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February 27, 2005

くやしいがホリエモン擁護論

かつて、ホリエモンことライブドアの堀江貴文社長の講演を聞いたことがある。まだライブドアの営業譲渡を受けたがまだ社名を変更する前の、オン・ザ・エッヂの社長だったころだ。本当のところどんな人かはわからないが、講演から受けた印象は、正直いって、あまり好感のもてる人柄、という感じではなかった。あけすけで自信たっぷりの様子が高慢に見えたのだ。

私の感想などどうでもいいことだが、今回のニッポン放送をめぐるフジテレビとライブドアの「争い」は、それに似た感情論で語られている部分がかなり多いと思う。飲み屋でくだ巻くのに最適なネタだというのはわかるが、いかに要人とはいえ公器たるマスコミでそれをやられたのではかなわない。というわけで、今さらの感はあるが少し考えてみた。考えれば考えるほどライブドアの主張に近くなるのが自分でもくやしいが。

今回の一件は、ある意味法律論で語るべきものではあるが、それを超えて、株式会社とはどういうものか、株式を上場するとはどういうことか、市場における公正なルールとはどういうものかといった、かなり高いレベルで議論されるべき部分が多くある。プロ野球のときは国民的娯楽だし、ファンの意向が重要だったから、「庶民感覚」が大きな影響力をもっていたのも理解できる。しかし今回は日本が標榜する「資本主義」の根幹に関わる問題だ。少なくとも、公的な場に「金さえあれば何でもできると思ったらまちがいだ」みたいなレベルのコメントがまぎれこむ隙間はない。そういう向きはテレビ局ではなく居酒屋に行ってもらいたい。(※追記:あ、もちろん、居酒屋ではこういう話でどんどん盛り上がったらいいと思う。血液型性格診断で盛り上がるよりはよほどましだ。)

問題は、いくつかに整理できる。法律論としてはこんなところだろうか。
(1)ライブドアがニッポン放送の株式を取得するために用いた「時間外取引」は許容されるべきか。
(2)ニッポン放送が行おうとしている第三者割当増資は合法か。
(3)メディアに対する外資規制を強化し、間接保有も対象とすべきか。

法律論の前提として考えるべきなのはこんなところか。
(4)ニッポン放送がいうように、ライブドア傘下に入ると企業価値が損なわれるのか。
(5)ニッポン放送がいうように、ライブドア傘下に入るとメディアとしての公共性が損なわれるのか。
(6)ライブドアがニッポン放送の経営権を握ると、一般社会にどんな影響があるのか。
(7)仮にライブドアが外資に支配されているとして、メディア企業に外資の影響が及ぶことにはどんな問題があるか。

他にもあるかもしれないが、とりあえずこのあたりにしておく。

(1)時間外取引について
時間外取引は以前から一般的に行われていたものだ。これまでは主に金融機関などの機関投資家が相場への影響を避けながら取引を行うために用いられていた。ライブドアが行っていけないという理由はない。もちろん経営権取得目的ならTOBを使うべきという意見はある。脱法行為だというわけだ。27日のテレビ番組では、時間外取引で購入したのは30%以下といっていたが、仮にそれはさておいたとしても、本来、法の抜け穴に対する批判は、それを利用した企業ではなく、それを残していた当局に向かうべきだ。しかしそもそも、世界に冠たる優秀な人々がそんな「へま」をするものだろうか。まったくの想像だが、経営権取得目的の場合はだめといった「抜け穴」封じをしなかったのは、気づかなかったからではなく、もともとそれを意図していたからではないか。そういうことも可能なようにしてあったのではないか、と思われてならない。金融機関がやるのはいいがライブドアがやるのは許さない、というならただの感情論だ。いずれにせよ、もうライブドアはやってしまったわけで、遡及効をもたせることはないだろうから、もはやライブドアとは関係のない話だ。

(2)第三者割当増資について
商法第280条の10は「会社ガ法令若ハ定款ニ違反シ又ハ著シク不公正ナル方法ニ依リテ株式ヲ発行シ之ニ因リ株主ガ不利益ヲ受クル虞アル場合ニ於テハ其ノ株主ハ会社ニ対シ其ノ発行ヲ止ムベキコトヲ請求スルコトヲ得」としており、経営権維持のための増資はこれにあたるという判例がある。今回ニッポン放送は「フジサンケイグループの傘下にとどまることが株主の利益」としており、経営権維持が目的であることを公にしている。もちろんそれは、ライブドア側にも非があるという見解に基づく「緊急避難」論だとされているわけだが、どうもしっくりこない。今回の増資が実現すれば希薄化により株価の大幅な下落が予想されるわけだが、それによって既存株主がTOBに応じやすくするための手段でもあるのではないか。「クロ」だという証拠はないが、そうでないとしても、「チャコールグレー」ではあるだろう。まちがいなく「いかがなものか」的ふるまいではある。

(3)(7)外資規制について
放送という影響力の強いメディアが外資に握られることを禁じる法律は、諸外国にもよくある。国内の別企業を通じた間接支配もそれに含めるというものも少なくないらしい。これらの状況については詳しくないので突っ込まないが、少なくとも現在のところライブドアは日本人が経営する日本企業だし、転換社債を引き受けたリーマンブラザースはライブドアを支配するつもりもないだろうから、ここを突っ込んでもあまり意味はないのではないか。ちなみに、RIETI上席研究員の鶴光太郎氏は、外国資本のメディアの割合が高い国ほど政府の腐敗度(3つの指標)が低い、また、プレスの自由度が高いという海外の研究成果を引きつつ、メディアの外資規制そのものに対して批判的な意見を述べているのでご参照。

(4)ニッポン放送の企業価値
ニッポン放送の経営者は、「フジサンケイグループにとどまることがニッポン放送の企業価値を守ることになる」という趣旨の発言をした。自分で確かめるのは面倒なので、この記事から数字をとって計算してみる。2月8日終値ベースで、ニッポン放送の時価総額は約2,230億円、これに対しフジテレビは約5,990億円である。ニッポン放送はフジテレビの発行済み株式総数の22.5%を保有しているから、単純計算して、保有するフジテレビ株の価値である1,348億円を除いたニッポン放送の企業価値は、882億円だ。つまりニッポン放送の企業価値のうち6割は、保有するフジテレビ株の価値だということになる。2004年3月期のニッポン放送の総資産の帳簿価額は791億円、株主資本は570億円だから、ニッポン放送が本業ではほとんど付加価値をもっていないこともわかる。さてここで、再度ニッポン放送経営者の発言に戻って、「フジサンケイグループにとどまることが企業価値維持に必要」なのだとすると、それはつまり、ニッポン放送の企業価値の6割を占めるフジテレビ株式の価値を守るためにニッポン放送がフジサンケイグループにとどまることが必要、といっていることにほかならないのではないか。ニッポン放送の帰趨がフジテレビの企業価値に大きく影響する?それはまた面妖な。

(5)メディアの公共性
他企業に支配されるとメディアの公共性が損なわれる、というのだろうが、よくわからない理屈だ。ではメディア企業が非上場であってはいけないとでもいうのか。企業一般ではなくライブドアがだめだとでもいうのか?ではライブドアのサイトに出ているニュースが偏向しているとでも?私には想像がつかない。どんな弊害があるのかぜひ具体的に教えていただきたい。

(6)一般社会への影響
これもよくわからない。万事金だという風潮が広まる?そんなばかな。実態がどうかは別として、今や構図は改革派対抵抗勢力、といったかたちに受け取られ始めているように見える。印象的だったのは26日のテレビ東京WBSで行われた携帯電話アンケートだった。「ライブドアとフジテレビどちらがニッポン放送の株価を上げると思うか」対して、結果は75%がライブドアとの回答だった。ここまではまあ予想通りだ。携帯電話だし、若い世代が支持したのだろうと思っていたのだが、どうもそうではなかったらしい。27日朝のテレビ朝日「サンデープロジェクト」で堀江社長が語ったところによると、20代以下の若い層よりも、40代以上の層のほうが、ライブドア支持率が高かったのだそうだ。もしそれが本当だとすると、世代間の対立というよりは、既得権層対挑戦者といった目でみられるようになってきているのではないか。率直な印象として、テレビでインタビューに応じるフジテレビの日枝会長は、いかにも大物然として、どうもテレビ映りがよくない。どうしても「おれの知らない奴は」と言った「例のあの人」を思い出させてしまうのだ。プロ野球のときもそうだが、堀江社長はある意味「敵」に恵まれた人なのかもしれない。

というわけで、考えていくと、どうもホリエモン側に近い意見になってしまう。自分の感情に反するのでいやなのだが、認めざるを得ない。ただ、できるだけニュートラルにみると、今回堀江社長が多くのテレビ番組に出演しているので主張を聞く機会が何度もあったわけだが、いわゆる「青い」正論をあれほどてらいもなく言っているところからして、この人はけっこう「まじめ」な人なのだな、とは思う。でもねぇ。あの態度は自分にとって損だと思わないのだろうか。もう少し自分の言動に気をつけていれば、反感を買う度合いがもっと少なかったろうに。そんなこと言っても聞かない人だからこそ、なんだろうけど。

※2005//3/3追記
上記は、大事なポイントにふれていない。ひょっとしたら最も重要なポイントかもしれないが、「ライブドアはニッポン放送の企業価値を上げることができるのか」という点だ。要は、インタビューなどで堀江社長が語る「ネットと放送の融合した未来像」にどの程度の「可能性」があるか、ということなのだが、この点については正直よくわからない。技術的には可能だが、実現には幾多の関門があるだろう。顧客に訴求することはするだろうが、コストに見合うかどうかはわからない。先例として、ネットとメディアの融合として話題になったAOLタイムワーナーをみても、ポテンシャルを活かしきれていないと考える人が多いだろう。
上記の文章は、そういうこととは関係ない。少なくとも堀江社長は、実現できると考えており、そのための手段としてニッポン放送の株式取得に動いたわけだ。説明すべき相手は、当然ながら、ニッポン放送とライブドアの株主だ。彼らを説得できるかどうかが問題ということなのであって、やれ放送事業の公益性だとか外資に支配されるだとか金で何でもとか、そういったことでうじゃうじゃいう(特に政治家が)のは筋違いだと思う。
私としては、この問題のおかげでNHK改革に関する国民の関心が薄れてしまったのではないか、というほうが気になる。ニュースでは、BBCが将来的に受信料強制徴収制度を見直す可能性があると報じていたが、公益を考える政治家の皆さんは、民間企業の経営問題に首を突っ込むより、こういう方向に力を注いだほうがいいのではないだろうか。
以上、念のための追記。

※追記2
ライブドア側の主任弁護士が突然辞任したらしい。審尋手続きの途中でというのは異例だ。主任弁護士に突然辞められてはライブドアに不利だというのもさることながら、何か裏があるのではとかんぐりたくなるのは当然だ。ライブドア側に都合の悪い事情があると推測する向きもあるらしい。ルール違反があるなら、それなりのペナルティを受けるのは当然だ。ただそのルール違反と第三者割当増資の差止請求に対する判断とがすぐに結びつくものとは限らない。むやみに「正当防衛」論を振りまわすべきではないと思う。

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Comments

日本TVのニュースで偏った報道に不信感覚えました.
孫社長が新入社員を前に「ホリエモンのおかげで‘大人のソフトバンク’と言われてます」の発言をニュースでみて、各社のニュースはまんべんなく見てきましたが、こんな表現は初耳だなぁと。「今日の出来事」だったので、なるほど日本TVかと。いくら渦中の日本TVでも他社と偏った報道ではそれこそ大人気ないことで、ニュースの信頼に欠ける気がしました。日本TVの社員の中には新しい可能性に期待してる人もいるでしょうに‘社員一同’で意見表明したり、古い体質の会社らしい汚染したイメージを感じました。私はNHK派ですし、客観的にみてきたつもりですが、やらせ問題など日本TVの体質を思うと改革は外部から入ったほうがいいのでは?

Posted by: 藤村梅三 | April 02, 2005 12:45 AM

コメントありがとうございます。
えーと、なんだかニッポン放送と日本テレビがごっちゃになっているように読めるのは気のせいでしょうか。ライブドアが株式を買ったのはフジテレビの筆頭株主(だった)ニッポン放送、ですよね?ニュースを伝えたのは4チャンネルの日本テレビ、でしょうか?

Posted by: 山口 浩 | April 02, 2005 01:09 AM

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