コンピュータもリーダーを求める
マルチエージェントシミュレーションにおいて、エージェントが限られた知識しか持たない場合、エージェント間でアドバイスを共有するネットワークを作ると一部のエージェントがオピニオンリーダーになる、という研究結果が発表された(記事はこちら。論文は下記参照)。
ロス・アラモス研究所、ヒューストン大学、レンセラー工科大学の研究者は、コンピュータによるマルチエージェントシミュレーションを使って、マイノリティゲーム(2つに分かれて少数派になったほうが勝ち、というゲーム)を行う実験を行った。各エージェントが互いに独立した意思決定を行う場合、エージェント数が増えてくると、とりうる可能性が幾何級数的に増大し、トラックできなくなることがある。ここで研究者たちが、エージェント間でアドバイスを交換できるようにすると、エージェントは自然にネットワークを形成し、全体の約1%のエージェントがリーダー格となる現象がみられた。これは、現実世界で発生するリーダーと類似した比率だという。たとえばアメリカの公務員は全国民約2億5千万人に対して約0.5%に相当する。
マイノリティゲームは、この種の実験によく用いられる簡単なゲームだが、株式市場などのシミュレーションにも通じるものがある。概要しか読んでいないので、どのような原理で動いているエージェントなのかよくわからないが、非常に面白い。リーダーの意見はある種のヒューリスティックなのだろうか。複雑な状況下ではプログラムも認知的節約者になるということか。
思いっきり話が飛ぶが、「エージェント」といえば、映画「マトリックス」を思い出す。あの中にエージェントは確か3人出てきたかと思うが、あまりはっきりしないものの、どうもエージェント・スミスがリーダー格であったような印象がある(スミスがネオによって破壊されたとき、他の2人のエージェントは逃げ出したし)。あれは、あらかじめプログラムに組み込まれた行動様式だったのだろうか。それとも3人で行動するうちに自然に発生したものなのだろうか。
以下は個人的なメモ。
本研究は、予測市場におけるマシンエージェント活用を検討する際に参考になるものと思われる。ここでは、エージェント間に情報量の優劣がないにもかかわらず、内生的にハブ構造をもつネットワークが形成され、一部のエージェントがリーダーとなる点が興味深い。同様の性質は人間の参加者についても成り立つ可能性が高い。インプリケーションとして、予測市場の設計において、参加者間の情報のやり取りができるネットワークを導入することは、市場における合意形成を助け、市場の安定性を増す方向につながる可能性がある。しかし同時に、予測市場においてマシンエージェントを導入する場合、それがリーダー格となってコミュニティ全体の合意形成をリードすることになると、そこで得られた「合意」としての価格の、予測としての妥当性に疑いが生じるおそれがあるかもしれない。すなわち、マシンエージェントを導入するにあたっては、それが純粋に流動性を高めるためだけのものであり、価格を誘導するものとはならないよう、留意する必要があるのではないか。特定のエージェントがどのような条件下でリーダーとなるかについては、ある程度理解しておく必要がありそうだ。
M. Anghel, Zoltán Toroczkai, Kevin E. Bassler, and G. Korniss (2004). "Competition-Driven Network Dynamics: Emergence of a Scale-Free Leadership Structure and Collective Efficiency," Physical Review Letters 92, 5 (Feb. 6, 2004): 058702.
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Comments
やまぐちさん、おはようございます、
昨日、ユキジさんの修士論文を読ませていただきました。大変、興味深かったです。
http://minnie.disney.phys.nara-wu.ac.jp/~yukiji/master.html
ぜひ本文までお読みいただくことをお薦めします。この研究は、ランダムネットワーク、スモールワールドネットワーク、スケールフリーネットワークの3種類を構成し、実際のこれらのネットワークのノードの間でどのように情報交換されるかというシュミレーションと解釈できると感じます。本文中のダイナミクスというのは、ノード間の合意形成とか、影響の相互作用とか考えてもよさげです。
Posted by: ひでき | October 07, 2004 09:05 AM