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September 05, 2004

灰かぶりキャベツとリスクに強い社会

浅間山の噴火で降灰被害を受けたキャベツ農家を支援しようと、群馬県高崎市の高崎高島屋が4日、灰のついたキャベツの販売を行ったところ、あっという間に売り切れたらしい(記事はこちら)。

高崎高島屋は、キャベツを浅間山に近い群馬県長野原町の被災農家から1,000個を直接仕入れ、ほぼ原価並みの1個50円で販売した。洗って灰を落とせばじゅうぶん食べられるとあって、約3時間で売り切れたという。

よくこうした災害の際に、作物が被害を受けることがある。物理的になくなってしまったり傷んでしまったりするものもあるが、多くの場合はちょっと灰をかぶったとかほんのわずかに傷がついたとか汚れたとか、そういった理由で商品価値がなくなったとして廃棄されてしまう。

ほとんど影響がないのだから売ってもいいのではないかと思うのだが、日本の消費者は厳しいから通用しない、ということらしい。気を遣っているのはわかるのだが、ひょっとして気を回しすぎかもしれない。消費者の側は、だまされるのは好まないだろうが、きちんと説明されれば(多少は安くする必要もあるだろうが)、案外灰をかぶったキャベツでも受け入れるのかもしれない。

灰をかぶったキャベツを排除してしまう社会と、きちんと承知の上で受け入れる社会。後者のほうがリスクに強い社会といえないだろうか。今回のケースでは、キャベツは原価50円で売られたわけだから、高崎高島屋は通常のキャベツほどの売上を得なかったわけだが、それでも農家には代金が入ったわけだし、高島屋にしたって別の商品の売上が増えそうだから、社会全体として、捨ててしまうよりははるかに損害が少なくなる。噴火により灰をかぶるリスクが同じでも、それによって受ける損害の額が小さければ、結果としてリスクへの耐性が強いことになる。

リスクマネジメントにはさまざまなツールがある。火の近くに可燃物を置かないなどリスクの原因そのものを絶つ方法、スプリンクラーのように望ましくない事態が発生した場合の損害の額を小さくする方法、保険のように損害が発生したときにその保障を得る方法などだ。今回の一件は、もう1つのやり方があることを教えてくれた。「損害を損害と感じない」というアプローチだ。私たちが灰のかぶったキャベツを「洗えばいい」と割り切れれば、「灰をかぶったキャベツ」という損害はなくなる。あたかも初めから存在しなかったかのように。どこにでも応用できる類のものではないだろうが、少なくともこういう方向に進むことは悪くないと思う。

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Comments

最初、ニュースの映像を観た時に、素直に「食えるじゃん」と思ったクチです。ちょっと痛んだ青果物くらい、「オマケしとくよ」の一言で済ませてしまえばいいと思うんですが…。ちょっと前は八百屋の軒先には泥の付いた野菜なんて当たり前だった様な気がします。日本の食品業界は消費者も生産者も間違った方向性で変に気を使い過ぎているのかもしれませんね。

Posted by: さかまた | September 06, 2004 03:18 AM

小売店からすると、仕入れ先は大事な取引先です。
契約農家などなら、さらに大事でしょう。
いい農作物を仕入れたい小売店は、血眼でいい農家を探すと聞いたことがあります。
高島屋は今回の販売で、取引先を守れたし、取引先との絆強化もできたのなら、単純な売上以上の得をしたのだと見ました。
これを販売に踏み切ったのは英断でしたね。

Posted by: ミズタマのチチ | September 07, 2004 11:44 AM

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