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March 02, 2005

「前提条件」を考える:公務員はクビにできない

何かものごとを進めようとして困難にぶつかったとき、ブレークスルーはしばしば、前提条件を変えることから生まれる。変えられないものと考えていたものを変えられるものとすることによって、これまで不可能と思われたことが案外簡単に達成できたりする。

というわけで、これまでさまざまなところで「前提条件」となってきたものごとについて、ちょっと見直してみようと思った。たとえば「公務員はクビにできない」というのはどうだろうか。

かつて法律をかじったこともある身だが、しょせん専門家ではないただの素人だ。いわゆるきちんとした法律論を書くつもりもないし、できるわけもない。ただ一般人の日常感覚として、こんなことはいえないのかな、といったノリで書くので、いじわるな突っ込みはご勘弁願いたい。もちろんアドバイスはぜひお願いする。

さて。

「公務員はクビにできない」という考え方は、国家公務員法の規定に由来するものではないかと思う。

国家公務員法には、こんな規定がある。

第33条(任免の根本基準)
第3項 職員の免職は、法律に定める事由に基いてこれを行わなければならない。
第4項 前三項に規定する根本基準の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事院規則でこれを定める。

要は、国家公務員法と人事院規則に定める、というわけだ。

第75条(身分保障)
第1項 職員は、法律又は人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない。

で、クビにする理由は国家公務員法か人事院規則で定めなければならない、という。

第78条(本人の意に反する降任及び免職の場合)
職員が、左の各号の一に該当する場合においては、人事院規則の定めるところにより、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
第1号  勤務実績がよくない場合
第2号  心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
第3号  その他その官職に必要な適格性を欠く場合
第4号  官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
(下線は私が付した。以下同様)

これが国家公務員法の定める「クビの条件」だ。で、さらに人事院規則をみると、こんな規定がある。

人事院規則1114(職員の身分保障)

第7条(本人の意に反する降任又は免職の場合)
法第七十八条第一号の規定により職員を降任させ、又は免職することができる場合は、法第七十二条の規定による勤務評定の結果その他職員の勤務実績を判断するに足ると認められる事実に基き、勤務実績の不良なことが明らかな場合とする。
2  法第七十八条第二号の規定により職員を降任させ、又は免職することができる場合は、任命権者が指定する医師二名によつて、長期の療養若しくは休養を要する疾患又は療養若しくは休養によつても治ゆし難い心身の故障があると診断され、その疾患又は故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないことが明らかな場合とする。
3  法第七十八条第三号の規定により職員を降任させ、又は免職することができる場合は、職員の適格性を判断するに足ると認められる事実に基き、その官職に必要な適格性を欠くことが明らかな場合とする。
4  法第七十八条第四号の規定により職員のうちいずれを降任し、又は免職するかは、任命権者が、勤務成績、勤務年数その他の事実に基き、公正に判断して定めるものとする。

これらをみる限りでは、公務員はきちんとした理由さえあれば、クビにできるように思えるのだがどうだろうか。もちろん法令の解釈とか判例とか実務上の取り扱いとかがあるだろうから、実際には難しいというのはわかる。わかるのだが、少なくとも、「公務員はクビにできない」という規定はないのだ。クビにする場合の規定もきちんと用意されているではないか。その点で、民間企業と何が変わるということもないはずだ。

ここで注目したいのが、国家公務員法第78条第4項だ。「官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」には、本人の意に反して免職にできる、とはっきり書いてある。さまざまな行政分野の改革で、組織を変えても公務員は減らないから無意味だとする議論があるが、必要ならこの規定を発動すればいいと思う。

もちろん、クビにするという過激な手段でなく、もっとマイルドなやり方だってある。先日、日本たばこ産業㈱の希望退職に関するニュースが流れた(記事はこちら)。もともとは日本専売公社から株式会社化した1985年当時には約3万4千人の社員がいたものを約1万5千人まで減らしており、今回4千人を見込んで募集した希望退職に5,795人と全社員の1/3が応募したわけだ。これにより、2006年3月末には社員1万人体制となる見込みだ。この会社はかつて三公社五現業と呼ばれた国営企業だった。やればできるのだ。官庁だって、行政改革して仕事がなくなったのなら、希望退職を募って減らすことがあってしかるべきだ。希望者がいなかったら?法律にしたがって粛々と免職にすればいい。

…なんて簡単な問題ではないことはわかっている。もとより当事者にとっては一生の一大事だし、軽々しく「クビ」などというのは不穏当だ。ただし、ただしだ。日本の財政状況がもはや持続可能性に黄信号の出ている状態であることは指摘しておきたい。今すぐどうこうではないにせよ、「このままではだめ」ははっきりしている。民間企業ならこんなときどうするか。

いや別に、何が何でも公務員をクビにしたいわけではない。ただ、少なくとも、はなから「クビにできない」を前提として議論するのはおかしいと思う。

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Comments

はじめまして

たまに目を通させて頂いております。
仰る通りですね。何事も決めて掛かっていては解決への道のりが遠くなるばかりです。


さて、公務員のクビは制度上できたとしても自治労の反発がすごそうですね。昔の国鉄みたいに組合の力が強固に成りすぎていることがクビ切りを断行しづらくさせている要因の一つではないかと思っています。

自治労は民主党の強力な支持基盤です。
是が非でも政権を取りたい民主党としては、自分達の支持団体に対して不利になるようなことをできるのかどうか・・甚だ疑問です。

少し横道にそれましたね。すみません
今後も楽しみにしています。

Posted by: こえだ | March 02, 2005 02:47 PM

おお。公務員も解雇できるんだ。。この法律の感じだと、民間の規定とあんまり変わらない気がする。
選挙で、リストラ掲げて黒字経営にします!って言えるんですね。興味わいてきたかも。

Posted by: ひろ | March 02, 2005 07:24 PM

>おお。公務員も解雇できるんだ。。

いや、そんな簡単には。
本来、民間企業だって簡単には解雇できないです。それに、国はそう簡単には「倒産」しないからねぇ。まあ、「最初から決め付けるのはやめましょう」といいたいだけですから、そのあたりよろしくお願いします。

Posted by: 山口 浩 | March 02, 2005 09:37 PM

生ぬるい!一般企業だって倒産してからじゃ首切れないでしょうが。国が倒産してからじゃ遅過ぎる!理由は横領・背任で十分。退職金もなくすべき。

Posted by: tak | September 25, 2008 11:57 PM

takさん、コメントありがとうございます。
民間企業でも、会社都合で従業員を解雇するのはそれなりに一大事です。国は会社よりずっと規模が大きいだけでなく、会社とちがってしくみ上「倒産」という事態が考えにくいこともあります。
「横領・背任」がわかってるなら懲戒解雇は当然アリだと思います。そのあたりの詰めが甘いように見えることもあるのは確かに「生ぬるい」ですね。
本文の趣旨は、お読みいただければわかると思いますが、本人に非難されるべき事情がなくても、やるべき仕事がなくなったのなら解雇できると考えるべきのではないか、というものです。

Posted by: 山口 浩 | September 27, 2008 03:22 PM

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