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September 04, 2004

BSE問題:私はこう理解した

BSE問題の対応策が固まりつつあるようだ。この問題はどうもものの言い方が回りくどくてわかりにくいので、自分の理解のためにちょっと整理してみる。もしちがっていたら、たいへん恐縮だが教えていただけるとありがたい。

1 経緯と現状
日本は、2001年10月から肉用牛全てについて解体時にBSE検査を行っている(全頭検査)。
全頭検査を行うのは、消費者の牛肉に対する不安を解消するための措置として導入された。
全頭検査にはかなりのコストがかかる。

日本は、アメリカ産の牛にBSEが見つかったため、2001年12月からアメリカ産牛肉の輸入をストップしている。
現状では、全頭検査を行わない限りアメリカ産牛肉の輸入は不可能と考えられている。
アメリカでは全頭検査は行っておらず、正常に歩くことのできない牛、および30ヶ月以上の牛のみを検査対象としている。また解体時の危険部位の除去も一部の牛についてのみ行われている。
アメリカは、牛肉が自国の主要な食品であることもあり、全頭検査はコストがかかりすぎ現実的ではないと考えている。
アメリカは日本の対応に不満をもっており、全頭検査を見直すよう求めた。
日本国内にも、全頭検査は行き過ぎだとの意見があり、規制緩和を求める動きがある。
日本政府はこれらに応えて検討を行っており、まもなく結果が出るらしい。

BSEの人間への感染を防ぐためにどのような対策が必要かについては、専門家の間でも議論がある。
全頭検査は不要だという意見と、必要だという議論がある。
全頭検査でも若い牛の場合にはBSE感染を検出できないというのが専門家の一致した見方である。
若い牛を見分けるためには本来個体識別が必要だが、アメリカには個体識別のしくみはない。ただしアメリカ側は、農業販売促進サービス(AMS)の品質制度保証プログラムなどにより、牛の月齢確認や特定危険部位除去など日本の衛生基準には対応できると主張している。

2 対策検討の根拠となる日本・アメリカ双方の当局の認識
もともと人間がBSEに感染するリスクはきわめて低い。
20ヶ月以下の若い牛については、全頭検査でもBSEを検出できない。
解体時に危険部位を除去することにより、感染の危険は最小限に抑えられる。

3 考えられている対策
20ヶ月以下の若い牛については、全頭検査の対象からはずす。

4 考えられる影響
現在日本の牛肉の93%は20ヶ月以上(霜降りにするため)であり、今回の変更によっても、大部分の牛肉は「全頭検査」の対象である(ただし今後日本でも検査逃れをねらって若い牛の肉が増えてくる可能性はある)。
一方アメリカで消費される牛肉の8割は20ヶ月以下であり、大半の牛肉は日本への輸出が可能となる。つまり実質的に、アメリカ産牛肉の輸入解禁となる。

5 私はこう理解した
20ヶ月以下の若い牛について全頭検査の対象からはずすのは、検査してもBSEを検出できないからである。
これらの若い牛について全頭検査の対象からはずして食用にしても、BSE感染のリスクは増えない。それはもともと全頭検査という手法が、若い牛からBSEが感染するリスクを除去するためには無力であるからである。
そもそも当局は、特定危険部位を除去する限り、BSEが人間に感染するリスクは低いと考えている。すなわち全頭検査は危険除去のためというより、消費者を安心させるために必要だと考えている。
アメリカ側の対策について日本政府は、アメリカ政府が大丈夫だというのだから大丈夫だろうと考えている。
日本の牛肉で20ヶ月超のものは、今回の政策変更によっても、BSE感染のリスクが増すことはない。
日本およびアメリカの20ヶ月以下の牛の肉を食べるなら、低いのだろうがBSE感染のリスクがあることを承知しておくべきである。
日本とアメリカの20ヶ月以下の牛肉は、月齢の確認および特定危険部位の手法においてどちらの手法が安全かによって、安全性が異なる。一般的には、日本の手法のほうが安全性は高いとする意見のほうが多いようにみえる。

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Comments

・牛一頭あたりの第一次スクリーニング検査(エライザ法による)
は、一頭あたり3000円程度であり、コスト的には高くないと
私は考えます。

・日本では狂牛病の牛の最低年齢は21ヶ月とされていたと思
います。

このことから、検査の精度が上がればもう少し(どのくらいの
精度で検査できるようになるかはわかりませんが)早くから
わかる可能性もあると思います。

従って、20ヶ月では、長すぎると私は考えています。

全頭検査の必要性については私はわかりませんが、スクリーニ
ング検査のコストが食肉の販売コストに対して十分に低いので
あれば、全頭調査を続行しても良いと私は思います。

Posted by: endo | September 04, 2004 11:00 PM

endoさま、情報ありがとうございました。
1頭あたり3,000円が高いのかどうかよくわかりませんが、ありえない金額というほどでもない感じですね。専門家の見解がどのようにして出されたのかわかりませんが、とりあえず私たちにはコントロールできないわけですから、自分で気をつけるしかない、ということなんでしょう。

Posted by: 山口 浩 | September 04, 2004 11:55 PM

山口さん、私も3回程BSEの話しをまとめました。
http://music.exblog.jp/886466/
http://music.exblog.jp/801758/
http://music.exblog.jp/740709
が、日本でも専門家の話しを読んだ方が信用おけるように思います。
農業情報研究所(WAPIC)のホームページにある国際獣疫事務局 名誉顧問 小澤先生などの話しが一番判り易いと思います。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/05_byouki/bse/bse6.pdf

もうご覧になりましたか。

Posted by: maida01 | September 05, 2004 12:17 AM

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結局、「危険部位除去」だけでは、BSE対策の要にはなり得ないことがよくわかる記事をUPします。飼料管理がなっていない牛など食べられませんね。20ヶ月以下なら輸入OK、などと適当な回答を作成した「日米実務者会合?」のメンバー個人個人が責任を持って尻拭いをしていただきたいものです。罷免請求とかできないのかな? ■農水省:「BSEに感染した牛は、骨を取り除いても食肉処理の過程で肉が汚染される可能性がある」 農水省、OIEに牛肉輸入条件緩和�... [Read More]

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