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December 03, 2004

給料におけるリスクとリターン

投資を考えるとき、リスクとリターンのトレードオフを考えよというのはもはやすっかり当たり前になった。ハイリターンを狙うなら、ハイリスクを甘受しなければならない。そうでなく、もしローリスクでハイリターンの投資があれば、皆が殺到して値を吊り上げるので、結局ローリターンになってしまう。

この当たり前と思われる原則が、どうも成り立っていないと思われる領域がある。
給料だ。

他人に雇われる身の人は、労働を供給しその代わりに給料を得る。つまり一部の資産家の方々を除けば、最大の「投資」は自分の労働だということになる。とすると、投資に対するリターン、すなわち給料については、リスクとリターンのトレードオフが働かなければならないはずだ。

ここで思い出すのは、最近すっかり一般的になった派遣社員だ。派遣社員は人材派遣会社に所属し、他の企業に派遣されるのだが、有期雇用だから、定められた期間が経過すれば、基本的に契約は切れる。もちろん派遣先から評価されれば延長もあるのだろうが、そうでない場合、派遣会社も雇用を守ってはくれない。きわめて不安定な立場で、いってみればハイリスクの「投資」だ。もちろん派遣社員の側が長期雇用を望まず、「自由」な派遣社員の地位に満足している場合もあるのだろうが、それは契約内容とは関係がない。派遣社員として働くという選択は、ハイリスクなのだ。

問題は、それに見合ったリターンなのかということだ。特に大企業でよくみられるのだが、派遣社員はしばしば人件費抑制の手段として、正社員の代わりに配置される。正社員だと定期昇給だのベースアップだのがあったりして、勤続年数が上がると給料が高くなっていくが、派遣社員ならそうした問題はないというわけだ。ここでは暗黙のうちに、勤務先企業にとって派遣社員のほうがコストが安くすむことが前提となっている。派遣会社のオーバーヘッドも考えれば、派遣社員本人の取り分はさらに少ない。つまり派遣社員という「投資」は、ハイリスク・ローリターンになってしまっている。正社員のローリスク・ハイリターンと比べて、このような「B級市民」的な扱いは、あまりにも不公平ではないか。そもそも人材派遣契約という法的スキームの本旨にもとるやり方だ。

理屈からいえば、この不公平は、能力差によって説明されるべきものである。正社員は能力が高いので、ローリスク・ハイリターンなのであり、対して派遣社員はハイリスク・ローリターンに甘んじよ、ということだ。少なくとも理屈上はそうでなければならない。しかし実態は、…そうでない例が少なくないことを、勤め人ならたいていの人が知っているはずだ。

多くの人が大好きな公務員批判についても、似たようなことがいえる。公務員といえば、ローリスク職業の典型といっていい。公務員が高い給料をとることに批判が強いのは、まさにこのためだと思う。同じ能力ならば、民間企業よりローリスクである以上、民間企業よりローリターンでなければならない。公務員の能力は民間企業職員より高いという議論もあるのはわかるが、そうでない例も枚挙に暇がないことは、これまた多くの人がよく知っている。

派遣社員に話を戻すと、つまるところ、多くの企業は、自社の人事制度の不備(社員の貢献に応じた給料を支払うしくみにはなっていないこと)のつけを派遣社員に回しているのだと思う。考課者の技量不足、組合がうるさい、制度改訂は面倒、…理由がいろいろあるのはわかるが、どうにかならないものだろうか。たとえば、派遣社員の給与に法律などで下限をつけたら?派遣先企業で同等の業務を担当する正社員の給与額を下回ってはならないとか。…たぶん、こういう方法はうまくいかない。逃れる方法はいくらでもあるからだ。また、派遣社員の労働条件を引き上げることで、今度は派遣社員としての就労機会自体が減少してしまう可能性もある。どうしても制度的にいじるなら、正社員の雇用ないし給与に対する法的な保護を減らしていく方向しかないかもしれないが、これもまた日本の現在の環境下では難しかろう。

結局、この種の市場の失敗を政策で直接補うことはできないと思う。市場メカニズムによって解決するしかないのではないか。社員を、そして派遣社員を「適切」に処遇する企業が競争に勝ち残っていくようになれば、世の中は変わるだろう。景気がよくなって、派遣社員の需給が逼迫でもしない限り、残念ながらとても遠い道のり、という感じがするのだが。

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