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November 18, 2004

ゲーム学会第3回全国大会

去る11月13日(土)に大阪国際大学守口キャンパスで開催されたゲーム学会第3回全国大会に参加したので、記録も兼ねて書いておく。

全体の感想としては、まだこの世界では新参者である自分には、前提となる知識やら経験やらがまだまだ不足しているらしいということだ。研究発表やパネルディスカッションを聞いていても、なぜそれが議論の焦点になるのかよくわからないものが少なからずあった。以下に一見批判にみえるコメントをしている部分があったとしても、基本的にはそういうことだとご理解いただきたい。

午前中は一般発表で、3つのセッションが並行して開催された。自分が参加したのはAセッションで、プログラムは次のとおり。併せて論文の要約をそのまま引用し、自分なりのコメントを付した。

「ゲーム研究の枠組みについて」
岡野正(日本大学
「要約:現在急速に多様な立場からゲーム研究が進んでいるが、残念ながら生産的な議論を共有する基盤が脆弱である。この基盤の脆弱性は、研究者・分野ごとの「ゲーム」概念や用語の相違が一因であると考えられる。ここでは概念の混乱について述べるとともに、議論や研究成果を分野を超えて共有するための基盤(分析・位置づけ・データベース・デザイン支援・研究と制作の連携)作りの提案を行う。」

要するに、ゲームについての研究にはいろいろな分野の研究者が関わっており、彼らの間で「ゲーム」ということばが何を意味するかについて合意がなされていないために混乱をきたしていると指摘し、それを整理するためのフレームワークを提案したものだ。なるほど確かにこれは必要な作業だが、これが未だになされていなかったとすると、学問としてのゲーム研究はまだまだこれから、ということだ。

「オンラインゲーム内仮想通貨の研究(An Analysis of Virtual Currencies in Online Games)」
山口浩(国際金融情報センター国際基督教大学社会科学研究所
興味のある方は、本blogの左サイドバーにリンクがあるので参照されたい。要は、オンラインゲーム内の通貨が現実経済にとって「意味のある」通貨となったこと、それらはその特徴から「国際地域通貨」とも呼ぶべきものであること、またこうした考え方が今後重要になってくるのではないかということ、である。

「芸術学部におけるゲーム教育フレームワークの提案」
大井祥照(東京工芸大学 芸術学部)
「要約:ゲームを教育する際、指針となるコンセプトガイドの存在は重要である。IGDA(国際ゲーム開発者協会)からカリキュラムフレームワークとしてコンセプトガイドが提案されている。ゲーム制作が学際的であることを反映して、内容は多岐に渡っている反面、具体的なカリキュラムは各教育機関の采配に任されている。今回、芸術学部におけるゲーム教育に焦点を絞ったフレームワークを提案し、このフレームワークの実施例を報告する。」

東京工芸大学芸術学部にはアニメーション学科という学科があり、この学校ではゲームに関する教育はこのアニメーション学科で行っている。そこでのカリキュラムを解説するもの。ゲーム研究、ゲームデザイン、ゲームプログラミング、ビジュアルデザイン、ゲーム制作に分かれる。

「各種指標から見るゲーム機」
蔵琢也(同志社大学ITEC
「要約:ゲーム機ハードの発売機種数や発売社数と、以前より詳しいシェアのデータにより分析した。結論は発売社数や発売機種数ではやはり覇権の交代期に参入ピークがあり、シェアや独占度は、有力なゲーム機の変遷に伴って変化するという常識的なゲーム機の歴史とおおむね一致するものであった。特徴をより示すため、ワードプロセッサのデータなどと比較する。」

計量的な分析で産業全体の動向をみる研究である。分析自体はわかるのだが、ゲーム機ハード産業が激しい競争期を経て今後は成熟産業へと移行していくのではないかとの推論をしている。発表を聞いた限りでは、その根拠は分析結果にサポートされたものというより感想ないし印象に近いのでは、と思われた。

「コンピュータゲームソフトウェア産業の成立」
山根信二(東京大学大学院学際情報学府
馬場章(東京大学大学院情報学環・史料編纂所)
「要約:パーソナルコンピュータ用のソフトウェア産業は独自の産業構造を備えている。その起源は、マイクロコンピュータ用の初の商用ゲームソフトウェアであるおよびそれを手掛けた初のソフトウェアパブリッシャーであるPersonal Software社の成立にさかのぼることができる。そのビジネスモデル成立の過程を分析することで、ホビイストがゲームソフトウェアによって開いたパーソナルコンピュータ用ソフトウェア産業の構造について考察を行う。」

アメリカのソフトウェア産業成立の黎明期、ソフトウェアはハードメーカーに売るというビジネスモデルが一般的であった。それが現在のように「ユーザーが直接買う」というモデルに転換したのは、ゲームソフト会社Microchessが行った通信販売がきっかけとなっている。これに注目したByte誌編集者が、ハーバードビジネススクールに進学した際にさまざまな業界のビジネスモデルを調べ、出版業界のモデルをもとにしてソフトウェアパブリッシャーのビジネスモデルを構築したのだという。なるほど、と思う。このことを知って将来にどう生かすか?

「オンラインゲームの使用が使用者に与える影響」
平井大祐(徳島県精神保健福祉センター
葛西真記子(鳴門教育大学
「要約:本研究の目的は、オンラインゲームの使用が使用者に与える影響を明らかにすることである。そのため、インターネット上のホームページにおいて、オンラインゲームについて調査を行い、自由記述形式で回答を求めた結果、調査期間中に451名からの回答を得た。KJ法により詳細にカテゴリー分類した結果、特に、ポジティブな影響として「交流」「気分転換」「交友関係の増加」、ネガティブな影響として「睡眠不足」「身体」「学業」「人間関係の悪化」への影響があることが明らかとなった。」

ゲーム学会だけあって、オンラインゲームの負の側面のみをいたずらに強調するようなものではない。「オンラインゲームの主作用と副作用を明確に表示することは、使用者の安心感につながる」との指摘はもっともだが、どちらかというと使用者に対してというよりは使用者の周囲の人々に対して、というべきかもしれない。ポジティブな影響で「交友関係の増加」「対人関係の練習」「ふれあい」「コミュニケーションツール」があがっているのに対し、ネガティブな影響でも「人間関係の悪化」「閉じこもり」「不登校・引きこもり」「コミュニケーション不安」と似た要素が挙がっているのは興味深い。仮想空間では異質なコミュニケーションが成立するということなのかもしれないが、ある意味、ゲーム内での人間関係を、現実世界での人間関係より低くみる考え方といえなくもない。

聞けなかったが、このほかのセッションで面白そうだった発表には、次のようなものがあった。

「パチンコのモデル化手法、大当り回数確率分布の漸化指揮表現、および大当りの波の定式化について」
水野隆文(名城大学
加藤昇平・伊藤英則(名古屋工業大学
「要約:我々は、非決定性有限オートマトンによりパチンコをモデル化した。そして、そのモデルを基に、大当り回数確率分布の漸化式表現を示した。さらに、パチンコの大当りの波を定義した。最後に、大当り確率分布を利用した遊技機の設計手法・検定法などこれからの課題を述べる。」

他ではなかなか見られない研究であろう。何のために必要なのか?本文にはこうある。「これまで、パチンコの設計や検定には、大当り回数確率分布や大当りの波が考慮されてこなかった。適切な大当り回数確率分布や波に従うパチンコを合理的に設計し、それを統計的に検定することが求められている。本稿はその足がかりとなる。」パチンコを作っている会社の方々は、どのような設計をしているのだろうか。この研究は彼らにとって有益な成果なのだろうか。ぜひ聞いてみたい気がする。しかし、あるパチンコ機が「合理的」に設計されていることがわかっているとしたら、ギャンブラーの皆さんは、それで遊びたいだろうか?・・・人間は奥深い。

「動的電子楽譜システムを用いた個別合奏」
山炭昌司・矢野学・神谷達夫・松田稔(大阪電気通信大学大学院)
「要約:音楽初心者は楽譜上に表現された音楽イメージを構築することができず、楽譜に記された曲を初見で演奏することができない。この問題を解決するため、我々はゲーム機のユーザーインターフェースを応用した動的電子楽譜システムを考案した。実験により、動的電子楽譜システムを用いた場合、演奏音を聴取しなくとも演奏が可能であり、個別に記録された演奏を合成することで合奏として成立することが確認された。」

論文によると、このシステムは、「映像により演奏するタイミングを指示し、楽譜上に記された音価を演奏者に伝える装置」なのだそうだ。ドラムシーケンサを使うのだが、打つべきタイミングに合わせて、画面上の小さな四角形(チップ)が下にある線を叩くような動きを見せることで、演奏をガイドする。ドラムだからいいが、ピアノとかの場合はどうするのだろうか。最近のキーボードなどには、弾くべきタイミングでランプが光るものなどもあると思うが、それとどうちがうのだろうか。

「3DCGゲームプログラミング的な天体現象の可視化」
江見圭司(金沢工業大学
「要約:Shockwave3D(Web3D)を用いた天体現象の可視化を発表する。ゲームプログラミングで一般的なカメラ位置の変更などを取り上げる。」

最近主流となっている3DCGのゲームでは、視点がかなり自由に変更できるものがある。同じものを遠くから近くから、上から下から、左から右からと、自在に「カメラ」位置を変えられるのだ。天体現象をコンピュータ上に再現して画面で見せる際に、これと同様の考え方で視点を自由に移動できるようにした、ということらしい。

「ビジネスゲームの評価の研究(2)」
福田真規夫(大阪国際大学
矢鳴虎夫(東亜大学
「要約:ビジネスゲームにおける評価は、プレイヤーが社長となった企業が、ゲーム上の他の会社に比べて売上高や利益高をいかに上げたかということで決定されている。しかしながら、このゲームを教育や研修のツールとして活用する場合、プレイヤーがゲームの過程で行った意思決定の評価が重要で、その評価から得られた今後の学習目標をプレイヤーにフィードバックすることで、より多くの学習効果をあげることができる。
本研究は、既存のビジネスゲームに、これらの評価や学習うえのナビゲーションの機能を付加し、より教育効果の高いゲームにしようとするものである。」

要するに、ビジネスゲームの結果評価にあたってファジイ推論などを使ってあいまいな成果に対する評価を的確に出そうというものらしい。ビジネスゲームの評価って、そんなに単純に数値で決めていただろうか?私が経験したものは、そういう感じではなかったと記憶する。結果よりむしろ、自分たちの計画に対して結果がどうちがったか、その間に何をしてそれが効果的だったかどうか、ビジネスゲームから何を学んだか、といったことをレポートにまとめて、その出来が点数になっていたような記憶があるのだが。


午後は今大会のテーマである「ゲームアーカイブ」について。ゲーム開発者が過去のゲームに学ぶことができるよう、アーカイブ化しようという構想のようだ。個々の企業に任せていては散逸の危険もあるので、大学が主体となってアーカイブを運営するということらしい。そこまではよい。ただ、聞いているとどうも、アーカイブ化したゲームをどのように「評価」するかという議論が延々と行われていた。ただアーカイブに入れるだけでなく、そこになんらかの基準で評価を加えたかたちで保管しておきたいらしい。しかしあるゲームをどう評価するかは、それを利用しようとする人によって異なるのではないか。あらかじめ評価を用意しておくことにどのような意義があるのだろうか。残念ながらよくわからなかった。

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Comments

こんにちは。

ゲイム理論ではなく、遊びの方の「ゲーム」なのですね。そういえば、何年か前にslashdot-jpで取り上げられたような気がする。コレですよね?

http://slashdot.jp/article.pl?sid=02/10/23/166204

実に面白そうです。

私、シミュレーションゲームやボードゲームが好きでその手のサークルにいたことがありました。コンピュータ(ビデオ)ゲームも好きですね。

もちろん学会の人たちは真面目に研究されているんでしょう。応援してます。

Posted by: masamic | December 03, 2004 07:35 PM

もう随分前のことですが、
研究発表を聞いてくださっていたみたいで、
記事にしていただき、ありがとうございました。

最近研究のフィードバック用のホームページを
リニューアルしましたので、
よろしければお暇なときにお立ち寄りください。

http://ogrl.main.jp/

Posted by: daisuke | August 28, 2009 03:53 PM

daisukeさん、コメントありがとうございます。
サイト拝見しました。きれいに整理されていて読みやすいですね。巡回先に入れて参考にさせていただきます。今後ともよろしくお願いいたします。

Posted by: 山口 浩 | August 29, 2009 09:11 AM

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