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July 07, 2004

官僚を擁護してみる

官僚もたいへんだ、などと書くと、いまどきは怒られるかもしれない。「お前も回し者か」などという声も聞こえてきそうだ。別に回し者になったつもりもないし、金やらなにやらをもらっているわけでもないが、少し彼らの立場に立ってみたいと思う。

木村剛氏のblogで、同氏が選挙応援演説を行う旨を告知したところ、それが公職選挙法に触れるおそれがあるとのことで、記事が削除された。このときの総務省の対応について、同氏のファンを自認するHiroetteさんらが苦言を呈している。「良いとも悪いとも言えないグレーゾーン。OKという判例がないので判断のしようがない。万が一、問題となって揉めた場合は、裁判を起こして結果をみるしかない」という見解はあまりにも「官僚的」だと。

確かに、あまり親切な対応ではないと思う。「どうなっても知らないよ」といわんばかりにも聞こえる。もうちょっともののいいようがあるだろう、というのが正直なところだ。ただ、官僚の側が言いたいこともわかる。官僚は、法案を作ったりするので、その際それをどのように解釈すべきかについてそれなりの発言権があるが、ある法令が争いになったときに判断を下すのは、裁判官の仕事だ。官僚がいかに「そういうつもりではなかった」と主張したとしても、裁判官の判断が優先する。行政官僚には、それをコントロールする力はないのだ。その意味で、上記の官僚の「グレーゾーン」発言は、率直なところではないか。

官僚は、自分で判断することを極力避ける。保身のためでもあろうが、まず第一にはそれが官僚のとるべき態度だからだ。官僚は立法機関が制定した法律に基づいて行政を執行するのが仕事だ。行政権は幅広い裁量の余地を持つが、それが濫用されないよう、立法者によって法律のたががはめられ、その執行状況は場合によって司法の判断を受けることとなる。小学校で習った三権分立だ。行政官の裁量権は、法律が認めた範囲内で行使すべきものであり、それが範囲内かどうかグレーな状況であれば、本来の筋からいえば、立法を待って行動すべきだ。市民の側からみても、あまり独断で進めてほしくないと思う向きのほうが多いのではないか。何しろ官僚は選挙で選ばれてはいないのだし。

今回話題になっているのは、公職選挙法の条文ないしその解釈に関する問題だ。この点について、官僚が独自の解釈を打ち出していくべきと期待するのは酷だ。この法律は政治家にとって死活問題となる重大な法律だから、その解釈を政治家の判断なしに変えては政治家との間で大きな問題となる。法改正を考えるにしても、議員にとって重要な法律であるから、議員立法によって行うべきと考えるのが筋だろう。官僚の立場からすれば、「議員の先生方のイニシアチブで進めるべき問題」ということになるのだろう。私は、それはまっとうな判断だと思う。少なからぬ議員たちから疎まれている(のではないかと想像する)木村氏に対してお墨付きを与えるかのような発言をすれば、その官僚自身が「ポジション」をとったことになる。それを避けたいと思う考えを否定するのは、少しかわいそうな気がする。

選挙活動におけるITの利用について、数年前に議論が行われたものの最近は動きがないとのことだが、これは官僚ではなく政治の責任である。一般的に考えれば、与党は既存のチャネルを通した有権者とのコミュニケーションに優位を持っている(だから与党になったのだろう)であろうから、新たなチャネルの開拓について消極的になる可能性はじゅうぶんにある。新しもの好きで批判的な連中とでも思っているのかもしれない。ITで安上がりな選挙活動ができるようになると、資金力のある自分たちに不利に働く、と恐れているのかもしれない。しかしここはどうしても政治のイニシアチブが必要だ。なんとか一歩踏み出していただけるといいのだが。とりあえず私たちにできるのは、ITを使った選挙活動の必要性、有用性について世間に訴えていくことだろうと思う。

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Comments

興味深く読ませていただきました。

別に同氏のファンだから苦言を呈しているわけではないですけどね(笑)。

私も山口さんを見習ってなるべく公正にものを見るように心がけてますが、官僚については山口さんほどその行動パターンに造詣が深くないので、想像するのに限界がありますね。

それって一般の人には全然理解されないレベルってことだから、なんともはや残念だなあと思います。

何か普通にコミュニケーションを取れる方法ってないのでしょうかね。立場上それは不可能ということでしょうけど。

Posted by: Hiroette | July 08, 2004 10:07 AM

興味深く読ませていただきました。

別に同氏のファンだから苦言を呈しているわけではないですけどね(笑)。

私も山口さんを見習ってなるべく公正にものを見るように心がけてますが、官僚については山口さんほどその行動パターンに造詣が深くないので、想像するのに限界がありますね。

それって一般の人には全然理解されないレベルってことだから、なんともはや残念だなあと思います。

何か普通にコミュニケーションを取れる方法ってないのでしょうかね。立場上それは不可能ということでしょうけど。

Posted by: Hiroette | July 08, 2004 10:08 AM

Hiroetteさん、コメントありがとうございます。
「だし」に使ってしまって申し訳ありません。批判とかしてるつもりではまったくありませんので、お許しください。確かに「苦言」と「ファン」は関係ありませんね。不適切な記載でした。
私の言いたかったのは、官僚の皆さんは「スーパーマン」ではない、ということです。木村氏のように自分の発言の責任を自分で取れる立場でもありませんし。で、私たちが官僚に「正義の味方」的な期待を抱くのは彼らにとって荷が重いだろう、と思ったわけです。マスコミが揚げ足取り主義を改めれば少しは変わってくるのでは、と期待しているのですが。

Posted by: 山口 浩 | July 08, 2004 11:54 AM

いえいえ批判とは受け取ってないので大丈夫ですよ。

私が一番感じるのはとにかく官僚にはどうやら発言の機会がなさそう、ってことです。自分の発言に自分で責任を取れないというのは、どう受け止めればよいのでしょうね。何が責任を受け止めてくれるのでしょう?

マスコミもいい報道もしょうもないのもあるのだろうと思いますが、やっぱり揚げ足取りは簡単だしわかりやすいから、発行部数を伸ばすためにはそこから脱却というのはなかなか今は難しいのでしょうか。

なんだか頭がこんがらがってきました。また考えて何か書いてみようと思います。

Posted by: Hiroette | July 08, 2004 02:18 PM

山口さま、ありがとうございます。
>官僚は、法案を作ったりするので、その際それをどのように解釈すべきかについてそれなりの発言権があるが、ある法令が争いになったときに判断を下すのは、裁判官の仕事だ。官僚がいかに「そういうつもりではなかった」と主張したとしても、裁判官の判断が優先する。

ここの箇所を読んで、今回の著作権法改正が、全ての輸入CDの国内販売を禁止してしまうメカニズムとして働くのではないかという理解に至りました。
しかし、これがある意味、常識だとすると、文化庁著作権課長ってのは、やはり、輸入CD全般の禁輸をもくろんでいる、ってことになる。

Posted by: miyakoda | July 16, 2004 08:03 AM

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