電子書籍で読みたいもの
「電子書籍」という類のものが生まれてからずいぶんになる。パピレス、電子書籍パブリ、ビットウェイブックスのようにウェブやPDAで読むもの、M-stage bookのように携帯電話で読むもの、LIBRIEのような専用端末で読むものなど、いろいろな媒体で提供されている。目を広げれば、いわゆる電子辞書も、この仲間に属するといえるだろう。
広告を見るたびに便利だろうと思うのだが、なかなか買おうという気持ちにはならない。なぜだろう。
電子書籍の利点として通常考えられるのは、①紙の書籍を多数持ち歩くより軽い、②検索機能など使い勝手がよい、③書店や宅配便の営業時間に関わらず書籍が入手できる、④紙の書籍よりデータの料金の方が安い、などであろう。それに対して、欠点とされているのは、①電池が切れると読めなくなる、②紙の書籍とちがって一覧性に欠ける場合がある、③立ち読みができない、④品揃えが少ない、といったところだろうか。
CNET Japanの「梅田望夫 英語で読むITトレンド」では、iPodに関連して、活字版iPodとでもいおうか、「活字ビューアー」のようなものがあったらいいという意見を書いているが、同感だ。たくさんの書籍を一度に持ち歩けるのがメリットなのだから、ハードディスクを内蔵して、これでもかと思うくらい、本棚をそのまま持ち歩くような感覚で本を持ち歩けたらどんなにいいだろう。これにiTuneのようなダウンロードサービスがついていたらまさに図書館を持ち歩くようなものだ。
ただ、どうしても気になるのが、品揃えの問題だ。現在ある電子書籍は多くの品揃えを用意してあるというが、選択の自由度という面では、「たくさんあります」ではなく、「なんでもあります」が必要だ。その点で、現時点で使えるものはいずれも力不足といわざるを得ない。しかしそれ以上に問題なのは、品揃えのジャンルの問題だ。通常、「読書」という行為は、1冊の本を最初から最後まで通して読む。小説などであればなおさらそうだろう。たくさんの本を一度に持ち歩く人がいないのは、重い、かさばるという物理的な問題もあるが、むしろ一度にたくさんの本を読む人がいないからだ。ということは、たくさんの本を収納できるというメリットは、辞書などの場合にはいいが、小説などの場合にはあまり役に立たない、ということにならないか。
私がたくさん持ち歩きたいのは、専門書やら論文やらの類だ。これらの書籍は、自分でものを書いたりするときのために、多くのものをつまみ読みしたり、以前に読んだものを読み返したりすることが多い。このために大きなかばんを持ち歩いたり、職場と自宅に同じものを置いておいたりするのだが、検索の時間もばかにならないし、もっといい手はないのかといつも思っている。私が電子書籍に最も期待するのはこの分野だ。すでに、PDF形式でウェブに載せたりすることはかなり一般的になってきている。これを大量にストックしておき、きれいに手軽に表示できる道具があったらぜひ欲しいと思う。もちろん、必要なのは道具だけではない。専門書や論文がすべてこうした形式で購入できるようになっていて、インフラのように一般化していてほしい。
知的財産立国をめざす日本としては、やる価値のある知的インフラの整備だと思うのだが。
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Comments
これから電子書籍はさらに増えるでしょう。
いつか紙の書籍と同じような大きさ、一覧性もよくなった電子書籍も登場すると思います。
電池も太陽電池を採用すれば、いつでも読めるようになります。(希望ですけど)
Posted by: 電子辞書大好き | January 11, 2009 07:09 PM
電子辞書大好きさん、コメントありがとうございます。
この記事は5年近く前のものですが、そのころから見て状況はだいぶ変化してきましたね。よく社会の発展について話をする際に、技術、企業、人の3要素が動かないとだめだ、といったようなことを言っているのですが、いずれの要素も、「あと一息」のところまで来ているように思えます。
もっとも、5年前も「あと一息」と思っていたので、けっこう長い「一息」ですね。浸透するまでになるには、技術ではなく人の「世代交代」を待たなければならないのかもしれません。
Posted by: 山口 浩 | January 12, 2009 12:23 PM
新しい VAIO(or NetBookなど) + データ通信カード
で、「どこでもネット」環境を持ち歩くというのは
どうでしょうか。データは、gmailを活用して、
どこからでも引き出せるようにするとか。
(「超超整理法」)
Posted by: ひろん | January 15, 2009 09:35 PM
ひろんさん、コメントありがとうございます。
PCは重いし面倒だし、というのがそもそも電子書籍を必要とする理由ですよね。あと、ネット接続に関しては、ぎりぎりのところで必ずしも信頼できないというのが現在のところの感想です。ご指摘のやり方なら今でもできるわけですが、いまいち便利という感じがしませんね。あと、私が持ち歩きたい文書ファイルの量は、Gmailで足りる規模ではありません。iPodでもTouchだとつらいですね。複数アカウントを使い分けるのはかなり面倒っぽいし。まあ、わがままってことなんでしょうけど。
Posted by: 山口 浩 | January 16, 2009 03:56 AM