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September 29, 2004

「攻殻機動隊」の世界、現実に

攻殻機動隊」は、士郎正宗原作のマンガだ。押井守監督による映画とともに、世界的に高く評価されている。この中に登場する、ネットワークに直結した脳というモチーフは、米映画「マトリックス」にも大きな影響を与えたといわれるが、この他にも、義手や義足のように、脳や脊髄以外の全部を機械に入れ替える「義体」を装着したサイボーグや、自分の陰になって見えない部分を衣服に映すことで自らの姿を消す「光学迷彩」など、多くの斬新なアイデアがみられる。

この「攻殻機動隊」で見られたいくつものアイデアが、各地の研究者らによって、現実のものになろうとしている。

以下は、以前すでにネットで流れたネタであり、このエントリーはそれをまとめただけのものだ。目新しい内容はないので、知っている人はすでに知っているはずだ。時間がたってニュースへのリンクも切れてしまっている。「なんだ」と落胆されぬよう、あらかじめ、念のため。

(1)脳波によるコントロール
「攻殻機動隊」では、多くの人々が脳をネットに接続できるようにしている(「電脳化」する、と呼ばれる)。脳からの信号を直接取り出し、ものを操作したり、他人とネット経由で会話したりする。サイボーグの体である「義体」の操作も、脳からの信号で行う。そうなると、肉体などの外見は自分と他人を分ける手段にはならない。このあたりが「攻殻機動隊」の重要なテーマだった。

脳からの信号で直接何かを操作するなどとは荒唐無稽に聞こえるが、これが実際に研究され、成果を挙げているのだ。

米セントルイスのバーンズ・ユダヤ教病院の神経外科医らは、てんかん患者の脳に取り付けた電極から信号を取り出し、ゲーム機の操作を行う実験に成功した(記事はCNNからだが、すでに抹消されている)。専門誌「ジャーナル・オブ・ニューロ・エンジニアリング」(と記事にはあったが、こういう名のジャーナルはない)に発表されたところによると、この実験は、もともとてんかん患者の発作の原因を調べるため頭部を切開し、脳の表面に多数の電極を取り付ける手術があったことに注目し、患者の中から4人の被験者を募って行ったものである。

実験に先立ち、被験者は、脳からの信号によってゲーム機を直接操作するために、数分間の簡単な訓練を受けた。その後30分以内に、4人全員が脳からの信号によって標的を狙う方法を習得したという。ゲームは33個の標的をねらうものであったが、的中率は74~100%に達した。

これまでにも、脳に電極を埋め込んで信号を伝達する実験は、サルや人間などでいくつか行われてきた。今回の実験の新しいところは電極を脳の奥深くではなく大脳皮質の表面に取り付けることで、これにより本人の体への負担を大幅に軽くすることができる。

ただし、この場合も電極からの信号はコードを通してゲーム機に伝達されるため、被験者は長期間にわたって拘束される点は変わらない。実用化のためには、無線による信号伝達システムの開発が今後の課題となる。こうした機器を恒久的に装着できれば、病気や事故で手足の自由を奪われた人々向けの義手の開発が可能となるが、実用化までには「今後何年間も動物実験などを繰り返す必要がある」という。

またヨーロッパでは、脳からの信号で動かす義手の研究が進められている(記事は有料)。

(2)光学迷彩
光学迷彩とは、衣服に自分の後ろの光景を映し出すことによって、自分の存在を視覚的に「消してしまう」技術だ。「攻殻機動隊」では、隊員や戦車の装備として重要な役割を果たしている。もうかなり有名になったが、これが実際に研究されている。

研究しているのは東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻の舘教授だ。実際に、「攻殻機動隊」から着想を得ているらしい。まだ一方向から見たときしか迷彩として機能しないが、高い注目を集めている。

また、アメリカの企業は自動車向けの光学迷彩の開発に取り組んでいる(記事はこちら)。

迷彩ということで、つい軍事的利用のみが頭に浮かぶが、必ずしもそういうものばかりではない。手術時に術者の手の部分を透明化することでその操作を支援したり、飛行機などのコックピットの床面が透明になっかたかのように地上映像を提示することで操縦を支援したりすることが考えられている。

(3)ヒューマノイド型遠隔操作ロボット
人間のかたちをしたロボットを遠隔操作で動かそうというものだ。「攻殻機動隊」の原作第2巻では、「デコット」と呼ばれていた。映画「イノセンス」でも、草薙素子がロボットを遠隔操作して戦うシーンがある。これにより、たとえば危険な場所での作業を行うとか、あるいは身体に障害がある等の理由で屋外に出られない人がロボットを遠隔操作することで社会生活に参加するなどの応用が考えられる。事例として、(㈱テムザック)、愛知エースネット日立製作所と松下電工などがある。

これらの技術については、少々グロテスクに見えたり、軍事的な利用が可能だったりすることから、あまり快く思わない向きもあるだろう。技術の進歩そのものを止めることはできない。ある技術者が開発をあきらめても、別の技術者が開発するだけだ。せめてよりよい利用方法を考えている技術者の手によって開発されたほうがよい。特に日本の技術者は概して軍事的な利用には消極的だ。彼らにエールを送りたい。

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Tracked on September 30, 2004 12:25 AM

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