「予測市場」への注目、高まる
市場メカニズムを用いて将来予測を行う「予測市場」への注目が高まっている。Time誌2004年7月6日号は、「The End of Management? 」と題して、Hewlett Packard、Eli Lilly、Microsoftなど、いくつかの有力企業で行われた企業内予測市場の試みを紹介した。
予測市場は、これまで実験経済学の分野で行われてきた実験市場の手法を予測に応用したものだ。市場の動向がものごとの将来をよくいいあてることは、以前から知られていた。有名な論文としては、たとえばオレンジジュースの価格にその年の天候に関する予測力があることを指摘したRoll (1984)がある。Boudoukh, Richardson, Shen and Whitelaw (2002)など最近の実証でも、整合的な結果が出されている。また、アイオワ大学で80年代から行われてきた選挙先物市場は、これまで対象となった選挙の75%について、その結果を世論調査などより適切に予測することができたことが知られている(米大統領選先物市場については本blogのこれとこれも参照)。
近年、このような仮想市場を予測のために利用しようとの動きがさかんになってきている。本blogでもとりあげたが(これ)、米国防総省(実際にはその傘下機関のDARPA: Defense Advanced Research Project Agency)は昨年、政変やテロの発生など政治的な情報をとるための先物市場を作ろうと計画した(FutureMAP Programと呼ばれていた)。この試みは議会の反対にあって頓挫したが、この手法を「less controversial」なマーケティングに使おうという民間企業の試みが相次いでいる。
民間企業における予測市場の応用事例は、規制の関係で仮想通貨を用いるものが多い。利用の形態は、大きく分けて2つある。(もう1つ、イギリスその他でギャンブルとして同種のサービスを現実通貨を用いて行うケースがあるが、これらは予測を目的としていないので、ここでは考えない。)1つは、「NewsFutures」や「Hollywood Stock Exchange」などのように、一般大衆を市場参加者とし、人々の考えや嗜好の動向をさぐるための予測市場、もう1つは、今回のTime誌がとりあげたような、企業内での意思決定サポートのために当該問題に詳しい内部者を集めるタイプの予測市場である(NewsFuturesの予測市場については、本blogのこの記事も参照)。この2つのタイプの予測市場について、それぞれどのように設計したらよいか、日本で実践するためのメソドロジーを確立するのが私の目下の研究課題だ。
予測市場については、少し前のHarvard Business Reviewでもとりあげられた。昨年DARPAの計画が頓挫した当初は、「市場万能の誤った考え方」といったとんちんかんな批判が多くみられたが、学界、ビジネス界の大きな流れを止めることはできなかった、といえよう。今後の展開が楽しみである。
参考文献
Boudoukh, Jacob.,Matthew Richardson, YuQing Shen, and Robert Whitelaw (2002). "Testing for Market Rationality: Lessons from the FCOJ Market." Working Paper, Stern School, New York University.
Roll, Richard (1984). "Orange Juice and Weather." American Economic Review 74, 5: 861-880.
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