いかがなものかNHKの著作権ビジネス
NHKは、放送法第9条第4項で、その業務において「営利を目的としてはならない」ことと定められている。確かにNHK自体は営利を目的としてはいないのだろうが、どうもその周囲まで含めると、そうでもないと思う部分がある。
NHKの関連団体が行っている著作権ビジネスだ。
NHKには「関連団体運営基準」なるものがあって、その第6条で関連団体の業務範囲を定めている。2003年7月1日時点(ネットで公開されている中では最新だ)の資料で、NHKには子会社が23社、関連会社が4社、関連公益法人が9団体ある。子会社は放送番組の企画・制作、販売分野で16社、業務支援分野で7社だ。子会社の業務範囲の中には、「協会の放送番組に係る著作物について、その複製物を作成し、もしくは頒布し、またはこれを有線送信する事業」なんていうものがある。NHKの著作権ビジネスは、おそらくこのあたりに根拠があるのだろう。もちろんおおもとをたどれば放送法に準拠している。
きちんと法令の根拠があるからいいのだ、という話ではない。ここでいいたいのは、そういう法令はいかがなものか、あるいは、法令はともかくとしてこういうやり方はいかがなものか、ということだ。
NHKの子会社等で著作物の制作・販売に関わっている会社は11社もある。関連業務部分を抜き出すとこうなる。
㈱NHKエンタープライズ21
・各種映像ソフトの制作・販売
㈱NHKエデュケーショナル
・主として教育に関する映像ソフトの制作、販売
㈱NHKソフトウェア
・各種映像ソフトの制作、販売
㈱日本放送出版協会
・NHKの放送番組に係るテキストの発行
・NHKの放送番組に関連する図書、雑誌の出版
・各種書籍、ビデオ、CD-ROM等の発行
㈱NHKきんきメディアプラン
・各種映像ソフトの制作、販売
㈱NHK中部ブレーンズ
・各種映像ソフトの制作、販売
㈱NHKちゅうごくソフトプラン
・各種映像ソフトの制作、販売
㈱NHK九州メディス
・各種映像ソフトの制作、販売
㈱NHK東北プランニング
・各種映像ソフトの制作、販売
㈱NHK北海道ビジョン
・各種映像ソフトの制作、販売
㈱総合ビジョン
・ビデオソフト用映像素材の制作、販売
これらの企業が行う著作物ビジネスの大半はNHKの放送番組に依拠したものだろうと思われる(そうでなければそもそもこれらの企業が行う理由がない)。似たような事業を行う企業がなぜこんなにたくさん必要なのか知らないが(想像はつくが)、要はNHKの生み出した「国民の資産」であるはずの(というか、「べき」というか)著作物が、ビジネスの道具とされているのだ。NHKの2003年度の連結事業収入は744,575百万円、うち受信料が639,141百万円に対して、それ以外が105,434百万円だから、受信料以外の収入は全体の約14%を占める。もちろんこれは全体だから、うちどのくらいが著作権ビジネスによるのかはわからないが、23団体中11社までがこの種の事業を行っていることを考えると、割合はけっこう高いのではないかと推測する。ちなみに、NHK本体で従業員が約12,000人であるのに対し、関連団体等には約4,500人いる。
NHKの著作権ビジネスを問題視しているのは、単純な理由で、それが公共放送だからだ。「みなさまのNHK」は、放送法第32条で、NHKを受信できる設備を持つ者に受信料の支払いを義務付けている。このような、税金にも似たしくみで収入が「保証」(今はかなりご苦労されているようだが)されているのに、それによって作られた著作物を普通の私有財産のように扱うことは、法令はともかくとして、適切なのだろうか。民間企業である民放が、自ら著作権を持つコンテンツを二次利用して収益機会とするのは当然だ。しかし86%の収入が法律で守られ(国民から「収奪」していると考える人もいるだろう)ているNHKと、民間企業などからの広告収入で経営している民放を、同列に論じることはできないと思う。
NHKのサイトには著作権に関する項目があって、「テレビ番組はたくさんの人々の協力ででき上がっており、NHKが作ったテレビ番組を放送以外の目的に利用する場合には、NHKの判断だけでなく、原作者、脚本家をはじめ、出演者など、協力して頂いた多くの方々に改めて許諾を得なければならない仕組みになっています。」という理由を挙げて、NHKの著作権を侵害しないよう訴えている。一見もっともだが、やはり一種の子供だましではないかと思う。過去の著作物は別として、これから作るものなら、そういう条件で当初から契約すればいいだけのことだ。少なくとも、一般的な二次利用に関して問題があるとは思えない。何よりこれは、NHKのグループ企業が著作権ビジネスを独占する理由にはならない。
ここでは、関連団体のあり方をどうこういうより、国民がNHKのコンテンツを利用する権利、について問題を絞りたい。こんなことを考えるのも、同じ公共放送でもNHKとはちがったやり方がある実例を私たちは知っているからだ。2004年5月、BBCはテレビ番組のアーカイブをクリエイティブコモンズのライセンスの下で公開することを決めたという(ニュースリリースはこちら、日本語のニュースはこちら)。BBCは「Creative Archive」と呼ばれるこのような取り組みを通じて、保有するテレビ番組のデジタルクリップを、ユーザーがダウンロード、配付、修正できるようにすることを決めた。ユーザーがこれらの素材を再販することはできないが、BBC制作のコンテンツの利用可能性は大幅に高まる。少なくとも、「みなさまのBBC」が英国民に対して果たすべき役割、といったものを真剣に考えた結果ではあるはずだ。
NHKだって、現在のままでもまったくできないことはない。とりあえず、アナウンサーとテロップと、出演料を支払わずに撮影してきた画像からなるニュース番組などは、権利関係の問題があまりないのではないか。このあたりからでもクリエイティブコモンズのライセンスで公開していってはどうだろうか。「みなさまのNHK」が制作した番組は、もちろん管理は必要だが、原則として「みなさま」のものというのはきわめてわかりやすいし、民放とは明確にちがう公共放送としての役割を社会に対してアピールすることにもなる。せっかく経営改革するのだから、このくらいのインパクトのあることをやったらいいと思う。
余談だが、NHKサイトの情報公開のページは、けっこうわかりにくい。民間企業のIRのページと比べていただけるとわかるのだが、公開資料にたどりつきにくいようさりげなく工夫しているのではないか、とすら思える。「ポーズとしての情報公開」をお考えの向きにはたいへん参考になると思う。
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Comments
NHK番組のDVDビデオソフトって高すぎるのですよね。
アニメのカードキャプターさくらのDVDBOXは23話収録で34650円(!)もするんですよね。
Posted by: Piichan | March 08, 2005 10:49 PM
Piichanさん
コメントありがとうございました。他のはどうなのかと思って調べてみました。
同じ「さくら」のDVDは、ばら売りだと1枚に4話収録(約25分×4)で7,140円。NHKの他の番組の例では、「プロジェクトX]が1枚に1話(約45分)収録で3,800円。単価的には1分あたり70~80円といったところでしょうか。
他局の例では、「名探偵コナン」が4話収録で3,528円。「踊る大捜査線」は2話収録で4,179円、「ごくせん」は3話収録で5,020円。1分あたり30~40円といった感じにみえます。
確かにNHKは民放より高い感じがしますね。いったいこの差はどこからくるのでしょうか。
いや、参考になりました。ありがとうございました。
Posted by: 山口 浩 | March 09, 2005 05:22 PM