予言者になる方法を考えてみた
予言とは、「未来の物事を予測して言うこと。また、その言葉」(大辞泉)である。ただし、科学的あるいは客観的なアプローチで得られたものである場合には、ふつう「予言」とは言わず「予測」という。つまり「予言」とは、なんらか超自然的な力によってそれを知る、というニュアンスがある。
巷には、さまざまな予言があふれている。それらを語ったのは、なんらかの「「超自然的な力」を持っていると思われている予言者たちだ。あれは特別な人たちだ、ふつうの人間にはそんなことはできない。そう決めつけていないだろうか。実は必ずしもそうではない。しくみをわかっていれば、意外に簡単にできるのではないか。というわけで、少し考えてみた。「凡人のための予言入門」だ。
もちろん、ここで言っているのは、別に「超自然的な力」を簡単に身につける方法ではない。「将来をいいあてる方法」でもない。
また、超自然的なものをすべて否定しようとするものではない。世の中にはまだ科学では解明できていないことはたくさんある。ひょっとしたら、将来のことを予言できる能力をもっている人が本当にいるかもしれない。私は会ったことがないが。
ここで書こうとしているのは、特に超自然的な力を持たない凡人が、いかにして「予言」として人々に受け取られるものを作りだせるか、だ。
さて、ここからが本題。
1 予言の基本ルールを理解しよう
予言には、いくつか共通の決まりごとがある。何を予言するにしても、この基本ルールは守らなければならない。予言者になるためには、まずこれを理解する必要がある。
◎「自分を超えた存在」が予言するかたちにしよう
予言するのは人間である自分ではなく、なんらかの絶対者であったり、自然であったりといった「自分を超えた存在」があなたに告げる、というかたちをとろう。これは、予言にハクをつけるだけでなく、何かあっても、自分で釈明する必要はなくなる。その意味で、「理屈の通らない、文句もいえない絶対者」を選ぶ必要がある。
◎予言は相手を選んで伝えよう
予言を聞いたとき、それを頭から信じ込むタイプの人と、まず疑ってかかるタイプの人がいる。まず前者に語るべきであるのはいうまでもない。しかし同時に、後者に対する対策は常に考えておく必要がある。疑ってかかる人は、うまく信じさせることに成功すれば、逆に強い支持者となる。うとんじてはならない。
◎「起きたらどうなるか」をできるだけはっきりビジュアルに、「起きるかどうか」をできるだけあいまいに
予言を聞いたとき、人がイメージするのは、その予言が実現したときに起きるさまであって、予言を信じる度合いは、そのイメージがどれだけ具体的で説得力があるかどうかで決まる。それがいかに確実かということではない。起きたときのさまをできるだけビジュアルに、雰囲気たっぷりに語ろう。いつ起きるか、なぜ起きるか、どのくらいの確率で起きるかなどには、人は注目しない。逆に細かく語れば揚げ足をとられるおそれがある。慎重に、あいまいに。
◎予言内容にこだわってはならない
まず最初に、聞き手が何を聞きたがっているかを把握すること。予言内容は、そのときの状況、相手方によって柔軟に変えてよい。重要なのは「何を予言するか」ではなく、「あなたがいかに予言者らしく見えるか」だ。人は信じたいものを信じる。その人が信じたがっているものが何かがわかれば、信じさせるのはそう難しいことではない。「たまたま」現実が予言と異なってしまったときもあわてる必要はない。今は予言内容がすでに変わっている、と説明すればよい。変わることも含めて予言なのだ、予言とはそういうものだ、という姿勢を貫こう。予言の「専門家」であるあなたは、素人である聞き手に対して、決して優位を崩さないようにすることが重要だ。
◎周囲に気を配ろう
予言者は、常に自分の周囲や社会で起きていることがらに注意を払っておかなければならない。ふだんあまり起きないこと(「ふだんあまり起きないこと」は、実はけっこう頻繁に起きる。これを知っておくと役立つ)、何かの前触れのように思われることなど、自然現象や社会のできごとには、予言の信憑性を高めるネタがいくつも隠れている。必要なのは、そのとき知られているいくつかの事柄を関係づけ、予言内容のサポートに用いるインスピレーションとアレンジ力だ。予言を語る相手の身の回りに起きたできごとをさりげなく聞き出しておくことも忘れてはならない。相手の身の回りに起きたことを、予言内容と結びつけるのはきわめて有効なテクニックだ。それは、予言を語る相手に「あなたも異変を感じ取る特別な能力がある」と思わせることができるからだ。
2 予言のタイプを決めよう
次に、具体的なアプローチを考えてみよう。予言には3つのタイプがある。(A)必ずあたる予言、(B)あたるかもしれない予言、(C)あたるかどうかぜったいわからない予言、の3つだ。いずれの場合でも、よい内容よりは悪い内容の予言が有効である場合が多い。受け取る者により大きなインパクトを与えるからだ。
(A)必ずあたる予言の例
・あなたは必ず死ぬ
・東京に直下型の地震が起きる
・この先株価は下がる
(B)あたるかもしれない予言の例
・近々あなたは交通事故にあう
・2012年に人類は破滅する
・2年後に株価は暴落する
(C)あたるかどうかぜったいわからない予言
・あなたは死後地獄に落ちる
・宇宙人が私たちの間に混じりこんでおり、私たちはもうすぐ知らないうちに征服される
◎タイプAの予言について
タイプAの予言のしくみはいうまでもない。不老不死の人間はいない以上、いつかは誰でも必ず死ぬのだ。東京にも定期的に直下型の地震が起きており、いつかまた必ず起きる。株価は上がったり下がったりをくりかえしており、下がるタイミングは必ずある。いずれも、時点や規模を特定さえしなければ、いつか必ず起きる。
タイプAの予言をする際に気をつけなければならないことは、まず第一にこのからくりに気づかれないことだ。その意味で、相手を選ぶ予言といってよい。さらに、予言を行うときの雰囲気も考えよう。コミュニケーションの効果は、そのときの周りの環境によって大きく左右される。予言者にふさわしい服装や態度、言葉遣いはいうまでもなく、水晶玉などの道具(最近はパソコンも有効な道具になる)にも気を遣わねばならない。照明を落としておくことも有効な方法だ。
いずれにせよ、このタイプの予言を世の中に広めるのは難しい。1人に見抜かれてしまえばおしまいだ。ごく少数の相手方、1人かせいぜい2、3人までが限界だろう。あとは、それを人にぺらぺらしゃべられないよう、しっかりクギを指しておいたほうがいい。
◎タイプBの予言について
タイプBの予言は、やや高等な戦略を必要とする。いずれも時点をある程度限定しているからだ。その時点になれば、いやでもばれてしまう。したがって、「起きる時点」をどう設定するかが重要だ。影響の及ぶ範囲が大きいとき、たとえば世界が破滅するとか富士山が噴火するとかいった類は、あまり期限が迫っていると真実味を欠く。早くて半年~1年、長ければ10~20年前後がよいだろう。重大なものほど期限までの期間は長いほうがいい。しかし100年とか、あまり遠い期限はおすすめできない。切迫感がなく、信じるインセンティブを与えないからだ。
タイプBの予言は、短期間に集中して広めるのが最も効果的である。人々のうわさに上ることで、信憑性を高めることができるからだ。うまくこのサイクルに入れば、あとは勝手にマスコミが広めてくれる。そのときに備えて、信憑性をさらに高めるために、「過去の実績」を用意しておこう。私は19XX年のあの大地震発生を予知したとか、私の予言にしたがって飛行機に乗るのをやめた人が、○年前の墜落事故から逃れたとか、そういう類だ。まずは手早く低コストでできるウェブサイトを立ち上げ、こうした「実績」を並べておこう。ただしウラをとろうとする輩がいるかもしれないので、慎重に。
タイプBの予言でもう1つ重要なことは、撤収時期の選択だ。のうのうと期限の日を迎えて恥をかくようなまねをしてはならない。1回限りでいいならぎりぎりまでねばってもいいが、その後も予言者としての名を保ちたいなら、人々が期限日到来までに予言そのものも忘れ去ることができるよう、期限よりも最低半年は余裕をもって撤収しておこう。
◎タイプCの予言について
タイプCの予言は比較的気楽だ。証明されるおそれがない。あるいは、証明した者がいたとしてもその結果が人に広まるおそれはないからだ。ただしそうであるがゆえに、信じさせることができるかどうかがカギだ。できるだけたくさんの「証拠」を用意しておこう。
このタイプの予言は、気長に広めよう。「事例」を集めていくのがよい。どんな予言でも、必ずそれに合う事例はあるものだ。その意味で、このタイプの予言は、「予言者」として語るより、「研究者」として語るほうが有効かもしれない。
4 最後に
最後に忘れてはならないもの。おそらく一番大事なものが、disclaimerだ。キーワードは、「すべてはあなたの心がけしだい」。心がけのいい者には幸運が、悪い者には不運がくる、と言い含めよう。このときは思いっきり深刻に、ありったけの迫力をこめて。こうしておけば、聞き手は、予言がいい方向にはずれたときは「自分の心がけがよかったから」、悪い方向にはずれたときは「自分の心がけが悪かったから」、あたったときは「さすが」となり、予言者はリスクに対して中立となる。たいていの人は、「いい心がけ」と「悪い心がけ」の双方に思い当たる事実があるものだ。心配はいらない。
さて、以上を身につければあなたも偉大な予言者になれる。あとはあなたがどのくらい努力するかだけ。心がけしだいだ。・・・と、これは私の予言。
2つ重要なことをここでは書いていない。それは「何のために予言をするか」「誰に対して予言をするか」である。予言は、その目的によって、対象やアプローチを選ばなければならない。また、予言がコミュニケーションの1種である以上、相手によってやり方を変えるのは当然のことだ。「活用目的別・相手タイプ別予言マニュアル」は、次の機会にとりあげたい。
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