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December 01, 2004

A "Copied" Cat

あちこちのニュースサイトやらblogやらでもうかなり有名になっているのでご存知の方も多いだろうが、米連邦通信委員会(FCC)のウェブサイトに、「ドラえもん」そっくりのキャラクターが使われている。

「Broadband」というあまりにもベタな名をつけられたこのキャラクターは、FCCの子供向けサイトの案内役だ。どうみても日本人の目には、ドラえもんの頭に耳をつけ、色をベージュに、服を趣味の悪い縞模様に変えたものにしか見えない。知っている人も多いだろうが、アニメの設定では、もともとドラえもんには耳があり、色も黄色かった。ねずみロボットにかじられて耳がなくなり、それを嘆いて大泣きしたために塗装がはがれて地の色である青になったのだ。この絵はまさにそのままパクリといってもおかしくない。

ずっと以前、ディズニーの「ライオンキング」が「ジャングル大帝」のパクリだと話題になったことがあった(手塚氏の遺族は「ディズニーに模倣されるならむしろ光栄」のようなコメントを出して許容したそうだが)が、キャラクターの似ている度合いはその比ではない。しかも、オリジナルの完成度には似ても似つかぬ素人並のレベルの低さだ。まったくちなみにだが、声も大人の男性の声で、まったく愛嬌というものがない。

キャラクターの絵柄に著作権表示がついていないところが気になる。もちろん、オリジナルとは微妙にちがっていることからみて、ライセンスを受けてのものでないことは明白だ。FCCといえば米国の通信政策を担当する政府機関で、テレビや電話、インターネットやブロードバンドなどを所管しているから、知的財産権保護に関しては「プロ中のプロ」のはずである。つい最近まで、デジタルテレビの著作権保護を強化しようと消費者団体と法廷でやりあっていたぐらいだ。この「copycat」ぶりはいったいどうしたことなのだろうか。

確かに「ドラえもん」はアメリカでは放映されていない。調べていないが、アメリカでは著作権登録されていないかもしれない。しかし、「ドラえもん」といえば、世界15カ国でテレビ放映され(バンダイのサイトによる情報。別のサイトでは50カ国で放映、とするものもあった)、日本発コンテンツの代表格といえるものの1つだ。マンガにしたって、海賊版まで入れれば世界中でどれだけ売れたかわからない。アメリカにもファンサイトはたくさんある。

どうみても稚拙な絵柄からして、素人、ひょっとすると子どもの絵などからとったのかもしれない。描いた本人は著作権という考え方など知らなかった可能性もある。あるいは知っていたうえで、オリジナルから多少変えておけば問題ないと高をくくったのかもしれない。しかし、大きい円のそれぞれ左上と右上に接するように少し小さい円を描いただけで某社(社名は書かないが、実際に描いてみれば誰にでもわかるはずだ)から訴えられるこの国においては、いかがなものか。

私は、著作権の無制限な保護(アメリカではたび重なる法改正でミッキーマウスの著作権切れが何度も引き伸ばされている。俗に「ミッキーマウス法案」などという)を必ずしも適切とは考えていない。たまにいる著作権を認めない一派のような極端な考え方もどうかとは思うが、オリジナルに敬意を払って使ったり、新しい解釈を加えて別の世界を作り上げたりといった工夫を許容することは、優れたクリエーターを育てる土壌になるし、結果として社会全体のためにもなることもあるかもしれないと思う。少なくとも「少し変えておけば引っかからない」といった低俗な動機で作られたコンテンツが氾濫するよりよほどましだ。

仮に将来「ドラえもん」がアメリカに進出することがあったとして、まさかFCCが「ドラえもん」を著作権侵害で訴えるようなことはあるまい。…まさかないよね?ないと信じよう。まさかそこまで厚顔無恥ではないだろう、と。…いやしかし、何しろアメリカだし…。

ともあれ。

著作権を国際的に管理するしくみが必要かもしれない。きちんと作ろうとすれば、まずルールの共通化が必要だろうが、これはかなりの困難を伴いそうな気がする。とりあえず、国際的な登録制度を作れないかどうか、考えてみたほうがいいかもしれない。

※追記
ベルン条約のことは知らないわけではないが(たいして知っているわけでもないが)、ここで意図しているのは、実効性のある保護手段だ。一般的な犯罪の場合、法律があってそれに基づいて裁くわけだが、そういう裁判制度がなりたつためには、その前に捜査して被疑者を逮捕するという警察制度が必要だ。「著作権警察」のような存在はちょっとこわいが、かといって野放しになっているのもくやしい。中国あたりだとJETROががんばっているらしいが。とりあえず国際的な登録制度でもあれば、どんなものが登録されているかどうかぐらいはわかるようになるのでは、というわけだ。

※追記2
とうとう藤子プロがFCCに警告の申入書を送ったらしい。12月28日のニュースだ。申入書送付から約1カ月たったこの時点でもFCCからの回答はなく、Broadbandも削除されていない由。

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Comments

興味深く拝見しました。トラックバックができないので、mixi日記内でURLをご紹介させていただきました。タイトル、技アリですね。

>オリジナルに敬意を払って使ったり、新しい解釈を加えて別の世界を作り上げたりといった工夫

これは私も大賛成です。実際にやられている例としては「THE ドラえもん展」「KITTY EX.」の展示作品が有名ですかね。こういった有名アーティスト参加の展示会は、基本的に版権元ありきですよね。ただこれが一般のクリエーターや、版権元が好印象を持たないパロディ等の場合、どこまで許されるのか、あるいは誰がどんな基準で「OKかNGか」を判定するのか、今後の整備が大変そう。何かいい方法って、あるんでしょうかね?

Posted by: ドリ | December 01, 2004 01:39 PM

さる方から、「アメリカ人は、ネコは許せてもネズミは許せないのだ」、という秀逸なコメントをいただいた。アメリカ人はネズミ好き、なのだろうか。そういえば「トムとジェリー」でも、ネズミが必ず勝つし。

Posted by: 山口 浩 | December 06, 2004 04:27 PM

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» 耳があれば良いというものでも [fareaster]
以前にも紹介しましたが、アメリカ連邦通信委員会(FCC)の子供向けイメージキャラ [Read More]

Tracked on December 29, 2004 11:09 PM

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