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October 12, 2004

中国ビジネスと法務:女子十二楽坊に思う

日本でも人気の中国女性12人による音楽グループ、女子十二楽坊の創始者である音楽プロデューサー、王暁京氏が、著作権侵害訴訟を起こされている(記事はこちら)。

女子十二楽坊は2001年にデビューしたが、訴訟を提起した音楽プランナーの張鉄軍氏によると、それに先立つ1999年、王氏に対し、イメージ・デザイン、メンバーの選考法、パフォーマンス計画などを語ったという。張氏は、王氏による著作権と企業秘密の侵害に対して、象徴的な5ドルの損害賠償を請求している由。

「ふーん」と通りすぎてしまいそうになったが、ちょっと待て。この問題よく考えるとけっこう興味深い。

これまで中国は、著作権侵害大国として知られてきた。正規のライセンスのあるものが10%を切ってしまうようなお国柄だ。かつては日本もそうだったから、別に中国だけを悪者にする気はないが、とにかく、著作権などあってなきがごとし、という印象があったのは否定できないだろう。

その意味では、今回のニュースに関してまず、中国人の権利意識に注目したい。たまに、中国人には著作権という権利そのものについての意識が薄いといったことをあたかも国民性であるかのように語る人がいるが、どうもそういうことではないらしい(参考記事はこちら)。自分のオリジナリティについては、ちゃんと権利意識をもっているのだ。ということは、中国発のコンテンツなどが将来増えてくると、日本だってどんどん訴えられる可能性が出てくるということになるだろう(参考記事はこちら)。以前、中国の著作権事情は2008年以降大きく変わる、という説を聞いた。北京オリンピックの年だ。高い価値を持つ自国発(多くはIOCのライセンス付きではあるだろうが)のコンテンツを手にすることで、中国人の著作権意識が一気に高まるのではないか、という読みだ。しかし今回のニュースをみると、ひょっとしてそんなに長く待つ必要はないのかもしれない。それは日本にとってチャンスでもあるが、同時にリスクでもあろう。

というのも、中国では今、弁護士も猛烈な勢いで増えているからだ。彼らの多くは都市を拠点にするだろうから、早晩過当競争が起きるにちがいない。そうなれば、アメリカのように、救急車を追いかけたり、金のありそうなところを所かまわず訴えたりするような弁護士たちも出てくるかもしれない。今回のニュースの件は、賠償請求金額が象徴的なものだというところからみて、弁護士というよりは本人のこだわりなのであろう。しかし今後、弁護士らの「リーガルサービス」が市民生活に広く普及していくようになると、どんどん訴訟が起きる社会になる可能性があるのではないか、と想像する。中でも、日本企業などは格好のターゲットになるだろう。その際対応を誤れば、民族間の対立問題にまで発展しかねないリスクを内包している。

もちろん、ただ弁護士が増えているだけではない。法律もどんどん整備されているらしい。毎月新しい法律ができ、企業もそれによってどんどん対応を変えていかなければならない状況なのだそうだ。さらに気になるのは、法をどのように執行し、また判断していくか、つまり行政と司法の問題だ。「人治の国」とよくいわれるが、行政、特に地方政府などが、中央の定めた法に必ずしも従わない運営をする例は未だによく聞く。また、中国の裁判官は、最近まできちんとした司法試験制度がなかったため、必ずしも法に精通しているとは言いがたい場合もあるらしい。法を運用する行政や司法の体制が法の整備に追いつかない場合、日本の常識では通用しない状況がまだまだ続くことは充分に考えられる。

なんというか、まさに「虎の穴」的状況なのだろう。危険を承知で飛び込むか否か。法務は虎の穴に挑むための鎧となり、矛となる。どう使うか、企業の手腕が問われる。

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