キャラクターにも「年の功」
世界で最も有名なキャラクターといえば、おそらくかなりの人が「ミッキーマウス」を挙げるだろう。ウォルト・ディズニーが創りだしたこのネズミのキャラクターは、1928年 (昭和 3年)、ウォルト・ディズニー社が製作した米国初のサウンド付アニメ映画「蒸気船ウィリー」の主役として登場した(ちなみに封切りの日である11月18日はミッキーマウスの誕生日なのだそうだ)。
もう76年前になる。人間でいえばもう立派な高齢者だ。ネズミなら20回は生まれ変わっているだろうか。
…いやそんなことはどうでもいいのだが。
要するに、ミッキーマウスというキャラクターは、長い間人気者であり続けたということだ。「蒸気船ウィリー」をはじめ、初期のディズニーのアニメーション映画は今見ても面白い。ぬいぐるみなどのキャラクターグッズにしても、現在のものと並んで初期デザインのものもラインアップされており、一定の人気を保っている。ファン層は既に3世代、4世代めを迎えているだろう。これほど長い間商業価値を失わないキャラクターはなかなかない。
こうした時の経過は、キャラクターにどんな影響を与えるだろうか。
初期のアニメーション映画において、ミッキーマウスは現在よりもずっと「いたずら好き」で「暴れ者」だった。ドタバタのアニメーション映画だから、そうでないと主役は務まらないのも当然といえば当然だが、今の「いい子」ぶりからは想像もできないほどの「悪さ」を平気でしたりもしていた。
しかし今、ミッキーマウスはすっかり「丸くなった」。怒ったりどなったりしない。けんかもしない。いつもニコニコしている印象がある。…今のミッキーマウスは、長編映画で主役を務めることはない。私のこの印象は、主にディズニーランドで我々を出迎えるミッキーマウスの着ぐるみから来ている(着ぐるみだからいつもニコニコはあたりまえだ)。そこではミッキーマウスは、彼らディズニーキャラクターの「街」にゲストを迎えるホスト役を務め、パレードで主役を務めたりもするが、全体としては、他のキャラクターを盛り立てる役に回っている。
なんだかテレビタレントのようではないか。華々しくデビューし、主役として一世を風靡した後、一歩下がってまとめ役となり、「後進」を盛り立てている。なんとも「大人」だ。
これをみていると、キャラクターにも「年の功」があるのかもしれない、と思う。考えてみれば、ドラえもんも少し似ているような気がする。ドラえもんは未だに新作長編映画が作られる「現役」の映画スターではあるが、1969年のマンガ連載開始から35年を経た立派な「中年」だ。うろ覚えでしかないが、初期のマンガでは今のアニメと比べてもう少し「過激」なところがあったと思う。
こうした、キャラクターが時間の経過とともに丸くなっていく現象が一般的なものだとすると、それはどういう原因なのだろう。今の時代が「丸い」キャラクターを求めているのだろうか。しかし今でも「丸くない」キャラクターはたくさんある。ということは、やはりキャラクターは時間がたつと、丸くなっていく場合が少なくない、ということなのだろう。
推論だが、これはキャラクターがそのもともといた世界から飛び出していくことに起因しているのではないか。マンガなりアニメーションなりの世界では、主人公たちはかなり過激な行動をとっても許容されるし、それが人気の源にもなる。しかしそれが現実世界に飛び出し、商品のキャラクターやキャンペーンのマスコットに使われるようになると、少しはおとなしくしないといけなくなる。「クレヨンしんちゃん」だって、企業の広告キャラクターになっているときは、「ぞうさん踊り」などしない。
つまり、活躍の場がマンガやアニメ、映画など、仮想の世界から、現実の世界に移ってくることにより、われわれの眼に映るキャラクターの性格が変化していく、ということなのかもしれない。
キャラクターは年をとらないが、作者は年をとる。したがって長寿のキャラクターは、やがてその作者から離れるときがくる。作品が原作者から離れたとき、キャラクターはどこまで「冒険」できるだろうか。これは、「作品は誰のものか」という大きな問題につながる。この問題は大きいので、また別の機会に考えたい。
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Comments
初めまして。読み応えのある記事を
ありがとうございました。
ミッキーマウスは、本当に長寿ですね。
顔つきが変遷していったのは私も知っておりますが、
今では電車・バスのペイントはもちろん、
IT製品やフレッツのコンテンツにまで進出して。
企業努力とファンの支持とキャラクターに潜在する
人を惹きつける何かの力がうまくかみあってこその
長寿なのかもしれませんね。
よい記事をありがとうございました。
Posted by: ジェミニ | March 26, 2005 05:09 AM
ジェミニさん、コメントありがとうございます。
ミッキーマウスもそうですが、おっしゃるとおり、長生きキャラクターは、作り手も消費者も含め、それを支える人たちあってこそですね。
Posted by: 山口 浩 | March 27, 2005 01:44 AM