中国に関するメモ
野村総研の調査で、中国人の所得分布を都市別に調べたものがあった。2003年に中国16都市で15~59歳の男女に実施した「中国1万人調査」(回答数:12,100)だ。
このレポート自体は富裕層の増加に焦点をあてたものだが、少し視点を変えて「下のほう」をみてみる。といっても、ただの思いつきのメモだ。
世帯年収をいくつかの階層に分けている。最高ランクは年収10万元(レポートでは「富裕層」と呼んでいる)で、購買力平価では約650万円に相当する由。このぐらいになるとマイホームやマイカーの購入が可能で、教育、レジャーへの出費、投資や貯蓄にも積極的だということらしい。この層は全国で2,000万人ぐらいいるものと考えられているとのこと。次いで年収5~10万元(レポートでは「有産階級層」)は全国で4,000~5,000万人と推定される。年収5万元に先ほどの購買力平価をそのまま適用すると年収300~400万円程度か。マイホームをローンで購入し、貯蓄より消費を優先するライフスタイルなのだそうだ。この層は、北京オリンピック開催の2008年までには年収10万元に達しているものと考えられるとのこと。
以上レポートの内容から。
ここでは「上のほう」ではなく「下のほう」に着目する。いくつか階層を飛ばして、世帯年収2万元未満の最下層の場合、2万元は購買力平価130万円に相当する計算になる。(ここでの「最下層」は、この分類で一番年収の低いグループ、というだけの意味で、差別的意図はまったくない。念のため)
以下、各都市の「富裕層」、「有産階級層」、および最下層の構成比を列挙してみる。各都市がどこにあるかは、ネットで中国の地図をご確認いただきたい。たとえばこのあたりにもある。まずは沿岸部の諸都市から。
北京
10万元以上 3.7%
5~10万元未満14.6%
2万元未満 19.9%
言わずと知れた中国の首都。
上海
10万元以上 1.7%
5~10万元未満 16.2%
2万元未満 17.5%
中国で最も人口の多い都市で、工業、商業、金融の中心地。
深セン(土へんに川)
10万元以上 13.7%
5~10万元未満35.4%
2万元未満 8.6%
広東省の中部沿海にあり、香港と隣り合っている。深センは中国で最初の経済特別区。
広州
10万元以上 1.0%
5~10万元未満10.6%
2万元未満 23.9%
広東省の省都だ。中国の南方における最も大きい商工業都市と対外貿易の港である。
天津
10万元以上 0.6%
5~10万元未満2.4%
2万元未満 64.3%
その名のとおり北京への海の玄関口。軽工業、機械電機、化学工業などが盛んな中国北方の総合産業都市。
南京
10万元以上 1.9%
5~10万元未満10.4%
2万元未満33.1%
江蘇省の省都であり、中国東部における重要な工業生産基地。歴史的には、これまで東呉、東晋、南朝の宋、斉、梁、陳、南唐、明、太平天国、中華民国など、いくつもの王朝が都をおいた。
杭州
10万元以上 9.0%
5~10万元未満15.6%
2万元未満 19.0%
上海の南側に位置する。浙江省の省都である。最近、成田からANAの直行便が就航とのニュースが流れた。
福州
10万元以上 2.3%
5~10万元未満8.7%
2万元未満 34.7%
福建省の省都。福建省は広東省とならび、華僑の故郷として知られる。
瀋陽
10万元以上 0.1%
5~10万元未満1.7%
2万元未満 71.6%
東北部、遼寧省の省都だ。旧名奉天。歴史的には清朝発祥の地。重工業がさかん。日本領事館に脱北者の駆け込みがあったことで知られるが、実際朝鮮族の人たちが多い。
大連
10万元以上 0.4%
5~10万元未満2.4%
2万元未満 56.4%
北京の東側、朝鮮半島の付け根に近い工業都市。最近は日本企業も多く進出しており、日本人がけっこうたくさん働いていたりする。
沿岸部では1割が世帯年収5万元超だ。中でも深センが突出している。何よりも、最下層の割合が低いことにご注目いただきたい。特区の深センはともかく、北京や上海で2割弱しかいない。ただ、天津、瀋陽、大連は思ったより低い感じだ。工業都市でも、その工場の付加価値の水準がちがうのだろう。瀋陽の場合は最下層の割合が目立って高いが、朝鮮族の人々が多いことと何か関係があるのだろうか。中国で朝鮮族の人々に対する差別があるとは聞かないが。
日本で年収130万円というと、扶養控除の範囲内で働いている人や、フリーターといった人々に相当する金額だろうか。世帯年収とするとけっこうきつい金額だと思う。2003年の国民生活基礎調査をみると、世帯収入の五分位階級別所得状況で最も低い第I階級(下から20%)は213万円以下で平均127万円だ。つまり、中国大都市の世帯所得最下層は日本ともうたいして変わらないくらいのところまできている、と考えられなくもない。
さて、内陸部はどうか。
鄭州
10万元以上 0.7%
5~10万元未満3.4%
2万元未満 56.6%
河南省の省都。3500年前には商(殷)王朝の都邑があった。有名な少林寺はここにある。北京と広州を結ぶ南北線主要鉄道と、ウルムチと連雲港を結ぶ東西線主要鉄道がここで交差する交通の要所だ。
武漢
10万元以上 1.4%
5~10万元未満4.9%
2万元未満 57.1%
湖北省の省都だ。
西安
10万元以上 0.9%
5~10万元未満3.4%
2万元未満 58.6%
陝西省の省都で、西北地方の政治・文化・商工業の中心地。昔の唐の都長安だが、それ以外にも、周、秦、漢などの都だった。200社を超える日系企業が進出している。
重慶
10万元以上 0.6%
5~10万元未満2.4%
2万元未満 64.1%
中国西南の水路と陸路の要で、工商業の重点都市。昨年、サッカーのアジア・カップ1次リーグの試合で、日本代表が激しいブーイングを浴びたのはご存知の通り。
成都
10万元以上 0.6%
5~10万元未満3.4%
2万元未満 59.1%
四川省の省都で、西南地区における科学技術、商業貿易、金融、交通、通信の中心地。
昆明
10万元以上 1.4%
5~10万元未満9.4%
2万元未満 36.7%
雲南省の省都。
一見して、「富裕層」「有産階級層」の割合が低く、最下層の割合が高いことがわかる。サッカーの一件で注目された重慶もそうで、沿岸部の主要都市と比べて最下層の人々の割合が大幅に高い。ある意味、北京や上海と重慶とではまったくちがった層の人々が住んでいるということは、意識しておくべきだろう。中国政府への不満や反感を表に出せないので代わりに日本に向かうのだという指摘はかねてからされていた。重慶の場合は旧日本軍の空襲を受けたという事情ももちろんあるのだが、沿岸部諸都市との経済格差もかなり大きい。全部とはいわないまでも、日本が不満のはけ口にされているという要素はあるのだろう。
ちなみに、新秦調査が行ったオンラインゲームに関する調査によると、オンラインゲームユーザーの6割が月収2,000元以下(年収換算で24,000元、だろうか)となっている。これが世帯年収かどうかという問題もあるが、全体として、かねてから聞いていた、「オンラインゲームは内陸部のあまり所得の高くない層に受けている」という話と整合的だ。
野村総研は富裕層や有産階級層に注目していて、それはそれでもちろん重要だが、同時に、真ん中から下の層の底上げが何をもたらすかもきわめて重要だ。この層は必ずしも先端的な消費者ではないかもしれないが、少なくともオンラインゲームなど一部の分野では、高所得者との間に大きな消費パターンの差はないともいえるのではないか。おそらく携帯電話などについても似たようなことがいえるだろう。途上国だからといって下位モデルを売ればいいということにはおそらくならない。別に目新しい指摘ではないが、中国ビジネスを考える場合に重要な視点だと思う。
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Comments
この数字は皮膚感覚にもっとも近い情報で、とても參考になります。中国にいくときなどに、ちらっと見ておきたくなるデータですね。ありがとうございました。
Posted by: miyakoda | February 21, 2005 09:30 AM