コンテンツ垂直統合の時代
スポーツをめぐって、ライブドアの動きが活発だ。プロ野球参入を楽天と競っているが、そのうえ年内で廃止される予定の高崎競馬への経営参画を計画し、またJ2鳥栖への出資も検討していた(鳥栖側が断念)との報道があった。
(タイトルからもわかると思うが、以下は、ライブドアやプロ野球参入問題そのものについて書くのが本旨ではないので、念のため。)
ライブドアの一連の動きは、当然ながら、スポーツチームの経営そのものやそれによる知名度の向上もさることながら、ライブドアのインターネット事業におけるコンテンツの品揃えの強化という意図も考えられる。同社はフレッツのADSLやら光ファーバーやらのブロードバンド接続を提供しているから、特別な映像を会員限定コンテンツなどとして売ることができるわけだし、プロ野球参入を果たしたら実際やるだろう。
他のインターネット企業ももちろん負けていない。楽天やソフトバンク、有線ブロードネットワークスなどがプロ野球球団経営に興味を示しているのも、同じ要素があるだろう。楽天の場合は昔ふうにいえば電子ショッピングモールだから、顧客へのバリューチェーンがケーブルだけではなく、宅配便のトラックなどリアルの物流手段でもつながっている。そうとらえれば、いってみれば販売する商品は、洗剤も本もCDも証券取引も旅行も車もすべて「コンテンツ」だ。品揃えの広さが競争力の源泉の1つとなる。
ソフトバンクの場合は、YaHoo!BBなどの会員ベースが大きいだけに、より大がかりだ。ダイエーの買収問題がどうなるかはわからないが、スポーツ以外でも、ソフトバンク傘下のビー・ビー・サーブがコーエーやハドソンと業務提携し、オンラインゲームをYahoo!BBの会員専用コンテンツとすることに合意している。ソフトバンクBB㈱とビー・ビー・サーブは昨年7月オンラインゲームサイトポータルを設置し、日韓ゲームメーカー110社200タイトルと提携しているから、この流れに沿ったものだ。この他エース証券を子会社化している。
有線ブロードネットワークスのダイエーホークス買収は、方針につき検討中ということのようだが、それ以外でもギャガ・コミュニケーションズを子会社化することを決定している。
ソニーがMGMを買収したのも、ソニーが製造するAV機器のコンテンツを確保するための戦略だろうから、考えてみれば同じ路線だ。
これらは皆、顧客へのチャネルを持つ川下企業が、競争力強化のために川上企業を取り入れていく垂直統合の流れと考えることができる。
昔、鉄道会社は都市中心部と郊外を結ぶ鉄道を建設し、都市側にデパート、郊外側に遊園地やリゾートを作った。いずれも沿線に住む住民がその電車に乗っていくことができる場所だ。確か阪急電鉄が最初に始めたこのビジネスモデルは、西武、京王、小田急、東急など東京の私鉄にもこぞって採用され、紆余曲折やら何やらはあるものの、大勢としては、現在も続いている。こんどはサイバーワールドで同じビジネスモデルが展開されているというわけだ。
実はここからが本題で、問題をいわゆるコンテンツ、特に映像コンテンツに絞る。
映像コンテンツに関して、垂直統合の動き自体は、必ずしも悪いことではない。コンテンツ産業の多くは資金調達力の不足に泣かされてきた。川上のコンテンツ企業にとっては、川下企業の資金を得ることで、コンテンツ制作がより容易になれば、その分経営努力を品質の向上などに回すことができる。一方川下企業にとっては、優れたコンテンツを提供することで、自社のサービスの付加価値を高め、会員のつなぎ止めや新規会員獲得にも役立つ。スタジオジブリだって徳間書店の一部門だし事実上日本テレビの「ひも付き」だ。日本映画界全体でも、今映画製作面で一番「元気」なのはフジテレビではないか。この構図は、川下企業による川上の系列化という意味で、ライブドアやソフトバンクの野球と似ている。金をかければいい作品ができるというものでもないだろうが、資金面でのバックアップが、いい作品づくりにとって有益である場合は少なくないだろう。また川下企業の意見を聞くことで、顧客の考えをよりよく吸い上げることにつながることも充分ありうる。
これまでコンテンツ産業に関しては、川下企業への資金的依存が搾取される下請構造を生むとして、問題視されてきた。下請法の改正や標準契約書式の制定など、下請けとしての事業環境を改善する方向もさることながら、問題の抜本的解決には資金調達手段の多様化などが重要であるとされたのはそのためだ。すなわち、自前の資金調達手段を持つことで、川下企業の介入を排除し、権利を保持して主体的なビジネスを展開できるようにすることが、長期的にはより優れたコンテンツを生み出すことにつながる、という図式だ。
ただ、川下企業がコンテンツ産業の垂直統合を進めていく流れは、コンテンツ産業の自立化という政策の方向性と、必ずしも矛盾はしないが、かといって整合的であるともいいにくい。川下企業に「囲い込まれる」ことは、コンテンツ企業にとって幸せな状態なのだろうか。仮に巨人戦が日本テレビ系列局でしか見られないとしても、地上波テレビ視聴は無料だからかまわないが、たとえばスカパーでしか見られないとしたら、大きな問題になるだろう。より多くの顧客に見てもらいたいとすれば、チャネルを限られることが、必ずしもいいこととは限らない。垂直統合をいちがいに否定するものではもちろんないが、「その他の道」もやはり必要だ。
こうしてみると、コンテンツ事業者の資金調達環境の改善は、これまで考えていた以上に真剣に、スピード感をもって行わなければならないのではないか、という気がする。日本政策投資銀行や民間銀行のいくつかがコンテンツ融資を行っているようだが、まだごく一部にすぎない。映画製作において主流となっている製作委員会方式は、リスクなどの面から一般化が難しい。匿名組合スキームも増えていて、いいところもあるが、投資家保護などにまだ制度的課題を残している。信託方式が今後出てくるだろうが、主流とまでなるかどうか。来年法制化されると聞く日本版LLCやLLPは解決策になるだろうか。少なくとも、現在利用できるさまざまな手段は、いずれも中小のコンテンツ事業者が低廉なコストで気軽に利用できるものとはまだいえないように思う。
この問題については、引続き考えていきたい。
※日付修正
公開日は、正しくは10月29日(金)です。
修正しました。
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Comments
わざわざコメントをいただき、ありがとうございました。
トラックバックさせていただいた旨、コメントを残すべきでしたところ、それを忘れてしまい、失礼いたしました。
いただいたコメントに発想を得て、今後の新聞社の方向性について雑感をコメントとして投稿しました。
ではでは。
Posted by: BUNYA | November 01, 2004 10:58 PM