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March 30, 2005

「I-Finance」で行こう

今「I-Finance」に注目している、といったら、いったい何のことだ?と思われるにちがいない。intelligent finance? information finance? individual finance? …どれもちがう。

「Islamic finance」、つまりイスラム金融だ。

イスラム金融って何だ?という方も多いだろう。簡単にいえば、イスラム教の教えに従った金融、ということになる。イスラム教についてちょっと知っている人なら、利子(riba)を禁じていることなども知っているだろうが、じゃあどうやってというところまでいくと、ふつうはあまり話を聞くこともない。全部調べたわけではないので確かではないが、日本でイスラム金融について書かれているものは、イスラム教の研究者がイスラム文化紹介の一環として書いたものだったり、軽い読み物ふうにとりあげたものだったりで、金融取引として実際にどんなサービスが提供されているかなどについて詳しく書かれたものはそれほど多くはない。後記の参考文献のうち前者は会員のみ公開のものだ。ネットで見られるものとして、武藤幸治「アジアに広がるイスラム金融」を挙げておく。

イスラム金融は、今金融セクターでも急速に伸びている分野の1つだ。中東だけではなく、マレーシアやインドネシアなど東南アジアなどでもけっこうさかんになっている。オイルショック以降、オイルマネーの増大とともに発展してきた。マレーシアでは、金融機関の数や拠点の数では一般的な金融機関とほぼ匹敵するほどになっているし、資金規模でも国内金融資産の約1割に達している。マレーシアなどでは、「ibank」などと表現するらしい。本記事のタイトル「I-Finance」はそれをとって私が勝手に作った造語だ。

イスラム教自体があまり知られていないから、イスラム金融についても、けっこう誤解されているのではないかと思う。中東にしかないのだろうとか、イスラム教徒でないと利用できないのではないかとか、教徒向けに条件が悪くなっているのではないかとか思われている向きはないだろうか。

時間の関係上、ここではスキームの詳細には入らない。イスラム金融の基本的な考え方をキーワード的に並べると、(1)利子の禁止、(2)リスク・シェアリングの思想、(3)慈善としての出資、(4)イスラム教への準拠、といったところだろう。細かいスキームは長くなるのでふれないが、ここで関心を持っているあたりをごくあらっぽく表現すれば、利子の禁止というイスラム教の教えにしたがい、リスク・シェアリングを行うかたちでスキームが開発されている。資金の出し手側は、イスラム教に準拠した資金を提供することによって神の祝福を期待する。資金の使い道も、イスラム教に反しないものでなければならない。とまあこんなところだ。

ではなぜイスラム金融に注目するか。イスラム教の人たちだけのものであれば、私たちには関係ないではないか。そう思うかもしれない。

そうではないのだ。確かに資金の出し手の多くはイスラム教徒であるが、この資金を利用できるのは、教徒である必要はない。特にマレーシアなど東南アジアのイスラム金融機関は、非イスラム教徒の資金需要に対応したいと考えているのだ。しかも高利は禁止されており、資金拠出自体が慈善としての要素を持つから、一般的な金融機関に比べてむしろ条件はいい。信仰のせいだかどうか知らないが、不良債権比率も一般の金融機関より低いらしい。

特殊性を強調するばかりでは尻込みされるかもしれないが、何より重要なのは、イスラム金融といっても実は金融契約の一類型にすぎない、ということだ。ムダーラバだのムシャーラカだの、エキゾチックな名がついているので惑わされがちだが、その主体はともかく、契約としての本質は一般的な金融のスキームとさほど変わるところはない。リスク・シェアリングとは、いってみればプロジェクト・ファイナンスの一類型である、ということに他ならないのだ。イスラム教に反する目的の資金は出さないというのは、まあいってみれば、イスラム教の見地からみた「社会的責任投資」みたいなものと考えれば、必ずしも特殊とはいえないだろう。

アジアにおけるイスラム金融の中心地はマレーシアで、このほかインドネシアにもあるが、今のところ、イスラム金融はまだ一部地域のマイナープレーヤーにすぎない。しかし彼らは潤沢なオイルマネーを背景に、資金拠出先を求めている。そしてアジアには、イスラム金融の巨大な潜在市場がある。たとえばタイの南部には250万人のイスラム教徒がいるし、中国には約1千万人のイスラム教徒がいるという。実際、今アジアのイスラム金融機関は、中国でのビジネス展開を考えているらしい。

日本ではイスラム教徒は非常に少ないし、日本でイスラム金融を展開している金融機関は、まだない。しかし、上記の通り、イスラム金融は、「リスクを分かち合う金融」である。日本で最も求められ、にもかかわらず不足しているカテゴリーの資金だ。もしイスラム金融が、今の日本でまだ不足しているリスク資金の供給源のひとつになったらどうだろうか。まだイスラム金融機関が日本に進出しているわけではないが、条件さえ合えば(合うかどうかはけっこう大問題だが)、海外のイスラム金融機関がオフショア市場で円建ての金融スキームを日本企業向けに提供することは可能なはずだ。

個人的には、コンテンツ産業の資金調達に使えないか、などと思ったりしている。資金規模が合うかどうかも含め、問題は山ほどあるだろうが、コンテンツ産業を支える中小企業にとって、リスク性の資金調達がうまくできれば、「digital sweatshop」から脱する助けになるかもしれない。具体案があるわけではないのだが。こういうことをやれば、イスラム金融機関にとっても、日本でのイスラム教のイメージを上げることに役立つのではないかと思うのだがどうだろう。それに、競争力ある日本のコンテンツの収益の一部を手にできるかもしれないのだし。

ともあれ、イスラム金融には今後も注目していきたい。

参考文献
国際金融情報センター「東南アジアで急成長するイスラム金融(1)、(2)」
Henry, C.M. & R. Wilson eds. (2004). The Politics of Islamic Finance . Edinburgh Univ. Press.

※追記
今では、日本の金融機関も収益連動型の融資を行ったりしているから、イスラム金融の出番はないのではないか、という人もいるかもしれない。確かにそういう面はあるだろうが、日本の金融機関が慣れ親しんだビジネスモデルからそう簡単に離れられるとは思えない。その意味で私としては、「もう1つの手段」としてのイスラム金融が果たせる役割にはけっこう本気で期待している。

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Comments

コンテンツ産業でイスラム金融スキームを使うという案ですが、実は結構難しいです。

一般にイスラムは娯楽や芸術に対して、若干否定的なところがあります。例えば映画であればその内容が精査され、イスラムのモラルに抵触する部分がないかどうか、チェックを入れなければいけません。ここにイスラム法学者の解釈を入れると、コストも馬鹿にならないという現実もあります。音楽一般を禁止する立場の法学者も多数いるので、ボーカルなしの音楽にしても非常に難しいと思われます。ウェブサイトやビジネス系のソフトウェアなどは比較的可能性があるかもしれません。

日本でイスラム金融に対する関心がもっと高まるといいですね。

Posted by: 野村 | June 09, 2006 03:05 AM

野村さん、コメントありがとうございます。
宗教面での制約があるのは承知の上です。ただ、マレーシアあたりなら、比較的それもゆるめなのではないかと。イスラムの方々って、商売面ではけっこう実利的だったりしますし。コンテンツの内容に注文つけられたらけっこう大変そうですけどね。個人的には、宗教的要素を除いて、「リスクを受け入れる金融」というかたちで(ひょっとしたら日本人の手によって)もっと取り入れられないか、と思ったりしていますがだめですかね。ノンリコースローンだって、ひと昔前まではとうてい考えられなかったはず。「常識」はけっこう変わる、というのが基本的な発想です。

Posted by: 山口 浩 | June 09, 2006 05:03 AM

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