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November 30, 2004

雑誌目次をみる:「月刊 バイオニクス」

一部に好評の「雑誌目次をみる」シリーズ。今回は「月刊 バイオニクス」。2004年11月22日に創刊されたばかりの新しい雑誌だ。

「バイオニクス」とは何か。「生物の機能を利用したり模倣したりする技術」「生物のもつゲノム情報を活用する技術」なのだそうだ。「ヒューマニクス系」「バイオエレクトロニクス系」「ロボティクス系」という3つの分野がある。これまで理学、医学、農学で個別に行われてきた研究を総括した広い意味でのバイオテクノロジーを意味する新しいことばだという。

関連する研究分野の主なテーマは次のようなものだ。
異種の植物を組み合わせるキメラ植物、個々人にベストな医薬品を作るテーラーメイド医療、ナノテク化粧品、バイオセンサー、脳を指向したコンピュータ、生物とコミュニケーションする技術、バイオチップ、人型ロボット、パワードスーツ、マイクロマシン、サイボーグ、等々。

賛否いろいろありそうなテーマが並んでいる。当然こういった倫理問題も範疇に入るだろう。とはいえ「攻殻機動隊」ファンならムラムラしてくるのではないだろうか。ちなみに「キメラ植物」については、サボテンとマングローブを組み合わせて、海水でも生育できるサボテンを作り、砂漠の緑化に使う(海水を砂漠に引いてくるのだろうか)、といった可能性も検討されているらしい。

さっそく創刊号の目次をみてみよう。

創刊号特別企画「サイボーグ社会の誕生 医療・福祉・生活向上のための“サイボーグ技術”」
テクノロジーの発展によって、人間にどんどん近づきつつある人工物。人間と人工物はどのような関係を築くべきか。共生のための条件とは。
・無意識の可視化システムからインテリジェントなパートナーへ
・失われた感覚や身体機能を人間に寄り添う技術で取り戻す
・生体の神経系と人工機器との直接接続を目指して
・工学と生物学の共同で知の創発の現場を見る 
・心筋と血管を同時再生する再生医療
・サイボーグとしてよりよく生きるために

「空想」が頭についていない科学でサイボーグが語られ、雑誌の特集になる時代がついに来たのだ。「サイボーグとしてよりよく生きるために」とはすごいタイトルだ。いったいどんな内容なのだろうか。非常に気になる。「サイボーグ」については抵抗感のある人も多いだろうが、現在考えられているサイボーグは、テレビアニメでおなじみのイメージとはかなりちがうらしいので、あらかじめお断りしておく。

特集「生命はここまでみえてきた:目でみる生命探求の最前線」
ナノテクノロジーや情報工学の発達によって、生命分子や生命情報を直接「目で見る」ことが可能となってきた。いま、大きく進歩しつつある生命探求の最前線をビジュアリスティックに紹介する。
・変形する細胞の“力覚”モデル
  名古屋大学大学院医学系研究科 曽我部正博氏
・無染色で“生”に迫る
  岡崎バイオサイエンスセンター 永山國昭氏
・ゲノムの個性が一瞥できる地図
  総合研究大学院大学 池村淑道氏

What's new
発刊の辞 「偉大な総合」に向けて 総編集長 森正樹


専門外の身には若干わかりにくいかもしれない。創刊前のゼロ号がPDFでダウンロードできるので、そちらもみてみる。面白そうな記事を拾ってみると、こんな感じだ。

◎サイボーグ技術がアシストする 人間と機械の新たな関係づくり
廣瀬通孝
携帯電話を持ち歩き、コンピューターを駆使して生活する私たちは「サイボーグ化」の道をたどっているのかもしれない。機械と人間の新たな関係に迫る。
著者は以前本blogでもとりあげた「空間型コンピュータ―『脳』を超えて」の著者だ。

◎2020年のバイオニクスのマーケットを予測する
亀井信一
各国の政府、企業がナノバイオ領域の研究開発へ活発に投資している。近未来のナノバイオ市場はどこまで拡大するのか?
三菱総研と日経新聞による、2020年の市場規模予測は以下の通りだ(金額単位億円)。全部合わせて22兆円。ものすごい金額だが、今パチンコ産業の市場規模が30兆円というから、正直それほどびっくりするほどの規模ではないような気もする。もっと大きくてもいいような印象があるのだがどうだろうか。
・遺伝子組み換え医薬品     82,000
・遺伝子治療薬           65,000
・ドラッグ・デリバリー・システム  22,000
・医療用マイクロマシン       14,000
・遺伝子診断            17,000
・バイオリアクタ            6,800
・バイオセンサ            8,000
・人工酵素              1,900
・バイオ化粧品            4,100
・合計                220,800

◎News Review
・毛細血管網を転写で再生
・直径3mmの極細径ロボット鉗子を開発
・パワードスーツを事業化
・カイコが直接光触媒を生産
・遺伝子組み換え植物によるドラッグ工場はできるか?

「毛細血管網」の技術はすごい。印刷技術で血管のパターンを基盤に描き、その上で細胞を培養することで血管網をそのまま再生してしまうのだ。本人の細胞をもとに培養するから拒否反応もない。その血管を別途培養した皮膚と組み合わせて体内に戻す。開発したのは第日本印刷と東京医科歯科大学。印刷会社が医療技術を開発する時代なのだ。

パワードスーツは、日本が世界でも進んでいる分野だ。筑波大学の山海嘉之教授のグループが開発した障害者リハビリ、重労働支援用のパワードスーツ「HAL」(!)が事業化されている。ベンチャー企業の名は「サイバーダイン」(!)。1セット100~200万円だそうだ。確かアメリカが軍事利用目的でアプローチしてきたのを断ったとか。しかし「HAL」といい「サイバーダイン」といい、映画がお好きの方々のようだ。どちらも「暴走する機械」をイメージさせる名だが、気にならないのだろうか。

◎Topocs Review
・進むバイオとナノテクノ融合
・生物ナノマシン、その動きを1分子レベルでとらえる
・マイクロマシンによるDNAハンドリングとは何か?

マイクロマシン療法だ。ますます「攻殻機動隊」だ(SACのほう)。


これがいま科学と産業の出会う最先端であり、今後日本が取り組みを強化していかなければならない方向性なのだ。空恐ろしいと感じる人もいるだろう。「風の谷のナウシカ」(マンガのほう)に出てきた土鬼(トルク)を思い出した人もいるにちがいない。ただ、どうも日本の研究者たちは、どちらかというと「おとなしい」方であるようだ。「一寸の虫にも五分の魂」と感じる感性は、こうした世の中でこそ価値がある。アメリカあたりに主導権をとらせると相当やばい領域にいきそうだし、その意味でもできるだけ日本が主導権を握って、健全な方向性で技術を発展させてもらいたい。ガンバレニッポン!

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