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July 02, 2004

年金問題:「ご理解を賜りたい」

年金問題に関して厚生労働省に資料の情報公開を請求した木村剛氏が、厚生労働省の担当者と面談したらしい(こちら)。データやプログラムの公開請求に対しては既に4,991枚の資料が「紙ベース」で公開され、今はそれに関する内部資料の公開を請求しているとのこと。CD-ROMによる公開は困難との回答であるそうだが(法律からいえばそうなるのだろう)、今後「1週間に2時間程度の定期ミーティングを設けて、数理計算の詳細をご説明していく中でご理解を賜りたい」のだそうだ。

やはり木村氏のネームバリューはすごいのだな、と素直に思った。不良債権問題のときのようにめった斬りにされてはかなわない、ということか。一般人ではこういう対応にはならないだろう。ともあれ、チャネルができたことはたいへん喜ばしい。以前本blogで、解析は情報公開を請求した側の責任と書いたが、先方から「ご理解を賜りたい」といってくれているのだ。「ご理解」するために必要な情報をどんどん引き出そうではないか。

私が当面知りたいと思っているのは以下の点だ。

(1)今回の財政再計算に用いなかった年金制度に関する検討内容
木村氏がこれまで行った情報公開請求は、いずれも今回成立した年金改革法の基礎となった財政再計算に関するものだ。
第1弾:「平成16年の財政再計算に用いた入力データおよびプログラム」
第2弾:「平成16年の財政再計算に用いた入力データおよびプログラムに関して説明している内部資料のすべて」

これらは確かに重要だ。これをきちんと解析すると、その前提となったパラメータやその他の仮定、計算手法がわかる。さて、問題は、それが適切かどうかだ。法案に結実したものは、論評の余地はあろうが少なくとも見かけ上理屈が通っているはずだ。パラメータやモデルの仮定などは、「価値判断」の余地がある。あなたはどう考えるか知らないが私たちはこれが適切と考える、という立場なら、最後は押し問答になってしまう。対案を出すにしても、やはりその前提条件となった仮定は議論の余地があるはずだ。

とすると、厚生労働省内部で、今回成立したもの以外の可能性を検討したものがあれば、議論がしやすいように思う。厚生労働省自身が異なる案を検討していたり、公表されたものとはちがった推計をしていたりしたとすれば、議論の前提がちがってくるのではないか。別の例だが、道路公団の問題で、公団が債務超過だとする資料がリークされたことがあった。公団側の説明ではあれは正規の資料ではないとのことだったが、ともかくもそういうものが存在したのだ。もし仮に、あの問題に関して公団の財政状態に関する資料を出せなどといった情報公開請求がなされたとしたらどうだろうか。公表された正規の数字のための資料以外は、無関係として公表の対象にならなかったろうと思う。

つまりだ。請求されたものに対して文字通りの内容のものを返してくるという現在の情報公開制度においては、最終的にオーソライズされたものに直接関係していないものは、すべて無関係のものとされる可能性があるということだ。今回「財政再計算に用いた」という限定をつけたことは、コストの面からもやむをえないものであろうが、仮に厚生労働省内に現状を危惧する人々がいて、制度検討の際にいろいろと検討やら試算やらをしたものがあったとしても、最終的に財政再計算に用いられなかったら、今回までの公開請求の対象にはならないだろう。膨大な量になるおそれがあるのが難だが、もし公開されれば非常に参考になるのではないか。

そこらへん、せっかく木村氏が直接厚生労働省担当者と会うチャネルがあるのだから、おいおい聞いてみたらどうだろう。この意味で私たちが「ご理解」したいのは、まず「どこにどんな資料があるのか」かもしれない。あてずっぽうで撃ちまくるより、時間と金がずいぶん節約できるはずだ。

(2)出生率動向に関する政策的裏付け
出生率の動向は、かなりクリティカルな情報だと思う。もちろん財政再計算には入っているはずだ。なんでも今後回復していくとか。これまでも、機会あるたびに厚生労働省は「今後出生率は回復する」とのシナリオをベースに制度を組み立ててきた。しかしそれらは今までことごとくはずれている。

もちろん、政府の将来予測は、政府経済見通しなどにも見られるとおり、単なる将来予測ではなく、政策目標でもある。つまり、政府がこれから打つ政策の効果をにらんで策定されるのだ。出生率についても、少子化対策などを前提にしているのだろうが、それが具体的にどんなものなのか、どのくらいの効果があるのか、私の知る限り、年金制度の問題とはあまり関連づけて考えられてはいないように思う。

はたから見ていると、少子化対策として挙げられている項目は、「こんなんで子供が増えるわけないじゃん」といいたくなるようなものが多い。過去に行われた少子化対策(いわゆる「新エンゼルプラン」)が出生率向上にどの程度の効果があったのかの検証はどうなっているのだろうか。

これらの中には、たとえば文部科学省や経済産業省、国土交通省など、実は厚生労働省の所管事項以外のものも多く含まれているはずだから、ひょっとすると情報公開請求先も、多省庁に広がってくるのかもしれない。あまり手を広げるのは得策ではないだろうが、出生率が回復するとする根拠の妥当性を何らかのかたちで検証しておくべきではないかという気がする。本当に今後出生率が上がってくると期待できるなら、それはそれでけっこう。もし充分な対策がとれていないことが明らかになれば、何がそれを阻害しているのかもわかってくるのではないか。

私たちも、年金制度を「ご理解」したいのだ。現行制度も、その他の可能性も。「庶民にやさしい」とか「抜本改革」だとかいった抽象的なキャッチフレーズでではなく、動かしている人たちの苦労や制度上の問題点も含めて、その「実態」をだ。今の情報公開以降の動きは、いろいろ問題はあるにせよ、悪くない方向だと思う。今後の進展を期待したい。

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