったな。とはいえ、今の流れというのは「車輪を発明する」類の話ではなく、いっとき知に関する「専門家」の優越性が社会的合意になっていたことに対するゆり戻しだ。

このあたりは、経済体制における市場経済と計画経済のせめぎあい、コーポレートガバナンスにおけるいわゆる「経営者主権」と株主主権の関係と似ている。2つの相対する考え方があり、世の中はそれらの間で長期的に行ったりきたりをしていて、大胆な決め付けをすると、20世紀は「専門家の時代」だったように思う。つまり、世の中を運営していくにあたって、それなりのトレーニングを受けた専門家たちに任せたほうがうまくいく、ということだ。この考え方は、それなりに有効性があると考えられていたし、多くの場合は実際そうだったのだろうと思う。

しかしだんだん、専門家たちの優位性は、少なくとも一部の領域において、ゆらぎ始めた。さまざまな要因があるだろう。人々の知的水準が上がったのかもしれないし、知識を伝播し共有する技術が発達したのかもしれない。あるいは逆に専門家たちが「意外にも」さほど有能でないことが明らかになったのかもしれないし、汚職などの弊害に対する社会的許容度が下がってきたのかもしれない。とにかく、ある種の判断は、やはり大衆に任せたほうがいい、という流れが出てきて、それに合致した事実がいくつか見られた。そういうことなのではないか。

dankogaiさんの「『問題を提起』する能力に関してはどうなのだろう?」という問いについていえば、これは大衆の得意とするところではないように思う。市場調査では「まだ見ぬ商品」に対する需要を測ることができないが、それと似ている。ネットの発達も、いわゆる「ロングテール」というか、局所的な「小さな動き」を助ける働きと同時に、マスメディアと同様、人々の興味を集約化する働きをもっている。問題を提起するのは、今でもやはり「専門家」ないし「少数の動機づけられた人々」の役割だろう。

dankogaiさんは、「事件に注視する『集団のサイズ』という点では、『戦後最大』というのもあながち大げさでもないようにも見える」というが、私はそうでもないと思う。多くの人がこの話題を口にするが、ライブドアの株主だったり取引先だったり、ファンだったりアンチ派だったりするような人(これらはまちがいなく日本人の中で少数派だ)以外の大衆の大半にとって、この問題はレッサーパンダが2本足で立ったり11人の女性と重婚した男が逮捕されたりしたことと同程度以上の重みを持つ問題ではない。

この問題をそうした「一般の関心」以上に大きく見せているのは、マスメディアだ。金持ちや社会的地位の高い人、中でもその「権威」が揺らいだ人を叩くのが最も商業的によいやり方であることを彼らは熟知している。とりあえず「灰色」は「真っ黒」、「白っぽい」は「灰色」、「白」は「完全な白とはいえない」といえばいい。裁判でいろいろな事情が明らかになってから書けばいいのだがそれでは商業的にまずい。「疑いがある」とつけておけば訴訟対策は万全。

マスメディアのこうした動きに対して、ネットでの議論は、全体としてみると、当初からマスメディアにおけるよりはるかに「冷静」だったのではないか。ポイントは、マスメディアで流れる無責任な言説を拡大再生産する人たちだけでなく、報道された「事実」から自分なりの分析をできる専門家たちが発言していたことだ。もちろんこれらがライブドア擁護論であるわけではなく、むしろ厳しい意見も多かったわけだが、少なくとも「煽り」に陥らない節度があったように思う。これが伝播していったのではないか。こういう動きは、ネットがあったから、といえなくもない。記憶がすっかり薄れてしまっているが、たとえばリクルート事件のときには、もっと「袋叩き」だったのではなかったろうか。最近は、マスメディアの中でも比較的冷静な議論がいくつかみられるように思う(例を挙げたいが忘れた。申し訳ない)が、私は、ネットでの比較的冷静な議論が何らかの影響を与えたにちがいないと推測している。

というわけで、私は、あの問題について集団知の限界を示したものだとは思わない。関心をもたない対象について集団知が働かないのはむしろ当たり前だし、あの問題は大半の人々にとって「ネタ」以上の何者でもないのだから、関心の持ちようもない。問題があるとすれば「情報の発信」のほうにあって、それがまだ充分に分散していないこと、充分な関心を呼び起こせていないことが問題なのではないだろうか。

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Comments

TB連発してしまいました。ごめんなさい。
500 read timeoutってエラーになったんですが、実はTBできてたようです。

ご迷惑おかけしました。

Posted by: norinoring | February 27, 2006 at 12:59 AM

norinoringさん
ありがとうございます。No problemです。

Posted by: 山口 浩 | February 27, 2006 at 09:08 AM

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