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March 24, 2005

佐賀県はアジアのハリウッドになりたいらしい

2005年3月23日付朝日新聞に、佐賀県の「アジアのハリウッド構想」に関するある意見募集広告が出ていた。七段抜きの大きさで、気合の入れようがわかる。先日佐賀県に行ったからというわけでもないのだが、ちょっととりあげてみる。

募集は3月30日(水)必着。E-mailの場合の応募先はこちら。応募者の中から抽選で何と35名様に「CM等で話題の『いかしゅうまい』をプレゼント」だそうだ。

「アジアのハリウッド」というのはかなり大風呂敷だが、要は佐賀県にデジタルコンテンツ産業の集積を作りたい、ということのようだ。募集しているのは、「(佐賀)県内にデジタルコンテンツ産業が集積するための条件」とは何だろうか、というテーマに関する意見だ。

趣旨は以下の通り。

「約100年前の成長産業であった映画産業が、産業集積のための好条件を、当時のアメリカの大都市でなかったハリウッドに見出し、発展を遂げたことをモデルに、佐賀県では、21世紀の新たな成長産業であるデジタルコンテンツ産業を佐賀県の新しい産業、文化として定着させようとしています。 同時に、デジタルコンテンツ産業を単に成長産業としてとらえるだけではなく、IT(情報通信技術)を活用することで、働く意志をお持ちのチャレンジド(障がい者)の方々の就労を通じ、この新しい産業、文化が共有できる社会の実現を目指しています。」

広告には、「東京⇔佐賀、空から120分。」とある。東京からも近いぞ、ということだろうか。近いといえば近いが遠いといえば遠い。東京⇔ソウルもたいしてかわらないはずだ。この広告は「佐賀県統括本部危機管理・広報課」が主体らしい。「危機管理」とはこれいかに、と思わなくもないが、まあそれはうがった見方だろうからおいといて。

そもそもこの「アジアのハリウッド構想」は、佐賀県の古川知事が掲げたマニフェストだった(「アジアのハリウッド構想」も参照)。昨年、県内外の専門家らを集めた「アジアのハリウッド構想戦略会議」を発足させたとのニュースが2004年12月7日付佐賀新聞「映画、アニメ産業育成の県戦略会議発足へ」に出ている。「デジタル産業の集積化、映像文化の定着、映画撮影を誘致するフィルムコミッション推進の三点が柱」だそうだ。

しかし、どうも今ひとつぱっとしない。具体的に何が?とみると、フィルムコミッション活動の推進(佐賀県には「唐津ロケナビ」がある)、自主上映活動、デジタルコンテンツ制作講習会、佐賀の風物の映像化とインターネット配信、ショートムービーの推進、といったところだ。

最大の問題は、そもそもなぜ佐賀県なのか?だ。上記の資料には「東京中心の既存枠組みへの新規参入は厳しく、旨みが少ない」とある。適切な認識だろう。で、「成長性・可能性を秘めた『アジア』をターゲットに」とある。それも悪くないのだが、期待されるアジアの側からいえば、残念ながらそれが佐賀県である必然性はない。

佐賀県庁のサイトを見ていて気づいたのだが、これほど大きな広告を出す気合の入れようにもかかわらず、サイトのトップからこの関連ページへのリンクがない。邪推かもしれないが、県庁の中でも、全員が支持する政策ではないのかもしれない。で、注目されるのが、上にリンクをはった「アジアのハリウッド構想」の中にあった次の2つの項目だ。

(1)「ロケ誘致推進制度」:観客動員・著作の二次利用等で効果が見込めればロケ費用の一部負担するような仕組みを検討
(2)「売れる佐賀発デジタルコンテンツ製作」:映画等製作費支援制度の検討

いずれも「カネを出す話」だ。しかもこの12ページの資料の中で「検討」ということばはこの2ヶ所だけ。明らかに何らかの含意がある。「検討」とつけるのは、私の経験からいえば、反対論の存在を示唆する。にもかかわらず含めているのは、きっとこれがやりたいのだろう。だから意見を募集したのではないか。外部から「制作費補助が必要」と言って欲しいのではないか。3月23日の広告で30日締切とはかなり短いところからみて、ひょっとしたら「仕込み」をしているのかもしれない、といってはいいすぎか。

制作資金補助は、おそらく、産業政策として「サブ」にはなるが「メイン」にはならない。「カレーライス」と「福神漬け」なら福神漬けのほうなのだ。コンテンツに限らず、補助金漬けの産業が活性化した例は、日本どころか国際的にもほとんどない。韓国のコンテンツ産業の例がよくいわれるが、あれだって発展の土壌があったところにカネを出したから成功したのだし、韓国内では「金だけ出してもいいものはできない」とか「なまじ政府が金を出すから過当競争になって育つべき企業が育たない」とかいう批判も出ている。

また、「アジアをターゲット」という視点は、同時に「アジアとの競争」をも意味する。資金援助でひきつけようとすれば、国内のみならず、アジアとのコスト競争に巻き込まれることになろう。カネにひきつけられた人や企業は、他がもっと出せばそちらに移っていってしまう。カネ以外の魅力が必要だ。地元びいきを離れて、外部の目から佐賀の魅力を検討する必要がある。

ではどうするか?そんな簡単に思いつくわけがないのだが、私も「いかしゅうまい」が欲しいし、間に合えば何か案を出してみたいと思う。佐賀を愛する皆さまもぜひ。

最後に、応募情報など。

応募先

ハガキ:〒840-8570(住所不要) 佐賀県統括本部政策監グループ「いかしゅうまいプレゼント」係
FAX:0952-25-7541
E-mail:seisakukan-g@pref.saga.lg.jp

2005年3月30日(水)必着(「アジアのハリウッド構想」に関するご意見は、随時受け付けています、とのこと)
当選者の発表は商品の発送をもってかえさせていただきます、だそうだ。

※そういえば、隣の福岡県には「パラマウントの映画パーク」という構想があったのだっけ。確か久山町だった。その後の推移を知らないがどうなったのだろう。産業集積へ向けた一歩、になるのかどうか。

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