アテネオリンピック:メダル獲得ランキング
アテネオリンピックが閉幕し、マスコミのメダル狂奏曲もやっと終わった。選手を追いたて、メダルをとらなきゃ人間じゃないかのように煽り立てる熱狂的な空気は去った。このタイミングで、メダル獲得数という指標について少し考えてみるのも悪くないと思う。
巷ではメダル、特に金メダルの獲得数そのものが話題になるが、各国の事情のちがいを無視して議論するのは、少し不公平でもあるように思う。大きい国もあれば小さい国もあり、また豊かな国もあればそうでない国もあるからだ。そこで、(あまり時間をかけたくないのでほんの簡単なものだが)、ちょっとした指標を考えてみた。名づけて「メダル獲得効率」だ。
本来なら、各国の送った選手団の人数に対するメダル獲得数を真っ先に考えたいところだが、資料が見当たらなかった。そこで、スポーツを支えるのは国民、そしてスポーツ活動を裏打ちするのは経済ということから、①人口、②名目GDPの2つでメダル獲得数を割ってみた。つまり人口1人あたりのメダル獲得数と、GDP1単位あたりのメダル獲得数だ。メダル獲得数は、金メダルのみと全メダル合計の双方で計算した。つまり、次の4つの指標でランキングを作成してみたわけだ。
(1)人口1人あたり金メダル獲得数
(2)人口1人あたりメダル獲得総数
(3)名目GDP1単位あたり金メダル獲得数
(4)名目GDP1単位あたりメダル獲得総数
国別メダル獲得数はYahoo!スポーツより。
GDPは世界銀行のWorld Development Indicators Database(2004年7月)より2003年数値でUSドル表示。人口も同資料より。ただし北朝鮮、キューバなど一部の国については、各国資料より国際金融情報センター調べによる。
結果はこの表のとおり。左から2列は金メダル獲得数とメダル獲得総数によるランキングで、残りは上記の4つの指標によるランキングだ。
表をみると、次のようなことがいえる。
①各国は、おおざっぱにいえば「先進国型」と「途上国型」に分かれる。
先進国型とは、1人あたりのメダル獲得数は多いがGDPあたりの獲得数は小さいタイプをいう。途上国型はちょうどその逆だ。たとえば日本は金メダル獲得数では5位、メダル獲得総数では6位であり、1人あたり金メダル獲得数では33位であるのに対し、GDP1単位あたり金メダル獲得数では52位とふるわない。したがって、先進国型となる。
②日本とアメリカはいずれも先進国型に属し、「メダル獲得効率」においてほぼ拮抗している。
今大会でも、アメリカのメダル獲得数は圧倒的であった。しかしこれを「メダル獲得効率」の観点からみるとややちがっている。アメリカの人口は日本の約2.3倍あるため、人口1人あたりの金メダル獲得数は、日本の0.0001258に対し、アメリカは0.0001203だ。このほかの指標でもほぼ拮抗している。言い換えれば、実は今回の日本の成績は、アメリカのそれに匹敵するほどのものであると考えることもできる。
ただ、日本・アメリカとも人口が多いため、1人あたりのメダル獲得数でみると、せいぜい中位国だ。高位を占めるのは人口の少ない国となる。1位のバハマに引き続き、ノルウェー、台湾などの国々は、1人あたりのメダル獲得数が文字通り1桁ちがう。
③韓国も先進国型に属するが、比較した4つの指標すべてにおいて、日本を上回っている。
韓国も日本と同様、先進国型のメダル獲得効率を示しているが、比較した4つの指標すべてにおいて、日本より高い順位にある。たとえば人口1人あたりの金メダル獲得数は、日本の0.0001258に対し、韓国は0.0001878となっている。韓国恐るべし。「韓流」はここでも健在だった。
③中国は途上国型の特徴を示している。
次回オリンピック開催国となる中国の、今大会での気合の入れようは相当なものだった。結果的にも際立った活躍ぶりを見せたといってよい。しかし人口1人あたりでみると、世界一多い人口が災いして、ランキングのはるか下に甘んじている。乱暴にいえば、人口が日本の10倍ある中国なら、金メダルを日本の10倍とらないと互角とはいえない、という考え方もある。この点では中国いまだし、といえようか。しかし当然ながら、GDP1単位あたりのメダル獲得数では、国平均の経済水準がまだ高くないため効率がよいとの結果が得られている。
④メダル獲得効率No.1はオーストラリアに決定!
メダル獲得効率が最もよい国はどこだろうか。当然ながら、人口1人あたり、GDP1単位あたりの双方の指標でみて優れていなくてはならない。細かい計算はしていないが、目の子では、No.1はオーストラリアだ。オーストラリアは人口1名あたりの金メダル獲得数が4位、GDP1単位あたりの金メダル獲得数も25位と、いずれも悪くない位置につけている。
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Comments
実は私も国別メダル獲得数を小耳に挟んで、国力や人口の相対的な関係が非常によく現れた数字だと感じていた所でした。それを早速、数字を出してデータ化してしまうとは!恐れ入ります。
今いろんなデータを数値化して、関係性を見出す仕事をしていまして、数字から見えてくるデータというものが楽しくて仕方ありません。
データさえあれば更に、競技ごとに「獲得数/競技人口」で国別の比率を出すのも面白そうですよね。日本の柔道なんかは当たり前の結果が出そうな気がするし、逆に陸上などはモンゴロイド系国家はあまり振るわない様な気がします。
Posted by: さかまた | August 31, 2004 02:59 AM
いやーー、この記事とっても面白かったです!そうそう、こういう風に物事を見てみたいのよ、っていうのをさらっと分析して表にまとめてしまうところがすごいです。
私もオリンピックに対するスタンスって発展途上国と先進国は違うなーと漠然と感じていたものをこうやってはっきりと目に見える形にしてくださったのがとても面白かったです。
そのうちどんな原因がオーストラリアがメダル獲得の効率が一番良いという結果につながったのかなんていうことがわかったらまた面白いでしょうね。こういうのを文化方面とかノーベル賞バージョンとかほかのものも見てみたいなーなどという欲がどんどん湧いてきてしまいます(笑)。
Posted by: Hiroette | August 31, 2004 09:51 AM
コメントありがとうございます。
時間がなくて突っ込めませんでしたが、やろうと思えばいくらでも「掘れる」テーマだと思います。冗談半分、まじめ半分で(メダル獲得数を説明する関数なんかも推定できそうだし、その関数からの乖離をみれば「がんばった度」ランキングもできるし)。Hiroetteさんの言われるとおり、文化面でもやったら面白そうですね。すぐに思いつくのはノーベル賞あたりでしょうか。ここでやった程度のことは簡単にできますので、皆さまもいかがでしょうか。こういうのを集めると本になるかも?(もう出てるかも?)
Posted by: 山口 浩 | August 31, 2004 10:09 AM
面白いです!見れば見るほど発見がありそうですね。
>皆さまもいかがでしょうか。
って、簡単じゃないです。気が遠くなります。歴代○○獲得数とかにすると時系列も絡みますよね。ある意味人類の歴史。うーむ・・。
Posted by: あんぽんたん | August 31, 2004 10:13 PM