〈恋愛結婚〉は何をもたらしたか――性道徳と優生思想の百年間
加藤秀一「 〈恋愛結婚〉は何をもたらしたか――性道徳と優生思想の百年間」、ちくま新書、2004年。
「恋愛結婚」なる行動が当然のことと考えられるようになって久しい。この本は、日本における「恋愛結婚」の起源とその発展の経緯を記した本なのだが、実はこの本のテーマはもう1つある。
それは後でふれるとして、ひとこと感想をいえば、「必読」。目からウロコ、という表現があるが、おおげさにいえばそれはまさにこの本のためにあることばではないか、と思う。
ネタばれにするのが惜しいとすら思う(ぜひ買って読んでもらいたい)のであまり書きたくないが、いくつかポイントとなる点を挙げておく。
①明治時代に欧米から輸入された「恋愛」(「ロマンチック・ラブ」の訳語として)なる高邁な概念は、現実そのものである「結婚」に取り込まれ、新たに設けられた戸籍制度と結びついて近代国家を支える制度となっていった。
②やがて融合して「恋愛結婚」となったこの概念は、優生学と結びつき、よりよい国造りのためにより優れた子を「生産」するための道具立てとして広められていった。「恋愛結婚」とは「優生結婚」だったのだ。
③優生学の思想は恋愛結婚と結びつくことによって社会の隅々にまで刷り込まれ、現在に至るまでその「遺伝子」(この比喩自体が優生学思想の残滓だ)をあちこちに残している。
上記でわかるとおり、この本のもう1つのテーマは「優生学」ないし「優生思想」だ。かつて恋愛結婚は、よりよき子孫を残すためによりよい相手を選ぶ手法であった。今でも出生前診断、受精卵検査など、人間をその遺伝的形質によって選別しようとする動きは随所にみられる。著者はこうした動きに対して警鐘を鳴らしたい、というのが意図するところらしい。むしろ「恋愛結婚と優生思想」の関係に関する本だ、と整理したほうがわかりやすい。
それはともあれ、この本でとりあげられた事実の1つ1つが「目からウロコ」もの。へぇボタン連打間違いなし。昭和初期に書かれた「女性文化講話」なる本の副題についてのクイズが出ている。女性のライフコースをあらわすことばを連ねたものだが、さて空欄に入るのは何か。
「入学・青春期・結婚・( )・母の再教育」
答えはぜひ本を読んでいただきたい。
この本で1つわからなかったのは、著者が生殖に関する女性の自己決定権(産む、産まないを決定する自由)を支持していることと、優生思想への反感との関係だ。女性が産む、産まないを決定するということは、その当該胎児にすれば生きる権利を与えられるか奪われるかを母に握られるということになる。このような決定権は、胎児の側からすれば優生思想となんら変わりないのではないかと思うのだが。
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