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January 20, 2005

災害に強い社会:新しい金融の役割に関する私案

大地震への不安が高まっている。新潟県中越地震もあったし、スマトラ沖地震もあったし、北海道でも思い出したように比較的大きな地震が起きたりする。とはいえやはり気になるのは、いつ起きてもおかしくないといわれる東海地震、東南海地震、南海地震、それに首都圏直下型地震といった太平洋沿岸地域の大地震だ。自分が住んでいる場所に近い、ということもあるが、やはり社会や経済への影響がかなりの規模になるだろうから、地元の人々だけの問題ではない。(中央防災会議の「東海地震に関する専門調査会」と「東南海・南海地震等に関する専門調査会」における被害想定をご参照。首都圏直下型地震についてはこちらをご参照)

と言うわけで、地震への備えは欠かせないのだが、金融面で何かできることはないのか、少し考えてみた。

地震で金融といったら、一般的にまず思い出すのは地震保険だ。新潟県中越地震でも、当該地域での地震保険の契約率があまり高くなかったため、活躍というわけにはいかなかった。保険料が高いとか全額保障されるわけではないとか、制度面でもいろいろ意見があるのは事実だが、だからといって、一般家庭ではほかに代替するものはない。地震はいつくるかわからないから、という意見もあるが、損害保険とはそもそもいつ起きるかわからない事故に備えるものだ。なんとかならないか。

自動車では、自賠責保険がある。自動車を持つ者なら必ず契約せざるを得ない(車検に付随しているから)しくみになっていて、保険切れといった事態はまず発生しない。こういうしくみができないか?地震保険を自賠責保険のように強制加入にすることはできないか?という議論がある。

もちろんこれには反対意見があって、事実上の増税だとか低所得者層には負担できないとか、さまざまな反論がある。だから導入できずにいるのだろう。要は「国民的合意」というやつが得られないというわけだ。

しかし、だ。

今回の新潟県中越地震にしても、今大きな問題になっているのは住宅再建だ。政府がやるべき仕事ではない、というのが公式見解で、仮設住宅の提供にとどまっている。阪神大震災のときと同じだ。しかし、しばらくすると、仮設住宅は厄介者扱いされるようになる。いつまでも頼るな、と。だからといって、再建費用が支払えない人は少なくない。なんらかの手だてが必要だと思う。現状の地震保険は、もとあった住宅をそのまま再建するには充分とはいえないかもしれないが、それでもないよりははるかにましだ。

国民的合意へ向けた議論を始めてもいいときではないだろうか。地震保険を強制加入にするというしくみを。

制度的な工夫はありうる。低所得者層への保険料補助とか、国が提供する最低レベルと自治体が提供する上乗せ部分に分けるしくみとか、いろいろだ。年金のように、保険方式がいいのか税方式がいいのかという点で議論することも、当面は排除しないでおいたほうがいい。現在、住宅ローンで建てたり買ったりする住宅には必ず火災保険の契約が求められる。そこに地震保険を上乗せするだけでもかなりちがうはずだ(長期契約を可能にするよう約款を手当てする必要があるかも)。あるいは固定資産税の納税時に保険料支払済証明の提出を求めるか。ただし、地震リスクが高く、したがって地震保険料も高いはずの東海地域などで契約率が高いことを考えると、保険料の水準は、普及の最大のネック、ということではないと思う。

とにかく、地震への備えに関する今のやり方には問題があることを前提として、何がよりよいやり方を議論すべきだ。着地点は必ずあると思う。

他にも、金融にできることはある。
以下は思いつきだが、とりあえず書いておく。

(1)自治体間リスク取引市場の創設
都道府県、市町村などの自治体間で、地震リスクを売買する市場を作り、地震デリバティブを取引できるようにする。
ある都道府県で一定規模以上の地震が発生したら、その都道府県の地震デリバティブを購入した別の都道府県から資金支援を受ける。逆もまた同じ、といったしくみだ。「市場」がおおげさなら、契約ベースでスワップをしてもよいが、ポートフォリオ管理の観点からは、市場にしたほうがいいのではないか。自分たちのリスクだけをヘッジしようとすれば多額の資金が必要だから、自然と他の都道府県のリスクを受け入れざるを得なくなる。「市場」というと何か金銭づくといった感じを受けるかもしれないが、基本的な発想は「互助」的なしくみであり、市場メカニズムは合理性を確保するための手段だ。場合によっては、国外の自治体等ともリスクを交換することも視野に入れていいと思う。あるいは都道府県債にCATボンドのようなものを導入して、一般の資本市場で外部投資家を募るという方式もありうるが、互助的なしくみを残すようにしないと、地震リスクの高い自治体が割りを食うかもしれない。

(2)逆保険
保険というと、個人などのリスクを保険会社が集めるしくみだが、逆に個人にリスクを売るしくみがあってもよい。もちろん負担できる程度にリスクは抑える必要がある。貯蓄商品に地震デリバティブを組み込んで、地震が発生しなければ高い金利をつける、といったしくみがいいのではないか。いっちゃなんだが、半端な投資信託などよりはよほどスジのいい投資商品だと思う。もちろんもう少し「投資」にウェイトをおいて、デリバティブ部分だけを販売することも考えられる。個人が商品先物や外国為替先物を取引できる国で、地震デリバティブを解禁しない理由はない。あちこちで使っているお気に入りの理屈でいえば、馬の競争の勝ち負けに賭ける金はどこまでいっても遊びだが、地震リスクを一部引き受けるための金は社会にとって有益な使い方だ。不安なら契約に限度額をつければいい。日本の個人投資家は、適切なレベルのリスクはとる力も知識もある(例外もいるだろうが、そういう人はそもそもあらゆるリスク性投資から遠ざけておくべきだ)。その力を地震対策に使えるなら、頼もしい限りではないか。

地震対策については、日本は先進国である。金融面でも、こうしたノウハウを蓄積すれば、海外に展開していく余地もあるのではないか。「人の不幸につけこむビジネス」などという批判は的外れだ。災害で多くの命が失われたことは残念な限りで、だからこそせめて、こうした災害に学び、うまく対処する方法を身につけようではないか、というのが私の考えだ。

※追記
地震保険の強制加入については、かつて「専業主婦の逆襲」のニシオさんのところで少し議論したことがあった。今回の話はそのときからつらつら考えていた内容を吐き出したものだ。きっかけを与えていただいたニシオさんに感謝。損害保険や損害保険会社との付き合いが薄かったり、保険に興味がなかったりする人たちにとって、保険も保険会社もかなりわかりづらく、うさんくさく見えるのだろうと思う。とはいえ、だからといって地震保険は契約しないというのは、警察がいるから家にカギをかけないという発想に等しい。自分でできることはしていくべきだと思う。政府も保険会社も国民も、それぞれできることをしていったうえで、全体がどうあるべきか議論していかないと、また地震があったら同じ問題を繰り返すことになる。

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Comments

>山口さん

ご無沙汰しておったっスが、今回はこのよーな
レベルの高い記事をトラバしていただき
感謝しつつ、興味深く読まさせてもらったっス。
以前は2人して、非常に短いコメントだけのやり取りしてても
なんだかにゃーって感じでほどほどに終わらしてしまい
申し訳ねーとは思ってたんよ。(ペコリ)

地震保険ってのは、阪神淡路大震災でも
被災当事者の大企業ですら喉元過ぎれば
1年もすると関心が薄れたとか。
ドイツでは、個人の災害補償を国が手厚くやったら
国民が国が救ってくれるのをアテにしてしもーて
保険加入率が低下したっつー事例もあり
なかなか難しい問題っスね。
本当は、日本の成人ならFP3級程度の知識は持ってねーと
論議すら苦しいのが現状かも…と最近思うニシオだす。

結局、普段から勉強して色々考えてる人が生き残る?

Posted by: ニシオ | January 20, 2005 02:56 PM

ニシオさん、コメントありがとうございます。
教育ですかね、決め手は。
退職した銀行員等を大量に雇用して金融教育を担当させる、なんてのはだめですかね。年金生活者なら給料は安くてもいいし、金融リテラシーを高めるNPOなんてのもありましたね、たしか。
できるだけやって、それでも動かない人は自己責任、ということでしょうか。

Posted by: 山口 浩 | January 21, 2005 09:51 AM

>山口さん

1番最初に取り組むべきは教育だろーと思うっス
が、議論以前に『私にとって最善の』リスクコントロールとは?
すら分からず、泣いて国を恨む…のが庶民なんで。(苦笑)
それに教育機関を用意しても
「生活苦でそれどころじゃねー」
「難しい事は分からん」になるよーな。

結局、自己責任に耐えうる精神を持つ人が生き残る?

Posted by: ニシオ | January 21, 2005 11:50 AM

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