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February 01, 2005

ジャイアンを擁護してみる

「ジャイアニズム」なることばを目にした。「他人のものはおれのもの、おれのものはおれのもの」という考え方、他人のものを勝手に使ってかまわない態度、ということらしい。他人のBlogにおける言説を自分のblogに取り入れることの可否、といった文脈で使われていた。

うまい表現だと思わなくもないのだが、どうも気にいらない。ジャイアンが特段好きというわけでもないのだが、なんだかちょっと居心地が悪いのだ。ジャイアンに対する正当な評価とは思えない。

というわけで、擁護してみる。

いうまでもないだろうが、ジャイアンは、マンガ「ドラえもん」の登場人物だ。主人公のび太のクラスメートで、本名は剛田武(ごうだ たけし)。たしか八百屋の息子だったか。妹が1人(ジャイ子)いる。いつもスネ夫とつるんでいて、のび太にいじわるをしたりする。いわゆる昔ふうの典型的なガキ大将キャラとして描かれている。

ジャイアニズムという表現、わからなくもない。確かにジャイアンは、のび太の持ち物を取り上げてしまったり、のび太にいろいろ命令してみたり、気に入らなければ脅したり暴力をふるったりする。よくあるのは、のび太が持っているドラえもんの道具を取り上げてしまうケースだ。それがストーリーを展開させるきっかけとなっているわけではあるのだが、まあ「おまえのものはおれのもの」という感じはする。

しかし、だ。

ではジャイアンが単なる憎まれ役となっているかといえば、決してそうではない。私の記憶が正しければ、ジャイアンは昔ふうのガキ大将よろしく自分の「縄張り」に対してある種の責任感をもっており、よそから自分の縄張りの子供たちに対して危害が加えられそうになったときには、敢然と立ち向かうし、また自分と同等に力のある相手に対しては、正当な敬意を払う。それなりに「筋を通す」やつなのだ。

また、そもそもジャイアンは、のび太の仲間として許容されているし、劇場版の映画などではさまざまな冒険をのび太たちといっしょにしている。また、金持ちの息子であるスネ夫に対して、のび太のようにうらやんだりはせず自然体で接している(ときどき道具を取り上げたりするが、のび太と同等に扱っているわでむしろ公平だ)。決して悪いところばかりのやつではない。まあ子供向けの作品である「ドラえもん」において、純粋な悪役がレギュラーとして登場し続けることなどあるわけもないが。

このあたりまでは、よくある議論だと思う。私としては、次の点をぜひ主張したい。

「ジャイアンの子孫は、なぜドラえもんを送り込まなかったのか?」

ドラえもんは、のび太の子孫であるセワシが、先祖であるのび太にしっかりしてもらおうと、未来から送り込んだ子守りロボットだ。だからドラえもんはのび太のためにさまざまな道具を出してやり、悪いことをしないように指導する。要は、のび太はそれほど「心配」な子供なのだ。まあ親の立場にたってみれば、子供がのび太のようであったら心配でたまらないだろう。

ジャイアンも、もちろん優等生ではない。詳しく知らないがおそらく勉強ができる方ではないだろうし、素行だってお世辞にもいいとはいえない。しかしジャイアンは、自分で自分の道を切り開く力がある。のび太のように簡単に泣いたり助けを求めたりしない。しっかりした大人に育ちそうではないか。何よりの証拠に、ジャイアンの子孫は、ジャイアンのためにドラえもんを送り込んだりはしていない。それはジャイアンが、ドラえもんの関与を必要としないほど「安心」できるからなのだ。ドラえもんがいなければまともに暮らせないのび太と比べてどちらがいいか。

いや別にのび太よりジャイアンのほうが優れた人間だとかいうつもりはない。のび太はのび太のいいところがあり、悪いところがある。それと同じように、ジャイアンにもいいところがあり、悪いところがある。それだけのことだ。「ジャイアニズム」を批判するなら、なんでも人のせいにして人に頼る「のび太イズム」をも批判しなければなるまい。いちいちおせっかいを焼いて他人をスポイルする「ドラえもニズム」も自分の恵まれた境遇を鼻にかける「スネ夫イズム」も同様に悪い点がある。

・・・なんだかずいぶんおおげさになってしまった。要はちょっと気に入らなかっただけだ。そもそも「ジャイアニズム」ということばが使われた文脈は、ジャイアンそのものとは関係なかったわけで、ジャイアン自身を擁護してもしかたがない。ネットの世界でのふるまいという文脈では、のび太的あり方やスネ夫的あり方も、ジャイアン的あり方と同じくらい問題があると思う。ともあれ、ジャイアンを引き合いに出すのはやめてもらいたい、とだけ主張しておく。

※本エントリの参考にはならないが関係はなくもない面白い文献
『のび太』という生きかた―頑張らない。無理しない。」 横山 泰行著、アスコム 2004年。
のび太・ジャイアン症候群―いじめっ子、いじめられっ子は同じ心の病が原因だった」 司馬 理英子著、主婦の友社 1997年。

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Comments

> 「ジャイアンの子孫は、なぜドラえもんを送り込まなかったのか?」

なるほど。さらに裏から考えると「なぜセワシだけがドラえもんを送り込めたか?」という謎がありますね。のび太クラスのダメ人間は日本中に何千人もいたはず。彼らの子孫はなぜ手をこまねいていたか。

深すぎる・・・松本清張張りの社会派SF小説になってしまいそうだ。

Posted by: ゆう | February 01, 2005 11:00 AM

コメントありがとうございます。

「なぜセワシだけがドラえもんを送り込めたか?」という謎について。主人公だから…というのはみもふたもない話ですが、世によくあるタイムマシンものと考えると、実に空恐ろしいですね。過去を変えようというセワシの野望。時空警察に摘発されやしないかと。

…ともあれ、本文のスジに沿っていえば、のび太はそれだけ突出したダメ人間だったということでしょう。あののび太を矯正するためならしかたがない、と皆が認めたのかもしれません。

…いや別にドラえもん論をぶつつもりはありません。この文章はただ、ただジャイアンを純粋な悪者扱いにはしたくない、というだけの思いつきです。お粗末さまでした。

Posted by: 山口 浩 | February 07, 2005 10:31 AM

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