ユビキタスも所変われば
手元に「ネットワークマルチメディアソリューション:MarineView」という製品のカタログがある。製造元は㈱エフケイデジタルという企業だ。九州・国際テクノフェアの「e-展示館」というサイトに出ている解説には、「近未来のユビキタス端末」というキャッチフレーズがついている。
これでどんなものを想像されるだろうか。
現物はこれだ。一体型パソコンの本体部分に電話がついたような外観になっている。カタログによると、機能は次の通りだ。
(1)電話(IP電話対応)
タッチパネルディスプレイですべての操作が行えます。
他のソフトウェア使用中でも着信ができます。
留守番電話機能により、留守中の用件録音ができます。
(2)テレビ
タッチパネルですべての操作が行えます。
お使いの地域の放送局を自動的に選局して登録できます。
CATVの放送を視聴することができます(スクランブル放送には未対応)。
(3)インターネットブラウザ
タッチパネルですべての操作が行えます。
URL入力画面が装備されています。
必要に応じてスクリーンキーボードの表示ができ、文字入力や文章作成ができます。
(4)テレビ電話
タッチパネルですべての操作が行えます。
電話と同様の感覚でテレビ電話が利用できます。
電話回線を利用しないため、通話時間による料金課金がありません。
…「ネットワークマルチメディアソリューション」はともかく、「ユビキタス」ということばの一般的なイメージとは、若干異なるように思う。もうおわかりだと思うが、この製品を形容することばとしては、「ユビキタス」というよりは「ユニバーサルデザイン」のほうが近いかもしれない。「デジタルデバイドを解消する人に優しい情報端末」というわけだ。そのため、操作はタッチパネルで行えるようになっていて、キーボードやマウスは存在しない。コミュニケーションの手段は、基本的に音声と画像だ。文章を打つことも可能ではあるが、メールのやりとり自体を想定しない作りとなっている。
なんだ、といってはいけないと思う。最近、携帯電話でも、電話機能のみにしぼった単機能型端末が人気を博しているようだ。こうしたシンプルかつ直感的な使い勝手の道具へのニーズはけっこう高いのかもしれない。
デジタルデバイドは、「彼ら」だけの問題ではない。「彼ら」がネットの世界につながるようになると、社会のしくみ全体が、デジタルの方向へと移行していくことができる。大半の家庭がIP電話になれば、従来型の電話サービスも廃止の方向へ動きやすくなるし、NTTのあり方も変わってくるのではないだろうか。電子メールもボイスメールのようなものなら誰にでも使うことができるから、それが普及すれば、郵便サービスのあり方についての考え方も抜本的に変わってくるはずだ。今は一部の人がデジタルネットワークにつながっていないために、私たちの社会は「二重」のシステムを維持せざるを得なくなっている。これがより安価なデジタルに統一されていけば、社会全体のコストが低減する。いいかえれば、デジタルデバイドの解消は、ネットワーク外部性により、社会全体にメリットがあるはずだ。
というわけで、MarineViewにはぜひがんばってもらいたい。「ユビキタス」が「いつでも、どこでも、だれでも」なら、確かにこれも「ユビキタス」だ。モバイルやら無線タグやらといったハイテクだけがユビキタスではない。「いつでも、どこでも、だれでも」の次に「それぞれの事情に合わせて」を付け足しておくべきなのだろう。
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