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October 16, 2004

米大統領選市場:ブッシュ優勢は変わらず

米大統領選挙は、3回の候補者討論会を終了し、終盤戦に入った。マスコミではケリー候補が支持率を逆転したとか、いやブッシュが逃げ切ったとか、いろいろ言われている。アイオワ大学の「米大統領選得票率予測先物市場」の動向でみる限り、情勢は日々変動してはいるものの、全体としての趨勢は、この選挙戦全般を通して、さして変わったとはいえない(10月15日時点までのグラフはこちら)。

この市場で取引されている予測先物は、大統領選における各候補の得票率がそのまま価格となる。つまり得票率が55%なら、価格は$0.55だ。したがって最終的な得票率がわからない現時点での価格は、当然ながら最終結果に関する期待値となる。

10月15日時点の終値は、ブッシュ大統領が$0.507、ケリー候補が$0.489だ。確かに統計的誤差といってもいい僅差にみえる。10月13日に開かれた第3回めの討論会の後、ブッシュ大統領は急落、ケリー候補は急上昇し、一時期価格は逆転した。しかしケリー候補の価格がブッシュ大統領を上回ったのは、10月12、13日の2日間だけで、価格差も$0.001~$0.003とほんのわずかにすぎず、その後またブッシュ大統領の価格が上回る状態が続いている。一時期に比べてブッシュ大統領の価格水準は下がっているが、それでもグラフを見ていただければ、「ブッシュ大統領のリードは変わらず、ケリー候補との差のみが上下する」という、全体としての趨勢が変化しているようには見えないことがわかるだろう。もちろん事情が今後変化しないとは限らないが、これまでの予測市場の価格の動きからだけ見る限り、再びブッシュ大統領がリードする方向に向かう動きとなる可能性が高いように思われる。

勝者総取り型市場」(Winner-Takes-All Market)のほうは、よりはっきりした傾向を示している。この市場で取引される予測先物は、最終的に勝った候補者の銘柄1単位につき$1.00がもらえる。つまり選挙結果判明前の価格は、その候補が勝利する確率に関する期待値だ。10月15日時点の終値は、共和党が$0.580、民主党が$0.422となっている。この市場の価格動向を示すグラフ(アイオワ大学作成。こちら)を見れば、第3回目の討論会以降、むしろブッシュ大統領が再び勢いを盛り返しているトレンドにあることがわかる。

再び得票率市場に戻ると、10月7日にケリー候補の価格が$0.65と大きなスパイクを示しているが、これは取引時の間違いか、支持者による市場操作の試みである可能性が高い。このような動きは7月にもあった(その時点ではまだ民主党候補は一本化されていなかった)。予測市場において、こうした意図的な価格操作の可能性が予測力に対する信頼性を下げるという批判がなされることがあるが、過去の例からみても、今回の例からみても、一定数以上の多様な投資家層を持つ市場の価格調整力は想像以上に高い。価格変化に乗じようとする投機家も、価格操作を試みる者も、市場の厚みの中に吸収されていく傾向があるようだ。

以下比較のため、10月5日以降の支持率に関する報道を振り返っておく。マスコミの報道がかなり偏ったものであるような印象を受けるのだがいかがだろうか。もともと「犬が人間をかむ」ニュースを求めるのがマスコミであるから、現職大統領の支持率が落ちる話を好むのはわからなくもないが、記事にも出てくるが、メディアは総じてケリー候補を支持する傾向が強く、それがゆえに世論を誘導しようとする報道を行っているふしが感じられなくもない。

10月7日
ABCが10月3~5日に選挙登録した有権者に行った最新の世論調査によると、ブッシュ大統領の支持率は49%、対するケリー候補の支持率は47%で、両候補の差は2ポイントに縮小した。2~4日時点では、ブッシュ大統領が51%、ケリー候補が45%で、6ポイントの差があった。

10月8日
ロイター通信とゾグビーが10月4~6日に行った最新の共同世論調査によると、投票を行うと答えた有権者1,217人のうち、ブッシュ大統領を支持すると答えた人は46%に、またケリー候補を支持する人は44%となった。さらに8%の人は分からない、と答えている。このうち、イラク問題を最大の争点と見る有権者はケリー候補を支持する傾向があり、ケリー候補支持が51%、ブッシュ大統領が39%。一方、テロとの戦いを最大の争点と考える有権者は反対にブッシュ大統領を支持する見方が多く、支持率はブッシュ氏が68%、ケリー氏が26%となっている。 経済問題を最大の争点に挙げる人の間では、両候補への支持が分かれており、ブッシュ大統領46%、ケリー候補が44%となっている。

10月8日
AP通信が10月7日に公表した調査では「選挙が今日行われたら誰に投票するか」との設問に、50%がケリー候補、46%がブッシュ大統領と回答。9月の調査ではブッシュ陣営が7ポイント先行していた。

10月8日
タイム誌が10月6~7日に成人1,211人を対象に電話で行った世論調査(10月8日発表)によると、米大統領選が今行われた場合にブッシュ大統領に投票するとの回答は、ケリー候補と同率の45%となった。9月30日の第1回テレビ討論前に行われた前回調査ではブッシュ大統領が48%、ケリー候補が42%だった。支持率は一時ブッシュ大統領がリードしていたが、テレビ討論後、伯仲していることが明確になった。ケリー候補に対する女性の支持率は50%で、前回調査の44%から6ポイント上昇。ブッシュ大統領に対する女性の支持は43%から38%に急落した。「好ましい人物」では、ブッシュ大統領65%に対しケリー候補70%と、ケリー候補が逆転した。

10月11日
USAトゥデー・CNN・ギャラップの世論調査(10月9~10日実施)によると、10月8日の第2回テレビ討論会終了後、ケリー候補への支持率がわずかながらブッシュ大統領を上回った。登録有権者のうち投票に行くと答えた有権者の間では、ケリー候補の支持率が49%、ブッシュ大統領支持が48%と、わずか1%ポイントの差ながらケリー候補の支持がブッシュ大統領を上回った。登録有権者ベースでは、ケリー、ブッシュ両候補が48%できっ抗した。 9月30日の第1回討論会が終わった時点では、投票に行くと答えた有権者の間で両候補が49%と並び、登録有権者ベースではブッシュ大統領支持が49%、ケリー候補支持が47%と、ブッシュ大統領への支持の方が多かった。 一連のテレビ討論会が始まる前の9月24~26日にかけて実施された調査では、ブッシュ大統領支持が52%、ケリー候補支持が44%だった。

10月12日
9月30日の第1回討論会ではケリー候補圧勝との評価が一般的で、両候補の支持率も急接近したが、10月8日開催の第2回討論会の結果については各メディアも明確な判定を下しておらず、支持率にも劇的な影響はなかった模様だ。調査機関ゾグビー社とロイター通信が10月11日に発表した合同調査結果では、ケリー候補支持が47%に対しブッシュ大統領支持は44%だった。この調査は10月8~10日に1,214人を対象に行われ、10月8日夜の第2回討論会をはさんで実施された。またCNN、ギャラップ社など3社が10月9~10日実施した調査(793人対象)も、ケリー候補が49%対48%でわずかにリードした。一方、10月11日付ワシントン・ポスト紙が報じた世論調査結果(10月6~9日実施、2,407人を対象)では、ブッシュ大統領支持が51%に対しケリー候補は46%だった。

10月12日
10月12日付のUSAトゥデー紙が報じた世論調査(第2回テレビ討論後の10月9~10日実施)によると、大統領選で投票するつもりだという人の49%がケリー候補を支持しており、ブッシュ大統領支持の48%を上回ったが、ほぼ互角だった。両陣営が接戦を演じている17州に限ると、ケリー候補48%、ブッシュ大統領45%だった。

10月12日
ゾグビー社とロイター通信が10月12日に発表した世論調査(10月9~11日実施)によると、ブッシュ大統領とケリー候補の支持率はともに45%となり、激しいデッドヒートを展開している。

10月12日
CBSニュースの最新世論調査(10月9~11日実施、1,183人対象)によると、ブッシュ大統領のリードが縮小した。投票すると答えた有権者のうちブッシュ大統領の支持率は48%、ケリー候補は45%、ラルフ・ネーダー候補は2%だった。誤差はプラスマイナス3%ポイントであった。

10月12日
激戦の続く米大統領選挙で、米国内の新聞各紙が支持候補を明確にし始めた。月刊誌エディター・アンド・パブリッシャー(電子版)の調査によると、10月12日現在、ケリー候補を支持する新聞が13紙、ブッシュ大統領支持を表明したのは10紙で、ケリー候補が優位に立っている。 

10月12日
ワシントン・ポスト紙が毎日公表している世論調査によると、10月12日に掲載された調査結果では、ブッシュ大統領のリードが縮小したことが判明した。 投票すると答えた有権者のブッシュ大統領支持率は50%で、ケリー候補は47%。登録有権者の支持率は、ケリー候補48%、ブッシュ大統領46%で、ケリー候補が2ポイントのリードとなった。
10月11日に掲載された調査では、登録有権者の支持率は、ブッシュ大統領、ケリー候補とも47%で並んでいた。投票すると答えた有権者の支持率は、ブッシュ大統領が51%、ケリー候補が45%だった。 調査は、10月9~11日にかけて1,808人の成人を対象に実施したものだ。うち登録有権者数は1,575人、投票に行くと答えた有権者の数は1,232人で、誤差はプラスマイナス3%ポイントだった。

10月14日
10月13日付のアリゾナ・リパブリック紙は、ケリー候補が44%の支持を集め、ブッシュ大統領の49%と5ポイント差に迫ったと報じた。同紙は「アリゾナは激戦州になった」と伝えている。 

10月15日
ロイター通信とゾグビー社が10月13日の第3回テレビ討論終了後の夜も含めた最近3日間で行った調査によると、ブッシュ大統領の支持率は48%で、ケリー候補の44%を上回った。前日の支持率は、ブッシュ大統領が46%、ケリー候補が45%で、その差はわずか1ポイントだった。ブッシュ大統領の支持率上昇は、浮動票層の支持率が改善したことや共和党支持者が強い反応を示したことによるものとみられる。 ゾグビー社のジョン・ゾグビー社長は、「一部の浮動票層で支持率を拡大したことが、(ブッシュ)大統領にとって朗報だ」と指摘した。「彼が再選に値すると答えた割合は、前回の調査では18%だったが、今回は4分の1(25%)近くに上昇した」と話している。ゾグビー社長は、登録有権者で投票に行くと答えた人のうち6%は浮動票層に属するとみている。

10月14日
CBSテレビは10月13日、第3回テレビ討論会に関する世論調査を実施した。「ケリー候補が勝った」と感じた有権者が39%、「ブッシュ大統領が勝った」と答えた有権者は25%、「互角だった」とした有権者は36%だった。またCNNテレビの調査によると、52%の視聴者がケリー候補勝利と感じた一方、ブッシュ大統領が勝ったとみる人は39%にとどまった。

10月14日
ABCニュースが発表した世論調査結果によると、ブッシュ大統領とケリー候補の支持率は、ともに48%で、選挙戦の最終盤を迎えても、互角の争いが続いている。ラルフ・ネーダー氏の支持率は1%だった。調査は10月11~13日に、有権者1,803人を対象に実施した。誤差はプラス・マイナス3%ポイントだった。

10月14日
10月13日夜、ブッシュ大統領とケリー候補による第3回討論会がアリゾナ州テンピのアリゾナ州立大学で行われた。
この討論会直後にABCテレビは世論調査を発表、ケリー候補が勝利したとの回答が42%、ブッシュ大統領が41%で、1ポイント差で互角だったと報じた。
最後となる第3回討論会は、第1回と同様、司会者の質問に両候補が交互に答える方式で行われた。今回も冒頭、「今後、子供や孫が安全な世界で生活できますか」との質問が出され、ケリー候補は「私なら安全な世界を実現してみせる。現大統領は戦争に走り、安全に程遠い重荷を国民に負わせてしまった」とブッシュ大統領批判の口火を切った。これに対して、ブッシュ大統領は「テロリストを攻撃し続ければ、安全でいられる。われわれは国際テロ組織アルカーイダを追跡する包括的戦略を持っている」と反論した。一方、内政問題で、巨額の財政赤字について、ケリー候補が「5年で半減する」と明言したのに対し、ブッシュ大統領は「ケリー候補は増税法案に計98回も賛成票を投じた」と反撃、「ケリー候補が主張する経済政策や医療保険制度は増税を招く」と主張、両候補は激しい火花を散らした。

10月14日
ロイター通信とゾグビーが、第3回テレビ討論を控えた10月11~13日に行った共同世論調査によると、投票すると答えた有権者1,231人のうち、ブッシュ大統領を支持すると答えた人は46%に、またケリー候補を支持する人は45%となった。 3日間の調査期間中、2日目までは、両候補者はそれぞれ45%の支持率できっ抗していた。

10月15日
投票日まで20日を切り、各州の地方紙が相次ぎ候補者の支持を表明し始めた。第3回討論会を受け、10月14日付有力紙「ロサンゼルス・タイムズ」が事実上、ケリー候補支持を表明したのをはじめ、地方紙の支持表明では現在、ケリー候補が優勢に立っている。

10月15日
10月15日付の英ガーディアン紙は、各国紙と協力して世界10カ国で行われた世論調査の結果として、米国の同盟国の国民の大半が、米大統領選でケリー候補に好感を持っていると報じた。オーストラリア、英国、カナダ、フランス、日本、メキシコ、スペイン、韓国の8カ国で、ケリー候補の勝利を望むとの回答が、ブッシュ大統領の勝利を望むとの回答を大きく上回った。調査が行われた10カ国のうち、ブッシュ大統領の勝利を望むとの回答が多かったのは、イスラエルとロシアの2カ国にとどまった。10カ国の平均でみると、ケリー候補支持の回答が54%、ブッシュ大統領支持の回答が27%だった。

10月15日
米ペンシルベニア大学のアネンバーグ公共政策センターは10月15日、現役の米軍人とその家族を対象とした米大統領選の世論調査結果を発表した。米軍最高司令官としてどちらの候補を信頼するかを聞いたところ、ブッシュ大統領が69%とケリー候補の24%を圧倒した。調査は9月22日~10月5日、655人を対象に実施した。党派別では共和党員が43%、民主党員が19%、無党派が27%で、米兵の間では共和党、ブッシュ氏への支持が高いことが裏付けられた。一般の米国民2,436人を対象とした調査(9月27日~10月3日)では、米軍最高司令官としての信頼度は、ブッシュ大統領の50%に対し、ケリー候補は41%だった。軍人とその家族の間では、米国が「正しい道」を進んでいると考える人が64%に上ったのに対し、一般の人々の間では「間違った道」を進んでいるが55%と過半数を占めた。ただし、いずれも調査期間が10月初めまでのため、大統領候補同士によるテレビ討論会の影響は十分反映されていないとみられる。

※追記
Iowa Electronic Marketsについて、あちこちのサイトで情報が出るようになったが、どうも誤解があるように見えるので一応ことわっておく。何やら投機の一種と思っているふしもあるようだが、この市場は投機やら資産運用やらのために運営されているのではない。もともと実験経済学で行われていた仮想市場のアプローチを使って、将来予測に使おうというものである。したがって投資できるのは最大でも500ドルである。アイオワ大学は研究目的で運営しているので、非営利であり、取引手数料のようなものはない。誰でも(日本人のわれわれでも)投資はできるが、いわゆる「先物好き」の皆さんが投資して楽しいという類のものではないと思う。

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