郵政民営化:業務分離とイコールフッティング
郵政民営化問題では、民営化後の郵便、郵貯、簡保など各業務にかかる組織の分割や職員の身分などが大きな関心事になっている(ニュースいろいろはこちら)。見ていると、議論はいくつかのカテゴリーに分かれるようだ。
(1)民営化によるサービス低下への不安
(もうけ主義になって、地方を切り捨てたり
サービス水準を下げたりするのではないか)
(2)郵貯・簡保の健全性への不安
(国家保証がなくなるのはいやだ)
(3)職員の身分に関する不安
(公務員でなくなるのはいやだ)
(4)時期に関する不満
(早すぎる、遅すぎる)
(5)業務分離の必要性
(今は各業務間でリスクがどんぶり勘定で
隠れたリスクになっている)
(6)民間とのイコールフッティング
(郵政公社は優遇されている)
(7)民業圧迫
(焼け太りだ、競争で地域金融機関の経営が
危なくなるなど)
いずれも重要な論点なのだが、よく思うことが2つある。(5)と(6)についてだ。
(5)の業務分離について、リスクを遮断するために各業務を別会社にするとのことだが、町の小さな個々の郵便局の職員は同じ窓口会社の職員だ。同じ職員が、郵便物を処理し、貯金の払い戻しをし、簡保の契約手続きをする。さらに郷土の名産品の通信販売を受け付け、国債を販売し、くじ(お年玉つき年賀はがきね)も売る。郵便、郵貯、簡保の3業務の「会社レベル」のリスクは分社化によって「遮断」(持株会社下の同一グループだから完全な遮断とはいいがたいが)されるが、窓口レベルではどうか。民間金融機関でも銀行と証券、銀行と信託など共同店舗ができるようになったが、カウンターは分けられ、消費者が同一と誤認しないように配慮されている。実際、2002年9月に出た銀行と証券会社との共同店舗に関するガイドラインをみると、
①窓口の区別、業務主体の表示など、適切な措置を講じること
②顧客に対して、証券会社が銀行等と別法人であること、証券会社が提供する商品・サービスは銀行等が提供しているものではないことを十分に説明すること
などと書いてある。またUFJホールディングスのサイトの説明には、「銀行が証券会社の業務の一部を代行したり、証券会社の申込用紙等への記入方法につき銀行の役職員がお客さまに説明することなどは禁止されています。」ともある。おそらく、顧客データの分別管理も重要な遵守項目のはずだ。これらの規制は、消費者保護のために設けられたものだ。ならば民営化後の郵便局において、これらが守られないでよいはずがない。小さな郵便局で、そこまでできるのか?どうするつもりなのか?
ここで話は(6)につながってくる。これまでのイコールフッティングに関する議論は、どうも「郵政公社は優遇されていて、民間金融機関は競争上不利だから、優遇措置をなくすべきだ」という論調が多いような気がする。しかしこの議論は、郵政民営化に反対する理由となる。これまで国民が享受していたメリットを失うくらいなら、民営化などしなくてよいではないか、というわけだ。
しかしイコールフッティングというなら、もう1つ逆の方向性、つまり民間金融機関のほうを郵政公社に近づける、というやり方も考えられるのではないか。民営化後の郵便局では、同一持株会社傘下の別会社が1つのカウンターで宅配便を受け付け、預金の払い戻しをし、生保・損保の契約手続きをする。さらに物販業務を行い、国債やら投信やらを販売し、ついでに宝くじも売る。実際にそれらを行うのは、同一グループ内のサービス会社職員だ。
そもそも共同店舗規制緩和の趣旨を考えたら、一定のガイドラインの下で、同一グループでない複数社が共同店舗を設けることも可能だろう。コンビニなどは、サービス会社の有力候補となるのではないだろうか。ローソンはヤマト運輸を切って郵政公社と提携したが、たとえば街角のセブンイレブン各店が窓口をもって、いま町の郵便局がやっているのと同程度の銀行・保険・証券業務をできるようになったらどうだろう。今でもコンビニには銀行と宅配便と物販が共存しているから、正直どのくらいメリットがあるのかわからないが、少なくとも業務範囲や店舗網の点で民営化後の郵政グループといい勝負になるチャンスは生まれるはずだ(乱暴な比較だが、コンビニは全部で全国に約4万店ある。うちセブンイレブンは約7,000店。対する郵便局は全国で約24,000局。コンビニ大手と地方の数社が組めば郵便局に匹敵するネットワークができるかもしれない)。
同じ民営会社なのだから、郵政グループに許して他の金融機関に許さないという取り扱いはありえない。郵便局ではこれまでもやっていたのだから、きちんとした枠をはめれば消費者保護に問題がないことも証明済みだ。逆にいえば、もし一般の金融機関に対して許さないことを、民営化後の郵政グループに許す理屈もない。ならば民間金融機関は、イコールフッティングの主張をむしろ積極的に考えられないか。郵政民営化は民間金融機関にとって業務範囲拡大のチャンスかも、という発想は楽観的にすぎるだろうか。
やや(というか、かなり)暴論めいているが、半分は本気でありうべしと思う。イコールフッティングの議論からというだけでなく、郵便局の業態が消費者のニーズに合っているならば、他の民間企業にも開放するのが道理だと思うからだ。もし暴論だとしても、少なくとも、イコールフッティングの問題は必ずしも国民にとって不利になるものとは限らない、ということはいえる。地方などのサービス水準低下問題に関しては別のやり方だって考えられる。どうも郵政民営化問題をめぐる議論を見ていると、国家保証(虫がよすぎる。他人のコスト負担で自分の貯金を守ってもらおうという発想だ)や公務員の身分(語るに落ちる。公務員てそんなにおいしいのか!)、民業圧迫(民間金融機関同士で民業圧迫も何もない。圧迫するほど市場に食い込んでいるなら地域金融機関がなくとも地域金融機能そのものは守られるはず)あたりのどろどろした部分が本音で、サービス水準だの利便性だのといった理由はお題目(というか、隠れ蓑)に使われているような気がしてならないのだ。この暴論が、問題の構造を冷静にとらえなおすきっかけにならないか?ならない?だめ?
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Comments
いやぁ、最後の部分に核心あります。
ホントに、その通りで・・・。
本音は、既得権維持なのに、表はお題目のようにつらつらと
語るにおちるとはこのことです。
あ、山口さん、ブログ、一般にとけこめるようにココログで
やりなおしましたので、リンクいただければ幸いです。
Posted by: キルゴア中佐 | August 27, 2004 11:14 AM
コメントありがとうございます。
ただ私は、「公務員」とひとくくりにまとめてしまうのはかなり乱暴な物言いだとも思っています。いろいろな人がいますからね。実力のある方々の中には、公務員であることをむしろ制約だとか損な役回りだとか思っている方も少なくないようです。逆に「既得権益」という基準で整理すれば、民間企業の中にもこれにすがっている方はたくさんいるはずです。
Posted by: 山口 浩 | August 27, 2004 05:47 PM