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February 18, 2005

雑誌目次をみる:「Finance & Development」

「雑誌目次をみる」シリーズ。今回は「Finance & Development」。

おそらく読んでいるどころか、知っている人もほとんどいないだろう。国際通貨基金(IMF: International Monetary Fund)が出している季刊誌だ。IMFと関係のある人々向けの機関誌的存在、なのだろうか。IMFサイトからpdfファイルが無料でダウンロードできる。興味のある方はぜひ。ただし英語のほか、アラビア語、中国語、フランス語、ロシア語、スペイン語のバージョンがあるが、残念ながら日本語版はない。

「IMFとはいったい何だ?」という方は、まずはこちらあたりから。より詳しく知りたい方はこちらをご参照。IMFに関する最新記事はこちらにある。要は国際金融の「親玉」的存在で、世界銀行とは一卵性双生児のような関係である。あらっぽくいえば、途上国が借金する銀行、みたいに考えてもらえばよいだろうか。金貸しの常で、貸した先にあれこれ口出しをするので、あちこちの途上国に煙たがられるはめになる。韓国では97年に発生した金融危機に伴う不況を「IMF」と呼ぶのだが、それはそのときIMFが強いた経済緊縮策が劇薬のように効き過ぎ、不況自体がIMFのせいにされてしまったことに由来する。

2004年12月の第41巻4号の目次から。

特集
・A Single Currency for Africa?

欧州では共通通貨ユーロを導入した。今アジアでも共通通貨構想が長期的課題として語られている。アメリカの場合は米ドルが基軸通貨だから例外だが、万国共通ではなく、一部の国々だけで導入する共通通貨へ向けた動きが各地でみられる。アフリカはどうか?というわけだ。通貨統合は、しばしば精神論的に持ち上げられたり、貿易促進のような経済実利だけに着目して語られたりするが、ここではそうではなく、国内政策の改善に役立つかもしれないという興味深い指摘をしている。通貨統合によって各国が経済政策をすり合わせる必要ができ、それが経済政策面のガバナンス向上に役立つということだ。

・Learning from Success
中国の貧困問題をとりあげている。有名な話だが、中国の経済発展は沿岸部に集中しており、国内での経済格差はかなりのものとなっている。これまではいわゆる「先富論」で経済格差を容認し、豊かな地域の発展を先行させることで平均としてのレベルアップを実現してきたが、今後は格差の縮小、つまりは貧困削減に向けた努力を本格化させる必要がある、という話。

・From Fixed to Float: Fear No More
固定相場制から変動相場制への移行をどのようにスムーズに行うかについての考察。

・What if . . . ?
IMFが最近採用している、金融システムの脆弱性に関するストレステストの概要に関する解説。

・Making Room for Public Investment
インフラ整備は重要な課題だが、財政規律との関係で問題となる。かといってやらなければならないプロジェクトはあるわけで、さてどうするか、という話。

・Demystifying Outsourcing
アウトソーシングで国内雇用が失われるというのはよくいわれることだが、米英に限ってはそうではない、という話。
具体的には、
  海外アウトソーシングは第一次、第二次産業ではずっと昔から起きているあたりまえの現象である
 米国はネットではサービスの輸出国であって輸入国ではない
 サービス業のアウトソーシングは実は経済のごく一部でしかない
 サービスの輸入は途上国からではなくむしろ先進国間で起きている
 全体では雇用は減っていない
といった指摘。いちいちごもっとも。ただしマクロ経済学者の悪い癖で、問題をマクロにしかとらえていない。アウトソーシングを問題にしている人は、国全体の雇用が増えたか減ったかなどを気にしているのではなく、自分の雇用がどうなるか、どうなったかを気にしているのだ。だから政府がしなければならないのは、たとえばIT技術者が失職してコンビニで働くようになる、といったことに対する対策なり説明なりだ。またマクロ的にみても、IT技術者の職が減ってコンビニ従業員の職が増えることが国家の競争力にとってどんなインプリケーションをもつか、は考えなければならない。

・Combating Corruption: Look Before You Leap
日本でも汚職が話題になるが、世界的にみればましなほうで、海外、とくに途上国などではケタはずれにひどいところがある。タンザニアでは、警察や裁判所、税務署や土地管理局といった役所の役人たちへの賄賂が、これらの役所に対する国家支出の62%にもなるとか。経済援助を受けている国でこうしたことがあると、経済発展が阻害され、せっかくの援助が無駄になったり横流しされたりしてしまう。情報を公開し、市民の監視を受けるように援助国から要求し、システムを作っていくべきであるという話。それが汚職防止に最も効く、ということらしい。合言葉は「急がば回れ」だそうだ。ごもっとも。

・Taking the Plunge Without Getting Hurt
経済開放政策により、国際経済の激しい変動にさらされてしまうとのおそれがある。こうしたボラティリティは経済成長にとって好ましくないというのが一般的な考えだが、必ずしもそうではない、という指摘。全体としては負の影響なのだが、先進国と新興国では正の関係、つまりボラティリティ(というよりグローバル化)が成長につながる、という。その他の途上国にとってはやはり負の関係らしい。新興国についていうと、経済開放前はボラティリティが成長と負の関係であったものが、開放後は正の関係に変わっているという。ふーん。

・Calculating the Benefits of Debt Relief
途上国にとって、外国からの資金借り入れは公共投資を可能にし、成長を促進する―あるレベルまでは。それを超えると、むしろ成長にはマイナスの効果を持つ。いわゆる「デット・オーバーハング」というやつだ。こうなると、債務免除のような対策が必要になったりする。これを重債務国(HIPC)について実証的に調べた研究。低所得国の対外債務を免除することがその国の経済成長を加速する、というまあリーズナブルな結論を裏付けるもの。目新しい結果ではないが、こういう研究は必要だ。

その他

・In Brief

・People in Economics
In On The Ground Floor: Linah Mohohlo

Linah Mohohloはボツワナ中央銀行の総裁だ。ボツワナという国は、南アフリカとジンバブエの間にあるそれほど大きくない国だが、ダイヤモンドがとれるなど資源にも恵まれ、アフリカで経済的に最も成功している国の1つといわれている。日本がボツワナより格付けが低い、と騒がれたのは有名だ(これを参照)。日本ではばかげたこととして語られたが、そう片付けてしまう前に、ボツワナがこの20年間財政黒字を継続していること、透明性の高い金融政策を展開していることなどは認識しておく必要がある。

・Back to Basics
How does the IMF account for grants and loans?

IMFが援助先の国の財政の健全性をどのような考え方でみているか、という話。

・Picture This
Agricultural trade: reaping a rich harvest from Doha

農産物の貿易に関するデータ。未だに多くの国で関税などの国内市場保護策がとられていること、貿易の自由化が先進国にとってだけでなく途上国にとっても有益であること(南-北貿易だけでなく南-南貿易でもメリットがあるという指摘は興味深い)、ODAを出すよりも途上国農産物の輸入を自由化するほうが有益であることなどをデータで示している。ちょっと面白かったのは、アメリカからの小麦援助が小麦価格の低いとき(需要の低いとき)に多く、価格の高いとき(需要の高いとき)には少ない、ということ。受け手ではなく出し手側の事情で決まるわけだ。私たちが子どものころ給食にパンを食べさせられたことを思い出す。この国は本当に「正直」だ。

・Book Review
The Shackled Continent: Power, Corruption, and African Lives
The Battle for Zimbabwe
India's Emerging Economy: Performance and Prospects in the 1990s and Beyond
Engaging India: Diplomacy, Democracy, and the Bomb
The International Financial System, Stabilization, and Development

それぞれの本の解説はリンク先のAmazonのサイトをみていただきたい。ちなみに最後の本はアジア金融危機のころIMF専務理事を務めていたあのStanley Fischerの著書だ。

・Straight Talk
・Country Focus: Brazil
・Index of Articles

裏表紙には、「Macroeconomics of HIV/AIDS」の広告が出ている。この病気が社会や経済に与える影響を、それぞれの専門家たちが分析したものだ。特に患者数の多いアフリカの国々では、労働力人口のうちかなりの部分が感染者や発病者になってしまっているため、成長のポテンシャル自体が抑えられてしまっている。充分な量の薬を手当てできないことも影響を悪化させている。

全体として、IMFの立場を正当化する方向の記事が集まっているのは性格上やむを得まい。IMFへの資金拠出を行う国の人々、IMFの資金を借り入れている国の人々に、IMFの考えを理解させようという意図があるのだろうから。ともあれ彼らは自分たちのやっていることの意味について、真剣に考え、検証する努力も行っている。反グローバリズムを主張する方々は多いが、それでは他にどんな選択肢があるのか、具体的に示して、検証して、そのうえで反論しないと説得力で負けてしまうよ、とはっきり理解しておくべきだと思う。

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