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October 13, 2004

「スポーツ」としてのゲーム:World Cyber Games 2004

10月6日から10日までの期間、米サンフランシスコで、ある国際スポーツ大会が開催された。「World Cyber Games 2004」である(記事はこちら)。

この大会で競われるのは、通常いう意味での「スポーツ」ではなく、PCゲームやビデオゲームなどのデジタルゲームだ。「ゲームがスポーツなのか」と思われた方もいるだろうが、とりあえず話を進める。WGCは2000年から毎年開かれているイベントだ。この大会で行われた競技(つまり、ゲームだ)は、以下の8種目となっている。
Counter Strike: Condition Zero
StarCraft: Blood War
WarCraft III: Frozen Throne
FIFA Soccer 2004
Unreal Tournament 2004
Need for Speed: Underground
Project Gotham Racing 2
Halo

「World」と名づけられているのはだてではない。出場したのは世界60カ国以上から約100万人が参加したオンライン予選を勝ち抜いた総勢700人前後の各国代表選手たちだ。 賞金総額は41万2,600ドルで、金メダリストにはそれぞれ2万~2万5,000ドルが贈られた。

ゲームの国際大会そのものは、実はこれ以外にもある(関連記事はこちら)。MMORPGでも、「Ragnarok Online」が、本国である韓国で「Ragnarok World Championship」なるものを開催している(関連記事はこちら)。

スポーツにおいてなんらかの「道具」を使うのは、きわめて当たり前のことだ。たとえばアーチェリーでは弓と矢、それに的が用いられる。新体操ならボールやらリボンやらだし、マラソンだってハイテクの限りを尽くしたシューズやウェアが必要だ。選手は競技場で、これらの道具を使って戦う。道具をいかにうまく使いこなすかが勝負の分かれ目となることもあれば、道具の良しあしが明暗を分けることもある。

PCゲームやビデオゲームにおいては、「リアル」の競技場ではなく、ゲーム内の仮想空間が戦いの場だ。選手たちはここで、ゲームの定めたルールに従い、コントローラ等の道具を使いこなして勝敗を競う。一瞬の集中、微妙な操作、劣勢をはね返す勇気、いちかばちかのはったり。スポーツ選手に求められるこうした勝利へのカギのすべてが、ここでも適用される。見事勝利を収めた選手が「気持ちいい!チョー気持ちいい!!」と叫んだかどうかは知らないが、ここで繰り広げられたのは、スポーツ以外の何者でもない。

人がゲームをするのを見て何が楽しいと思う方もいるかもしれないが、楽しいと思う人々は決して少なくない。アメリカや韓国では、プロゲーマーと呼ばれる人々がいる。ゲームプレイを人に見せることで金を稼ぐ、いってみればプロスポーツ選手だ。韓国で最も人気のあるプロゲーマーのファンクラブには数十万人が加入しており、最高ランクの選手では年収1千万円超に達するらしい(関連記事はこちら)。もちろん一部を除いて裕福な生活とまではいかないらしい(アメリカの例はこちら)が、それでもスポンサーがつき、機材の提供を受けることも少なくない。ゲームの世界にはまだドーピングはないようだが、もし人気が高まり、より大きな金が動くようになれば、必ずや登場すると思う(別にドーピングの存在を望ましく思うわけではないが)。

近代オリンピックは19世紀に始まった。そして20世紀、私たちの世界はパラリンピックを生み出した。一般的にいえば、オリンピックに比べてパラリンピックのほうが、道具への依存度が高い。マラソンは、極論すれば裸足で走ることもできるが、車椅子マラソンは、車椅子なしでは不可能だ。ほとんど暴論めいた独断だが、21世紀、われわれが生み出した新しいスポーツのジャンルとして、PCゲームやビデオゲームがとらえられるようになる日が来るかもしれない。変な話、この世界では、パラリンピック以上に、健常者と障害者の垣根が低い場合も少なくない。障害者アスリートにとっては、掛け値なしの世界チャンピオンとなれるかもしれない新たなフロンティアになりうる。

ちなみに、WCG2004では、オランダ・チームが8種目のうち3種目で金メダル、1種目で銅メダルを獲得し、総合優勝した。2位は韓国で、金2、銀3、銅1と、WGC発祥国の意地を見せた。米国チームは、団体戦の「Counter Strike Condition Zero」で金を獲得した。日本勢は、個人戦に3人、団体戦に1チームが参加した。昨年から連続日本代表の「ハンベイ」こと竹中康弘氏が、シューティングゲームの「Unreal Tournament 2004でベスト32に食い込んだのが最高だった(結果に関する記事はこちら)決勝トーナメント1回戦敗退である。ほかの日本代表は予選で敗れ決勝トーナメントに進めなかった。対象競技となったゲームが海外製であるのは、このイベントが海外発であることに起因しているのだろう。数々の名作ゲームを生み出し、ビデオゲームのプラットフォームの過半を押さえるわれらが日本としては、あまりにも情けない結果といえるのではないか。

日本では、プロゲーマーの不在という点からみて、「ゲーム」というものに関するタブー観が諸外国より強いのかもしれない。WCGのスポンサーは、サムソンのようなゲームメーカーなどだ。日本のゲーム企業にもこうした取り組みを求めたい。また政府はコンテンツ政策の充実をめざしているが、コンテンツ発信力を高めるためには、すぐれたユーザー層が必要だ。プロゲーマー育成に金を出せとは言いづらいが、なんらかの支援を期待してもいいのではないか。

※10月30日加筆修正
この種のゲームを「e-sports」、選手を「cyberathletes」というのだそうだ。E-sportsの関係者の方の話を聞いたら、e-sportsはメーカー主導ではなく、ユーザーサイドの活動として始まったという。最も普及したe-sportsの1つであるCounter Strikeの場合、今実際に使われているのはメーカーが作ったオリジナルのゲームではなく、メーカーが公開したデータをもとにユーザーたちが作り上げたもので、それをメーカーが取り込んだものらしい。いわばオープンソースの典型例なわけだが、メーカー主導でないがゆえに、必ずしも最新のゲームが使われているわけではない。日本のメーカーが資金を出せば新たな「種目」として取り上げられるのかと思っていたが、認識が甘かった。まずはユーザーに受け入れられるゲームを作り、ユーザーの好みに合わせて改良し(あるいは改良をユーザーたち自身に委ね)、ユーザーのコミュニティを育てなければならない。メーカーも気合を入れて考えないと。

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