Bloggerの社会的責任
Blogが既存のマスメディアの少なくとも一部を代替ないし補完するものとなりうる、との主張はあちこちにみられる。本blogでも先日、「マスメディアのコモディティ化」として、マスメディアの機能のうち①事実を調査することについては引き続き価値を有するが、②事実に対して評価を加えることについては、blogなど他のメディアのほうがより説得力があったりするケースが少なくない、といったようなことを主張した。Bloggerたちは「身近な目利き」であり、既存のマスメディアに代わって、ニュースの見方を提供する、というわけだ。
Blogをやっている人々にとって、このことは喜ぶべきことだろうか。認知度が上がった、価値を認められるようになったと。どうも、そう喜んでばかりもいられないのではないか、という気がする。
私たちは日頃、マスメディアに対して、不満を持つことがよくある。やれ売らんかなのセンセーショナリズムに走ったとか、見方が偏ってるとか、内容がくだらんもっと他に書くべきことがあるだろうとか、書き方が不適切で誤解を招いたり人を傷つけたりしてるぞとか。これらの不満は、つきつめればマスメディアが負うべき社会的責任の裏返しだ。言論の自由の守護者として公正公平な立場からの情報を伝える義務があり、社会的に重要な意義をもつテーマを伝える責務を負い、人々の人権に配慮したりしなければならない。それをきちんと果たさないから不満を持つわけだ。
もしblogがこれまでマスメディアのもっていた機能の少なくとも一部を代替ないし補完すべき存在と主張するのであれば、マスメディアが負っていた社会的責任の一部をも引き継ぐべき、と考えるのは不適切だろうか。その「読者」たちへの責任として、bloggerは彼らに対し誠実であるべきだ、というのは筋違いだろうか。
「メディア」としてのblogは、比較的少人数の人のための「ご近所の目利き」として情報の取捨選択やその解釈を伝えている。むろんblogは個人が(会社が、という場合もあるかもしれないが)自分の書きたいことを書き散らしていい場として登場したものだ。責任だとか配慮だとか、そんなうざいことを言われちゃかなわん、という人も多かろう。本来言論の自由、表現の自由で守られるべきものだ。制限を受けるなんてもってのほかだ、ということになる。
しかし、もしメディア的なものの一部を代替・補完するとなれば、負うべき責任もちがってくるのかもしれない。法的な責任の重さが変わってくるかどうか、専門家ではないからわからないが、重くなったとしても不思議はない。多くの読者を持つblogの書き手は、それが多くの人の目にふれることを承知の上で書いているのだ。社会的責任のほうは、さらに重いと考えてもいいかもしれない。
むろん、すべてのblogがこうあるべきという議論ではありえない。今日何を食べたかを記録するようなblogに社会的責任、といってもピントがずれた議論でしかないだろう。そんなことは必要ない。ただ、社会的に重要な課題について発言する場合、特に多くの読者が読むことが期待される場合、法律では要求されなくとも、既存マスメディアにおける配慮の度合いとは比較にならなくても、書き手としてはやはり一定の配慮をすべきなのではないかと思う。人々を煽るためのセンセーショナルな議論やあからさまな罵倒は、人を説得する道具としてはやはり不適切ではなかろうか。
私たちは、blogを書くとき、ここまで覚悟しているだろうか。この種の議論は理屈だけでは説得力がない。現実にこれを書くか書かないかといった状況に陥ってみないとわからないのだが、少なくとも私は、ここまでの厳しい覚悟はできていないように思う。難しい問題だが、ぼちぼちと考えていきたい。
※8月24日追記
Ideal Breakさんよりトラックバックをいただいた。沖縄で起きたヘリ墜落事故に関連して、写真ジャーナリズムにおける(地元の)アマチュアの役割を指摘しておられる。確かに、イラクの写真はなかなか撮りに行けないが、地元で起きたできごとの写真などについては、地元のアマチュアのほうがすばやく対応できる。このことは、「Bloggerの社会的責任」という観点からはどうとらえたらいいのだろう。これも「ぼちぼち考えて」の仲間に入れておこう。
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Comments
コメントで教えていただいて立ち寄りました。
とりあえずごあいさつまで。
Posted by: ゆう | August 21, 2004 01:55 AM
ゆうさん、
コメントありがとうございました。またお立ち寄りください。トラックバックも歓迎いたします。「プロとアマ」の話、面白いですね。参考になりました。とりあえずこちらからはトラックバックさせていただきます。
Posted by: 山口 浩 | August 21, 2004 02:20 AM
はじめまして!
大変共感し、考えさせられること、多々ありました。
私の「今日何を食べたかを記録するようなblog」でも、不特定な対象に向かって何かを発すると言うことは、それなりの社会的責任を伴うものだと、常々思っています。
急に発達発展したインターネットの世界は、ブログに限らず、まだまだ未成熟で、洗練されていない面があるのは当然ですが、やがてそれが、自分たちの頸を締めることにならないように、自覚する必要があるのでしょう。
ブロガーの一員としての、認識を新たにしました。
この問題については、私も自分のブログの中で、機会ある毎に取り上げていきたいと思っています。
Posted by: memoire | September 29, 2004 08:06 AM
memoireさん、コメントありがとうございます。
もちろんblogにもいろいろあるので、すべて堅苦しく考える必要はないと思いますが、もう少し考えたほうが、と思うケースもあるようなので、気になっていました。自分に対する戒め、という意味もこめて、気をつけていきたいと思います。
Posted by: 山口 浩 | September 29, 2004 01:00 PM
山口さん、はじめまして。わざわざコメントを頂いて恐縮です。
私も山口さんに反論するつもりでTBした記事を書いたのではなく、自分が記事を書くときの社会的責任について整理したまでです。
(もし反論のような誤解を与えたのであれば申し訳ありません)
山口さんの仰りたい主旨が「ものを書くときにはもっと気をつけよう」と言う意味であれば、私たちが以前議論した「ブロガーズ・マナー」と相通ずるところがありますね。(私のブログのプロフィールに明示しています)
今回は、この記事のおかげで自分が記事を書く場合の社会的責任についての考えを整理できたので、感謝しています。
Posted by: あざらしサラダ | October 01, 2004 08:42 AM
山口さん、わざわざTBとコメントありがとうございます。
10/30に、今回の記事を「週間!木村剛」にTBしていたので、もしかするとリンクを辿ってそちらにコメント等があるかも知れないと思い、急遽TBさせていただきました。
お恥ずかしいことに、先に「OLD」にTBしてから移転したことに気づいたので、両方にTBしてしまいました。(笑)
私も、「大丈夫ですか?」という意味でこの記事を書きましたが、別にこれ以上、木村氏を批判するつもりはありません。
ただ、あれだけの有名人が、実名も出しているブログで感情いっぱいに発言しているところを見て、「強い人だなあ」と感心しています。
Posted by: あざらしサラダ | November 03, 2004 03:42 PM
山口さん、こんにちは。
またまた、ちょっと議論がヒートアップしているところに私の記事をTBしました。
もしかすると、記事のリンクをたどってこちらにお邪魔する方がいるかも知れませんので、あらかじめTBにてお知らせします。
この手の話題になると、みなさんなぜだか盛り上がるようです。
Posted by: あざらしサラダ | December 06, 2004 08:26 AM
あざらしサラダさん
教えていただきありがとうございます。切込隊長氏と湯川氏の議論は、うかつにさわれないぐらい熱くなってますね。私はシステムリソース上の制約の関係で、しばらくはこれ以上つっこまないことにします。ただ、ヒートアップしたときには、違いをさがす前にまず共通点をさがせ、というのが私の"words of wisdom"なんですがね。
Posted by: 山口 浩 | December 06, 2004 09:34 AM