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September 28, 2004

「性」の値段

最初にことわっておくが、いわゆる「その筋」の話ではない。期待された向きは、別のサイトをあたってもらいたい。

最近(以前のものも含んでいるが)目にした論文が、このキーワードでくくれるのではないかと思い、書いておくものだ。それぞれまじめな論文だが、一般的な観点からはつっこみどころ満載だと思うので、「お楽しみ」いただきたい。ただし私につっこまれても著者ではないので、念のため。

①「A hedonic analysis of marriage transactions in India: estimating determinants of dowries and demand for groom characteristics in marriage

②「Sexual capital: an extension of Grossman's concept of health capital

③「The price of 'Man' and 'Woman:' a hedonic pricing model of avatar attributes in a synthetic world

①は、インドの花嫁持参金相場の決定要因を分析した論文だ。知っている人は知っているだろうが、インドには、結婚に際して花嫁側から花婿側に持参金(「dowry」と呼ばれる)を贈る習慣がある。日本の結納金とは逆である。著者は、インドの田舎であまり教育の高くない層の結婚時の持参金支払い額に関するデータを集め、持参金の額が、花嫁の年齢、教育、身長に影響を受けることを発見した。当然、よりよい条件の花嫁のほうが安い持参金ですむ。上記の花嫁の属性差を考慮すると、持参金の実質的な額は、時の経過とともに下がってきているという。 持参金の額はインド北部よりも南部で高い。インドは北部のほうが南部より発展しているから、この差は社会の発展状況や花嫁の属性が南北で異なる段階にあることからくるものと思われる。どうも、持参金の習慣は、社会の発展とともに薄れつつあるようだ。

②は、「sexual capital」という耳慣れない概念を提唱する論文だ。「性的資本」とでも訳すのだろうか。「人的資本」(human capital)ということばがあるが、その一種である。人的資本といえば、一般的には「経済を支える生産要素としての人間の質」のような意味合いをと考えられているだろう。しかしこのほかにも、「健康資本」(health capital)という考え方があって、これは良好な健康状態を保てるような人間の属性、たとえば健康を大事に考える習慣のようなものを「資本」と考えるものである。本論文の「sexual capital」は、この考え方を性行動の分野に応用したものだ。具体的には2つあって、1つは性感染症への感染を防ぐような習慣や行動様式、たとえばパートナー選びにおける習慣や、そのパートナーが選ばれる母集団の質といったものである。もう1つはパートナーを見つけることのできる能力である。これらの「性的資本」は、他の種類の人的資本と同様、本人の選択、経験や遺伝によって獲得される。抽象的な言い回しだが、よく考えてみるとかなり「すごい」話だと思う。自分の場合はどうか、少し考えてみるといい。

③は少し毛色がちがっていて、オンラインゲーム内でのキャラクターであるアバターの取引価格を分析したものだ。著者が分析したEverquestを始め、本来、ほとんどのオンラインゲームのルールではアバターの売買は禁じられているが、実際にはかなり多く行われている。その価格は売り手と買い手の合意で決定するわけだが、著者はそれが売買されるアバターのどんな属性に影響されるかを統計的に分析した。 その取引価格に最も影響を与えるのは、そのアバターのレベルだが、性別も重要な要素となっている。能力が同じアバターで比較すると、男性アバターの取引価格の平均は$333ドルであるのに対し、女性アバターの取引価格はそれより約12~17%、額にして約40~55ドル低いとの結果を得た。この論文は、著者の意図とはまったく別に、フェミニストたちの強い反感を買った。著者は事実を分析しただけだが、フェミニストにいわせれば、女性の価格が安いなどという論文を書くことは女性差別を助長する振る舞いであるというわけだ。本人に聞いたがだいぶ叩かれて参ったそうである。確かに、この差の原因の一部に女性差別があることは想像に難くない。ただ、著者が指摘するとおり、他の理由もあったはずである。オンラインゲームの中では、女性アバターは男性アバターから優しくされることもあれば、いじわるをされることもある。Everquestの中では、全体として、女性アバターであることのほうが不利だ、ということなのだろう。他のゲームではどうなのだろうか。ラグナロク・オンラインなどでは、女性アバターはいろいろ優しくしてもらえる、ということもあるようだが。
ちなみにこの論文は、 「Kyklos」57巻2号173-196頁に掲載されているが、SSRNのほうが全文を読むことができるので、こちらを参照した。


文献リスト

①Dalmia, Sonia (2004). "A hedonic analysis of marriage transactions in India: estimating determinants of dowries and demand for groom characteristics in marriage."Research in Economics 58, 3: 235-255.

②Michael, Robert T. (2004). "Sexual capital: an extension of Grossman's concept of health capital." Journal of Health Economics 23, 4: 643-652.

③Castronova, E.(2003). "The price of 'Man' and 'Woman:' a hedonic pricing model of avatar attributes in a synthetic world." CESifo Working Paper Series No. 957.

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Comments

就職、ということを考えてみたのです。「んー、男だったらとる(採用する)のになー」という言葉、いままで特に気にもとめませんでしたが、娘がだんだん大きくなってくるにつれ、けっこう気になってきました。

職種によってもかなり違いそう。

Posted by: miyakoda | September 29, 2004 08:20 AM

miyakodaさん、コメントありがとうございます。
考えてみれば、この話題はどこにでも題材がありそうですね。私がとりあげたのは、私たちがふだんあまり意識しないであろう部分にもあるぞ、という意味もあります。

Posted by: 山口 浩 | September 29, 2004 01:04 PM

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