やや暴論ぎみ:議員年金制度について
国会議員の年金制度である議員年金が国民年金に対して優遇されているとして問題になっていたが、これに関して、衆参両院議長の諮問機関「国会議員の互助年金等に関する調査会」は2005年1月20日、新議員年金制度案を答申した。
なんだか袋叩きにあっているこの新制度案だが、別の見方をすることはできないだろうか。やや暴論ぎみにだが考えてみた。
答申によると、議員が負担する納付額を70%以上増やす(毎月94,900円から133,900円に、年2回のボーナス時には計592,100円(29,155円から562,945円に)一方で給付は30%減(最低受給額は現行の年412万円から288.4万円に減額)とし、国庫負担率を72.7%から50%まで引き下げることとしているらしい。国庫負担率「50%」は国民年金とほぼ同じというわけだ。また、在職10年からもらえるという受給資格年数を在職12年(国民年金は25年)とするなど、条件を悪化させて、不公平感を減らそうというものらしい。しかし、当初政治家たちがこぞって提案していた制度廃止については簡単に否定されたし、国庫負担率も法律で決めるのではなく単なる目安ということらしい。重複受給できるのも同じ。また現時点の受給資格者に対する受給額は変更されないそうで、現職国会議員の半数近くは現行制度をベースにした給付を受けることができるらしい。
というわけで、手ぬるいだとかお手盛りだとかポーズだけだとか新人議員へのしわ寄せだとか、批判の大合唱が展開されている。ここでそのグループに加わってもあまり意味はないと思うので、少しちがう見方をしてみる。
答申は、この水準の改革によって国民年金との不公平はほぼ解消される、とみなしたわけだ。百歩譲ってそれを前提としてみよう。すると、国民の不公平感は、「国会議員しかこの制度を利用できない」ということに集約されることになる。ならばこの制度を、この保険料を負担するすべての国民に開放すればいいではないか。答申では、公的年金との一元化については「議員年金制度の健全性と安定性の確保が急務」として、早期の制度統合を否定したそうだが、もしこう考えるなら一元化などする必要はない。2つの年金制度として運営すればいい。「低負担・低給付」型のベーシックプランと、「高負担、高給付」型の上乗せ型の2つだ。
それができないというなら、不公平が残っていることを認めることになる。答申には「国際的にも存続が常識」として存続を明記されているそうだが、このために国際政治学者をメンバーに入れたのか、と思う。確かに国会議員には退職金もないし、任期が終わった際の身分保証もない。不安定な立場だ。しかしそれならば、国民の全労働力のうち約10%(2001年で693万人)を占める自営業者も同じだ。被雇用者でも、有期雇用などのために退職金も身分保証もない人は少なくない。立場はちがわないのだから、特別扱いする必要はない。国会議員の退職後の生活にそれだけの金額が必要だというなら、一般国民も同じだ。同じ保険料を負担できる一般国民に、同じ給付を行わない理由などない。いや一般国民は国民年金で充分だというなら、国会議員も国民年金でいい。そういえば確か、自営業者には国民年金基金といったものがあったと思う。これと議員年金を一本化し、上乗せ給付はこれで対応するようにしたらどうか。
ちなみに、すでに受給資格を得たベテラン議員やOB、OGたちについても給付額を引き下げるべきと主張する皆さんは、自分のことばをよく覚えておいてほしい。ちょっとGoogleでみた限りでは、「既得権 ベテランは腹痛まず」と批判する東京新聞政治部の三浦耕喜氏の「議員年金改革案 演出の大ナタ」以外には、新聞などにはこうした主張はあまりないようだが、巷ではよく聞く。こう主張する方々は、われわれ一般国民の公的年金制度改革に対しても、ぜひ同じことを主張してもらいたい。よもや「一般国民は別」などとは言わないだろうね?国会議員をことさらに優遇する理由はないが、だからといってことさらに冷遇するべきでもない。先の三浦氏の社説はこう書いている。議員年金の改革案は、「ベテランに有利で、新人に不利-。(中略)ベテランの既得権を守るためのしわ寄せを若手や『次の世代』に押しつける制度となっているのだ」と。ちょっとことばを入れ替えてみよう。現在考えられている公的年金の改革案は「高齢者に有利で、若者に不利-。(中略)高齢者の既得権を守るためのしわ寄せを若者や『次の世代』に押しつける制度となっているのだ」。ぜひ、筋を通していただければ。そこんとこよろしく。
※追記
友人から、民主党議員ふじすえ健三氏のblogがこの問題をとりあげていると紹介されたので、トラックバックしておく。ただし本blogは特定の政党ないし政治家を支持ないし批判するものではないので、念のため。同氏は「これだけ年金が問題になっている中で、政治家だけいい目をみたいとの議論は通じるわけがありません。今は、まず政治家が泥をかぶり、その後に国民の皆様もお願いします、というべきではないでしょうか?」と書かれているが、これは既資格者の受給額についてもいえることだと思う。報道などでみる限り、民主党は今回の答申に対して事実上沈黙しているようにみえる。党内の勢力図は知らないが、若手議員としてご健闘いただきたい。
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Comments
こんにちは。
細田官房長官が中心になって集まった「社会保障の在り方に関する懇談会」とくらべると、結構な温度差を感じますね。
(場所はこちらです。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/syakaihosyou/ )
最近調べ物をして、その懇談会の議事録を読んだとき、「ああ。政治の世界でも、危機感を持って問題に対応しようとしている人たちがあるんだな。
しかも影響力のありそうな面子が集まっているじゃないか。」と勇気付けられたことがあります。
「国会議員の互助年金等に関する調査会」は人事院の配慮が流れ込んでるのかな?
はたまた、官房長官周りが何か動いても、税制調査会や労働連合会長が何か言っても、所詮ごまめの歯軋りに過ぎないのでしょうか。
今後の答申の行方や各メンバーの反応など、興味深いですね。
Posted by: ミズタマのチチ | January 24, 2005 11:43 AM
コメントありがとうございます。
政治家の方々にもいろいろなご意見があるのでしょう。多様な意見がある場合は、ふつうは収拾つかなくなりますから、責任ある立場の方の「決断」の問題ですね、これは。ある意味、今後の公的年金制度改革の方向性を示す「試金石」になるのでしょう。
Posted by: 山口 浩 | January 24, 2005 02:58 PM