小型ロケットでテロ!?
10月14日午前の副大臣会議で、北海道のNPO法人が一般向けの販売を発表した小型ロケットについて、テロへの転用を警戒する声が出た(記事はこちら)。このロケットは、北海道大学等の研究グループが開発し、NPO法人「北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)」が10月1日から1基210万円で販売を始めた再使用型ハイブリッドロケットだ(記事はこちら)が、テロに使われたら一定の威力を発揮する可能性がある」との指摘があったらしい。
用心にこしたことはないのだろうが、それにしてもだ。
このロケットの研究開発事業は、「ハイブリッドロケットによる成層圏観測、微小重力環境提供事業」として、経済産業省の平成 16 年度地域新生コンソーシアム研究開発事業のテーマに採択されたものだ。大学の研究やロケット技術者の教育などを目的としている。
ロケットは全長1.6メートル、直径89ミリで、打ち上げ時重量は10.5kgある。燃料は固体のアクリル、酸化剤に液体酸素を使うハイブリッド型と呼ばれるタイプで、これにより従来の小型ロケットに比べ、打ち上げ単価を10分の1にすることができたという。ジュースの350ml缶程度のスペースに500g以下の試験装置なども搭載できる。機体はパラシュートで降下後に回収して再利用も可能となっている。
このロケットに対し、今津寛防衛副長官が「非合法な手段で起爆装置や爆薬が入手可能なら、テロなどに使われたら一定の威力を発揮する可能性がある」と指摘した。これに対し、小此木八郎経済産業副大臣は「火薬類取締法などの規制があり、その面からチェックできる」と述べた。岩井国臣国土交通副大臣も「航空法で適切な対応をとる」と同調し、関係省庁が監督することを確認した。
こうした懸念に対し、開発にあたった北海道大学の永田晴紀助教授は「燃料や噴射器を除く、模型として販売する。打ち上げにはノウハウが必要で、悪用はできないはずだ」としている。
つまらぬご苦労を背負わされたものだ。心から同情する。
このロケットが積載できるのは、350ml缶程度の大きさで、500g以下のものだ。秒速300mで高度1kmに達する力があるから、プラスチック爆薬と起爆装置とか、炭疽菌とか、そういったものを積載して飛ばせば、それは確かにそれなりの威力を持つだろう。しかし、テロ目的でその程度のものを運ぶなら、210万円も出し、数ヶ月も待って、世間の注目が集まるロケットを購入するまでもない。ラジコン飛行機で充分だ。防衛庁がこれまで、ラジコン飛行機がテロに使われる危険性を考えて何らかの対策を打ってきたとでもいうのか。
それに、そもそも問題なのは「非合法な手段で起爆装置や爆薬が入手可能」かどうかということのはずだ。繰り返すが、起爆装置や爆薬が入手可能なら、ロケットでなくても、ラジコン飛行機でも中古の軽自動車でも、小包でも紙袋でもその運搬手段となるのだ。地下鉄サリン事件で、サリンがビニール袋に入れられ、手で運ばれたことを忘れたのか。真に危険なのはロケットではない。もちろん危険性はあるだろうが、ニュースで伝えられる限りでは、テロリストがとうてい選択しそうにない手段だ。
もちろん、防衛副長官がどの程度「本気」で懸念を表明したのかはわからない。一般論としての話や、雑談の一部のようなものを、マスコミが不釣合いに取り扱った可能性も充分ある。少し考えればわかることをさも一大事であるかのように取り上げるのは、報道機関の見識を疑いたくなる。ともかく、どう考えても筋違いだ。井戸端会議的なコメントとして、「もっと他に考えるべきこと、やるべきことがあるだろうに」といいたいところだ。
これがきっかけで横やりが入るような事態も、現実には充分ありうる。こうした、配慮を欠いた発言や報道が、真摯な研究の取り組みや、地域経済活性化に向けての奮闘に水を差すような事態にならないことを祈る。
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