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October 26, 2004

Prediction Markets: Does Money Matter?

Servan-Schreiber, Emile, Justin Wolfers, David M. Pennock, and Brian Galebach (2004). "Prediction Markets: Deos Money Matter?" Electronic Markets 14, 3: 243 - 251.

予測市場に関する注目すべき論文である。

要約
予測市場による予測の信頼性については、現実通貨を用いた市場と仮想通貨を用いた市場との双方について研究がなされてきた。仮想通貨を用いた場合と比べ、現実通貨を用いることでどの程度信頼性が向上するかを検証するため、2003-2004年シーズンのNFLアメリカン・フットボール試合結果に関するTradeSports.com(現実通貨)とNewsFutures.com(仮想通貨)の予測結果の比較を行った。予想された通り、双方とも個人による予測結果を凌駕するなど注目すべき予測力を示した。しかし驚くべきことに、仮想通貨を用いた予測市場は現実通貨を用いた市場と比べても遜色ないとの結果が得られた。この結果から、現実通貨による予測市場は情報の「発見」への動機付けにおいて優れており、一方仮想通貨による予測市場はより効率的な情報の「集約」において優れているのではないか、との推論が成り立つ。

キーワード
予測、予測市場、仮想通貨、NewsFutures、TradeSports

Abstract
The accuracy of prediction markets has been documented both for markets based on real money and those based on play money. To test how much extra accuracy can be obtained by using real money versus play money, we set up a real-world online experiment pitting the predictions of TradeSports.com (real money) against those of NewsFutures.com (play money) regarding American Football outcomes during the 2003-2004 NFL season. As expected, both types of markets exhibited significant predictive powers, and remarkable performance compared to individual humans. But, perhaps surprisingly, the play-money markets performed as well as the real-money markets. We speculate that this result reflects two opposing forces: real-money markets may better motivate information discovery while play-money markets may yield more efficient information aggregation.

Keywords:
forecasts, prediction markets, play-money, NewsFutures, TradeSports

上記の通り、予測市場には現実通貨を用いたものと仮想通貨を用いたものとがある。本blogでもたびたびとりあげているアイオワ大学のIowa Electronic Marketsも現実通貨を用いるが、それ以外では、アメリカでは現実に存在する予測市場で現実通貨を用いるものはない。当然ながらこれは賭博が違法となっていることとの関連であり、アイオワ大学では、研究目的として当局から特別のお墨付きを得ている。NewsFuturesも仮想通貨を用いている。現実通貨を用いるTradeSportsは、アメリカ人の利用者も多いが、企業自体はアイルランドにある。英連邦諸国でさかんなゲームメーカーによるスプレッドベッティングは、現実通貨を使う予測市場の一種と考えることができるが、会社側が予測証券の価格を提示する(つまりポジションをとる)点で、会社側が取引の仲介者に徹し自らポジションをとらないTradeSportsとは若干異なる。

この研究はNewsFuturesのSchreiber社長(認知心理学の博士号を持つ)がウォートンスクールWolfers氏やYahoo!のPennock氏など予測市場の専門家たちと共同で行ったものである。もともと予測市場の予測力に対する信頼性について、よく「現実通貨を使わないものに予測力があるのか」という疑問が投げかけられていた。これは、実験経済学の分野で「少額の現実通貨を用いる仮想市場実験で現実市場の人間行動が研究できるのか」といった疑問が投げかけられたことと同じ根を持っている。多額の金銭を賭けてこそ人間は真剣になるのではないか、という発想だ。実験経済学の分野では、「きちんと実験を設計すれば、人間は仮想市場においても、現実市場と同じようにふるまう」との結果が得られている。本研究は、これと同じような検証を、仮想通貨を用いた予測市場に関して行ったものという点で重要な意義がある。

現実通貨を用いると情報発見に優れ、仮想通貨を用いると情報集約に適する、というのはきわめて興味深く、また直観に沿った仮説である。人は金を賭けると真剣になる。したがって、目を皿にして新たな情報の発見を行おうとする。しかし金がからむために目が曇ってしまい、冷静な判断ができにくい。仮想通貨の場合は、そこまで努力しようとはしないが、一方冷静な判断ができるため、情報を集約し、与えられた情報から適確な予測を導き出す。そんな図式だろうか。

いずれの場合でも、個人が予測するよりは優れた結果を出していることは注目すべきである。これは予測市場というアプローチの将来性を示すものといえる。上記の結果をふまえると、現実通貨と仮想通貨の双方があれば、最もよい結果が得られるのではないか、との推論もできる。現在現実通貨で取引が行われている金融・資本市場などでも、同時に仮想通貨を用いた予測市場を走らせることで冷静な判断をする機会ができ、市場の過熱やミスプライシングを是正する効果を持つ、ということもあるかもしれない。

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