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January 03, 2005

「APPLESEED」とCG映画の可能性

最近DVDが発売された映画「APPLESEED」は、「史上初のフル3D CG映画」、というふれこみだ。あれ?「FINAL FANTASY」は?と思わなくもないのだが、まあいい。 本題はそこではなく、「CG映画」というものの可能性についてだ。(「APPLESEED」の公式サイトはこちら

ちなみにCG(Computer Graphics)ということばは、最近ではCGI(Computer-Generated Image)というらしい。以下はこの用法でいく。

映像ディレクターかつ東北芸工大学専任講師でもある斎賀和彦さんの講演で聞いた話だが、世界最初のCGIは、砲弾の弾道計算結果を図示するためのものだったそうだ。もともとコンピュータなるものが砲弾の弾道計算を行うために開発されたことを考えれば、自然な流れではある。

これも斎賀さんの話だが、エンタテインメントの分野でCGIが初めて本格的に使われたのが、映画「Tron」だった。1982年にウォルト・ディズニーが製作したこの映画では、実写とCGIを融合し、人間がコンピュータ内に入り込んで戦いを繰り広げる。今となっては稚拙に見えるグラフィックスも、当時は先進の映像として一部に人気を博した。私も映画館で見て「すごい」と思った1人だ。(ちなみに、この映画をモチーフにしたゲームが最近発売されているのだが、Amazonでみる限り、日本で売られているのはMac用だ。アメリカのアマゾンのサイトでは、Windows用もゲームボーイアドバンス用もあるが、いずれも日本で買うことはできない。)

話をもとへ戻す。何がいいたいかというと、映画「Tron」は、現代の目から見ればたいしたことのない映像ではあったものの、CGIという技術が映画において今後重要となってくるであろうことを予感させる作品ではあったということだ。そしてそれは現実のものとなった。個人的な印象でいえば、次にこのような「大きなジャンプ」を感じさせた作品は、1993年の「Jurrassic Park」だった。この作品の中で描かれた、素人目には実際にそこにいるとしか思えない恐竜たちの姿は、CGIで生物を描くことが映画制作において現実的な選択肢となったことをはっきりと意識させたものだった。映画「APPLESEED」で使われた新しい技術はモーションキャプチャーだ。ゲームではすでにおなじみとなっていこの技術だが、3DCG映画でこれほど大々的に使われたのは、おそらく「APPLESEED」が初めてではないだろうか。

「APPLESEED」では、主人公を含む主要な登場人物の動きや表情が、モーションキャプチャー、フェイシャル・キャプチャーを使って制作された。主人公のデュナン・ナッツは、声優のほか、モーションアクトレスが通常演技担当とアクション担当の2人おり、計3人が演じたことになる(顔の表情をとるフェイシャル・キャプチャーは声優が演じた)。映画の「出来」については、さまざまな評価がある。もともと士郎正宗による原作が有名だったこともあり、原作に思い入れの強い向きも多かろう。「APPLESEED」に関しても、「すごい」「好き」といった好意的な評価だけでなく、作品そのものについても、あるいは3DCGについても、あまりよくないとの評価もある。

私はそうした作品論はあまり好まない。もとより個人の好みから離れるものではないからだ。それに、批評の類をする人は、ほめると自分の格が下がると考えているふしがあり、作品をほめたがらない傾向が強い。普通によい作品は「見るべきところのない作品」だし、かなりいい作品でも「ここが気に入らない」とくる。商業的にヒットした作品をほめることなどもってのほかだ。おそらく、自分はそこらのミーハーとはちがうのだということを示すためなのだろう。私は、そうした面では、徹底して「楽しむ」側でありたい。

しかしそうした作品論的な面ではなく、この作品が映画という表現方法に与える影響や、それが映画産業に及ぼす波及効果については、おおいに興味がある。ここまできてやっと本題だ。ここでいいたいのは、「APPLESEED」は、映画の発展史において「Tron」に似た役割を果たすことになるかもしれない、ということだ。物語そのものや、そこで使われた3DCGのクォリティがどうであれ、「APPLESEED」は、「こうしたやり方」が可能だということを作品のかたちではっきりと示したという意味で先駆的であり、記念碑的な作品になりうるのではないか。「Tron」がCGIの映画への利用の可能性を示したのと同じようにだ。仮に「APPLESEED」のモーションキャプチャーを使った3DCGアニメーションが稚拙にみえたとしても、技術はすぐに進歩する。10年もたてば、びっくりするほどの進歩を遂げるかもしれない。「Tron」から「Jurrassic Park」まで11年しかかかっていないことを思い出せばすぐにわかる。

モーションキャプチャー、フェイシャルキャプチャーが本格的に使えるようになると、映画における演技者の対する制限が大きく緩和されることになる。演技者の外見は、その演技の説得力に関係なくなるのだ。これまで俳優という職業は外見にすさまじいほどの制約があり、また年齢面でも活躍できる年齢に制限があった。しかしこうした技術が使えるようになると、必要なのは演技力だけだ。逆にいうと、外見や若さだけでは通用しなくなる。ことばの問題さえ解決できれば、人種だって関係なくなるかもしれない。天文学的なギャラをとるハリウッドスターに頼らない制作、年齢を超越する制作が可能となるかもしれない。日本の映画制作業界が海外展開を指向するのであれば、これは悪くない方向性だと思う。

むろんハリウッドもだまってはいまい。この方向性は、最近公開された「Polar Express」にもあらわれている。この3DCGアニメーション映画の中で、トム・ハンクスは主役である子供を含む5役を演じている。これが可能ならば、年老いた往年の名女優が少女を演じることも、報酬の安い外国人を使って作品を制作することも、技術的には可能になる(外国人の採用はハリウッドの場合別の問題があるが)。今はCG然とした人物しか描けないかもしれないが、10年たてば大きく変わってくるだろう。将来、映画がこの技術によって開かれる可能性をフルに生かす方向に進むのかどうか、今はわからない。今後の制作者次第、という面もあろう。ただし映画の世界では、新しい技術の開発が新たな作品、新たな制作方法、新たな表現をもたらしてきたことも事実だ(たとえば1996年の映画「Twister」は、竜巻という複雑な自然現象がCGIで表現可能になったことが製作の契機であったらしい)。今後の動向を注意して見守ろう。そしてそうした流れの最初の作品として、この「APPLESEED」を記憶しておくべきだと思う。

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Comments

こんにちはmasamicです。

TRONは映画館にわざわざ見に行きました。CGを見るために。
#すでにそのころにはCGに興味がかなりあったので。

演じている人間の着ている衣装の光っている部分は大量の中国人を導入して手でトレースさせた代物ということでも有名ですね。一部の世界ではそっちのほうが有名なせいで、世界初のCG映画であることを認めない人たちもいるようですが、実際にCGを使っているところもある点では、その人たちは間違った認識をしているのですけどね。

まあ、ともあれ、TRONは、TRON 2.0という映画がうわさにあがっているくらい意外に評判の良かった映画です。本当にTRON 2.0 が作成されるのか興味しんしんです。

Posted by: masamic | January 06, 2005 03:48 PM

ゲームは「Tron2.0」という名だったかと思います。映画用の企画がゲームに流れたのでしょうか。ゲーム自体は評判いいみたいですが、映画化となるとどうでしょうか。あ、でも、最近リメイクもの大はやりですから、ひょっとしたら今ごろどこかで…?

Posted by: 山口 浩 | January 09, 2005 11:19 AM

実はモーションキャプチャーは新しい技術ではなく、むしろアニメの歴史においては古いのだという記事が、以前、HOTWIREDに載っていました。

個人的には「イノセンス」は現代アニメの集大成、「アップルシード」は未来への胎動って感じでしょうか。

Posted by: beer | March 01, 2005 12:22 AM

beerさん
コメントありがとうございます。ご指摘の点は、いわゆる「ライブアクション」のことでしょうか。あの昔のディズニーのアニメーションみたいなやつ。最初に実写を撮って、その動きからアニメ画を起こす手法ですね。
確かに同じ系統という感じですね。直系の子孫といえるかもしれません。

Posted by: 山口 浩 | March 01, 2005 01:37 AM

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