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November 08, 2004

デブは経済にも環境にも悪い

またまた刺激的なタイトルだが、米国の話だ。疾病対策センター(CDC: Centers for Disease Control and Prevention)の研究で、米国の20歳以上の人々の平均体重が過去10年間に約4.5kg増えたため、旅客機のジェット燃料コストが年間で約2億7,500万ドル(約300億円)も増えただけでなく、燃焼に伴う二酸化炭素が380万tも余分に排出されるなど、経済や地球環境に深刻な負担を与えていることが明らかになった。

※タイトルの「デブ」ということばは語呂のよさから使っているだけで、差別的意図はない(むしろ個人的には、かわいらしい語感がある)。BMIが30を超えているとか、そうした厳密な定義に基づくものではなく、米国人の平均体重が増えているさまを簡便に言い表したものだ。

Dannenberg, Andrew L., Deron C. Burton, and Richard J. Jackson (2004). "Economic and environmental costs of obesity: the impact on airlines." American Journal of Preventive Medicine 27, 3: 264-264.

米国の大人の体重は1988~94年の平均値に比べ、1999~2000年の平均値が男性で約3.9kg、女性で5.2kg増えた。国内線で使用される平均的なジェット機の燃費をもとに計算すると、この体重増加分だけで、2000年のジェット燃料消費量のうちの2.4%、3億5,000万ガロン(約13億リットル)の余計な消費を生み出したことになるという。CDCでは、「肥満は個人の問題では済まなくなった」とし、連邦政府レベルで対策を強化する方針だそうだ。これは、これまで注目されてこなかった要素への注意を喚起するためのラフな計算で、US Department of Transportationの統計上乗客の平均体重が10ポンド増えたらどれだけ余計に燃料を消費するか、といったかたちで計算された。

もともと肥満は米国にとって「最大の敵」であるといわれる。2000年には40万人の命を奪ったが、この数値は1990年と比べて33%も増えている。1990年代初期には米国の成人のうち56%がオーバーウェイトまたは肥満であったが、1999~2002年には65%に増えた。

近年航空会社は燃料費の高騰に悩まされているが、重量問題という要素もばかにならない。軽量化のため、機内から雑誌を追放し、金属製のフォークやスプーンもプラスチックになった(これはテロ対策もあろうが)。ワイドボディのジェット機からターボプロップ機に替えたり、椅子をより軽いものにしたりもしているらしい。60~120tにも及ぶ飛行機に比べれば1つ1つはたいしたことがないものでも、たくさんの飛行機が何度も飛ぶことを考えれば、合計ではけっこうな効果になるとのことだ。

ただしほとんどの航空会社では、乗客の体重に応じて料金を変えることまでは考えていないらしい。乗客が太った分、飛行機がダイエットする、ということのようだ。もっとも、安値で有名なサウスウエスト航空を始め多くの会社では、1つのシートに収まらないほどの肥満者に対しては、シートを2つ買うよう求めている(サウスウエストはこのポリシーを大きく打ち出したためにだいぶ叩かれたらしく、ウェブサイトに釈明のページがある)。

この論文は、ジェット燃料という側面から経済への効果を測定しているが、肥満の影響はもっと広範ではないかと思う。たとえば食べ物の量と質だ。身体機能の維持に必要な量以上に食べているから太るわけだし、太りやすい食事の材料はえてして生産のときのエネルギー効率が悪かったりするだろうから、その意味でも環境への負荷は大きい。飛行機が問題なら、自動車はどうだろうか。自動車社会である米国の場合、ばかにならないだろう。よく考えたら、たとえ太っていなくても体の大きい人はエネルギー効率が悪いともいえる。

こうしたことは、人間活動全体の環境へのインパクトからみればそれほど大きくはないかもしれないが、防げたはずのコスト、という面でもったいないと思う。この意味でも日本人はアメリカ人に比べ経済的かつ環境負荷が小さいといえる。アメリカ人が日本に来るとよく「食べものの値段が高い」と言うが、食べ物の価格が安いのも考えもの、なのかもしれない。アメリカの環境団体の皆さんも、外国に口を出す前に国内をなんとかしてもらいたいものだ。

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