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October 03, 2004

2004年イグ・ノーベル賞:カラオケが平和賞に!

9月30日、イグ・ノーベル賞の授賞式が行われた。ご存知の方も多いと思うが、この賞はノーベル賞のパロディで、「人々を笑わせ、そして考えさせる」研究などに対して与えられるものである。主催しているのはアメリカのハーバード大学で、毎年盛大な授賞式が行われている(公式サイトはこちら。Wikipediaによる解説はこちら)。

毎年抱腹絶倒なのだが、今年のものもなかなか力作ぞろいだ。日本からは、カラオケの開発者が平和賞を受賞した。

イグ・ノーベル賞は、ノーベル賞と同様、いくつかの分野に分かれている。2004年のイグ・ノーベル賞受賞者と対象となった研究などは次の通り。分野、受賞者、対象となった研究等、参考事項の順に記す。

医学賞
ウェイン・ステート大学Steven Stack氏(米)、およびオーバーン大学James Gundlach氏(米)。
カントリー・ミュージックが自殺に与える影響」の研究に対して。
Social Forces, vol. 71, no. 1, September 1992, pp. 211-218.

物理学賞
オタワ大学のRamesh Balasubramaniam氏と、コネチカット大学およびイェール大学Michael Turvey氏。
フラフープの力学に関する研究とその公表に対して。
Ramesh Balasubramaniam and Michael T. Turvey (2004). "Coordination Modes in the Multisegmental Dynamics of Hula Hooping," Biological Cybernetics, vol. 90, no. 3, March 2004, pp. 176-190.

公衆衛生学賞
シカゴ農業科学高校からハワード大学に移ったJillian Clarke氏。
床に落ちた食べ物の安全性に関する「5秒ルール」の科学的正当性の探求に対して。
解説:床に落ちた食べ物について、よく「ちょっとぐらいなら平気」といって食べてしまうことがある。この人は、それがどの程度妥当であるかについて研究したものだ。アメリカでは「5秒」が相場なのだろうか。私の個人的な経験では、日本では「3秒」といっている人が多いと思う。「3秒ルール」だ。この時間が国によってどのようにちがうのか、その原因は何なのかというのも今後探求すべき面白いテーマだと思う。

化学
英国コカ・コーラ社
卓越した技術をもって、これまで予防的な理由により消費者が利用できないようになっていたテムズ川の水をミネラル・ウォーター「Dasani」に転換したことに対して。
参考記事はこちら
解説:市販されるミネラル・ウォーターは、いわゆる名水を源流に近いところで採取しているもの、というイメージがある。しかし英国コカ・コーラ社は、「Dasani」が、ふつうの水を浄化して用いていることを明らかにし、話題を呼んだ。

工学賞
Donald J. Smith氏とその父、故Frank J. Smith氏(米)。
バーコード禿の特許に対して(U.S. Patent #4,022,227)。
特許の概要は、「本人の地毛のみをもって、部分的な禿を覆う整髪の方法。この整髪方法では、本人の毛髪を3つの部分に分け、注意深く互いに重ねていく作業が求められる。」だそうだ。
参考サイトはこちら
上記サイトも、特許の文書も必見。バーコード禿を英語で「combover」ということをご存知だった方はいるだろうか。まさに「目からウロコ」ものだ。

文学賞
アメリカン・ヌーディスト研究ライブラリー(米)。
ヌーディストの歴史を、誰もが見られるように保存したことに対して。
ただし、上記のサイトはかなりまじめなもので、一部の方々が期待するようなコンテンツはないようなので念のため。その道の方々向けのリゾート案内もあって興味深い。

心理学賞
イリノイ大学アーバナ・シャンペイン校Daniel Simons氏とハーバード大学Christopher Chabris氏。
人々は何かに集中しているとき、その他のもの――たとえゴリラのスーツを着た男であっても――を容易に見落としてしまうことを示したことに対して。
Daniel J. Simons and Christopher F. Chabris (1999). "Gorillas in Our Midst," Perception vol. 28, pages 1059-74.
こちらは参考
デモはこちら

経済学賞
バチカン(ローマ・カトリック教会)。
ミサのインドへのアウトソーシングに対して。
参考記事はこちらこちら
解説:アメリカなどのカトリック教会では、親戚への追悼など一部のミサの執行をインドのカトリック教会に委託している。それを橋渡ししているのがバチカン、ということのようだ。現在アメリカでは、インドへのアウトソーシングによって、アメリカでの雇用が奪われている(ご参考として、丸紅経済研究所の杉浦氏による解説をあげておく)として問題視する動きがある。そうしたアウトソーシングの動きが、産業界だけでなく、まさか教会でもやっていたとは!というのが面白いポイントだ。日本の宗教界でも、考えてみてはいかがだろうか。永代供養なんていうサービスは、件数が増えればたいへん手間のかかるものであるから、中国やタイにアウトソーシングするとか。いや、フィリピンから看護士を受け入れるように、後継者不足の寺院に住職として迎え入れるという手もある。

平和賞
井上大祐氏(日本)。
カラオケの発明を通じ、人々が互いに対する忍耐力を鍛えるためのまったく新しい方法を提供したことに対して。
解説:われらが日本勢は、今年は平和賞だった。「好ましからざる他者との共存」は、現在の社会にとって、かつてないほどの重要性をもっている。それを知らず知らずのうちに訓練できるカラオケという道具に対し、私たち日本人はもっと誇りをもってもいいのかもしれない。

生物学賞
ブリティッシュ・コロンビア大学Ben Wilson氏およびサイモン・フレーザー大学Lawrence Dill氏(いずれもカナダ)、スコットランド海洋科学協会Robert Batty氏、アーハス大学Magnus Whalberg氏(デンマーク)、スウェーデン国立漁業協会のHakan Westerberg氏。
にしんがおならによってコミュニケーションを行っていることを示したことに対して。
Magnus Wahlberg and Håkan Westerberg (2003), "Sounds Produced by Herring (Clupea harengus) Bubble Release," Aquatic Living Resources, vol. 16, pp. 271-5.
Ben Wilson, Robert S. Batty and Lawrence M. Dill (2003), "Pacific and Atlantic Herring Produce Burst Pulse Sounds," Biology Letters, vol. 271, pp. S95-S97.

ちなみに、日本はけっこうイグ・ノーベル賞大国で、多くの受賞実績がある(先ほどリンクを張っておいたWikipediaの解説を参照)。1994年の物理学賞は「地震はナマズが暴れることによっておきるという説の検証」を7年間にわたって研究した気象庁に贈られている。1999年の化学賞は、「夫のパンツに吹きかけることによって浮気を発見できるスプレーの開発」によって、セーフティ探偵社の牧野武氏が受賞した。2002年の平和賞であるタカラの「バウリンガル」は記憶に新しいのではないだろうか。

いずれも劣らず「笑わせ、考えさせる」。中には受賞者にとってあまり名誉とはいえない理由が挙げられている場合もあるが、多くは本人たちにとってもうれしいことのようだ。授賞式には多くの受賞者が出席しているようだし。

個人的には、経済学賞がもっと笑えるものだったらいいのに、と思う。今年のものも含め、経済学賞には笑えないものが多い。経済は笑えないものなのだろうか。そんなはずはない。「笑える経済研究」を探して、ぜひ推薦してみたい。自分も、という方は、担当者であるMarc Abrahams氏(marca@chem2.harvard.edu)にメールで、または下記の住所に郵送で。詳細はこちらを参照。

IG NOBEL NOMINATIONS
c/o Annals of Improbable Research
PO Box 380853
Cambridge MA 02238
USA

参考図書
マーク・エイブラハムズ著、福嶋 俊造訳「イグ・ノーベル賞 大真面目で奇妙キテレツな研究に拍手! 」、阪急コミュニケーションズ、2004年。

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