「税務署員ラオ」をアニメ化すべき10の理由
「税務署員ラオ」は、財務省サイトの小学生向けコーナー「ゴ-ゴー!ふぁいなんす☆タウン」に登場するネズミのキャラクターだ。キャラクター設定によれば、「税務署で税金を集める係」をしており、好きなことは「まじめに働くこと」、きらいなことは「弱いものいじめ」、好きなことばは「友情、努力」という、誰がみても非の打ち所のない善良なネズミだ。税金を払うのがきらいな「どらニャーゴ」とゲームで対決する。
個人的に、この「ラオ」がいたく気に入った。いや冗談ではない。つい「政府主導でアニメ化を企画してはどうか」と妄想モードにスイッチが入ってしまった。というわけで、企画書とまではいかないが、アニメ化すべき理由を勝手に考えてみた。
タイトルが「ふぁいなんす☆タウン」ではあまりにベタなので別途考える。「税務署員ラオ」もあまりといえばあまりなのだが、あくまで仮にということで。
主人公は何といってもラオ。税務署の徴税係。マルサなどエリートではない「現場」の公務員、というのがいいだろう。やはりここは、ネズミのガールフレンドが欲しいところだ。となると職業はやはり税理士か公認会計士か。学校の先生というのも悪くない。ラオよりもステータスが高い設定にするのが「politically correct」だ。敵役はいわずと知れたどらニャーゴ。税金を払うまいと逃げ回るのをラオが追って大騒動を繰り広げる、といったストーリーを想像する。
いきなり「税を納めよう」では説得力に欠けるのは否めない。やはりここは割り切って、まずコンテンツとして「ひとり立ち」させることを狙ったほうがいいかもしれない。となれば、商業的なアニメ作品と、その世界観を使った啓蒙的コンテンツに分けるということが考えられる。となると、商業的なほうは、民間企業のアイデアを生かすべきだ。「楽しく見ているうちに潜在意識に納税意識がすりこまれる」みたいなテーマで企画コンペをやってもいいかもしれない。1年ごとに発注先を変え、それぞれちがった「ラオ」を展開するオープンソース的展開ができたら面白いではないか。
前置きが長くなった。さて、アニメ化すべき10の理由。
(1)日本の財政状況を国民に理解させる必要がある
日本の財政状況は一刻の猶予もならない緊急事態だ。にもかかわらず、国民の危機感は薄い。いや心配している人はたくさんいるが、それが自分たちの問題であると認識している人はあまり多くないように思う。財政の問題は、大きくみれば、私たちがどれだけコストを負担してどれだけサービスを受けるか、というバランスの問題だ。サービスのほうが大きい時代が続いているために財政が悪化している。金の使い道で工夫できる部分はたくさんあるだろうが、政府は無駄遣いばかりしているわけではない。私たちはサービス水準の低下、または負担増、あるいはその双方を受け入れるかどうかの判断を迫られている。「健康で文化的な最低限の生活」も、「国土の均衡ある発展」も、そうした制約の下の話であることをいやおうなく意識しなければならない現状なのだ。そうした危機意識を国民の間に浸透させるために、理解しやすいアニメで訴えることには格別の意味がある。
(2)納税の大切さを国民に広く訴える必要がある
財政再建のために負担増を受け入れるにしても、脱税が横行しているような状況は看過しがたい。納税は憲法で定められた国民の義務だ。正当な節税行為はともかく、不正な手段で税金を逃れることは、きわめて反社会的かつ恥ずべき行為といえる。納税の大切さを、これまで以上に国民に広く訴えるため、アニメを利用してはどうか。子どもが見れば大人も見る。子どもに「お父さん(お母さん)は税金納めてるの?」と聞かれるようになれば、納税意識も多少は高まるかもしれない。
(3)税務署・税務署員のイメージアップがはかれる
税務署または税務署員のイメージは正直なところあまりよくない。業務の性質上ある程度しかたないとは思うが、あまり嫌われすぎるのもどうかと思う。税金の大切さを意識するためにも、税務署や税務署員に対してもっと親しみが感じられるようになったほうがいい。それに、当の税務署員にとっても、イメージが上がることはモチベーションの向上につながる。そのために「税務署員のヒーロー」を作り出すことには価値がある。
(4)アニメキャラクターは安くつく
現在、税務署はキャンペーンなどのためにタレントと契約している。しかしこうしたタレントとの契約は短期間で切れてしまって統一感のあるイメージ戦略が打てないし、社会保険庁のような「スキャンダル」(保険料納付促進キャンペーンのためのタレントに未納があった等)の心配もある。これに対し、独自に開発したキャラクターであれば長期的には安くつくし、キャラクターは歳をとらずスキャンダルも起こさないという安心感がある。
(5)政府の統一キャラクターにも
アニメを作るのはそれなりにコストのかかる話だが、何なら税務署に限らず、政府全体の統一キャラクターにしてもよい。あるときは税務署員、あるときは別の官庁というわけだ。こうして各官庁でコストを分担すれば結果として安くつくことになるのではないか。アニメという表現手法は、現在の日本人の多くにとってよくなじんだものとなっている。それを娯楽だけに使っているのはもったいない。すでにマンガは多く行政広報に使われている。今度はアニメの番だ。
(6)働くことの価値を子どもたちに伝える
好きなことが「まじめに働くこと」とほざく、もといのたまうラオは、「まじめに働く」ことの尊さを子供たちに伝えるために最適のキャラクターだ。強大な力を持つでもなく、特殊な能力を持つでもなく、また金も地位も名誉もないラオだが、「まじめに働く」ことを武器として、悪いどらニャーゴと戦うのだ。まさに「地上の星」ではないか。「プロジェクトX」ではないか。
(7)コンテンツ公共事業
日本のコンテンツは世界的に注目されており、政府もコンテンツ産業を支援していく方向にある。政府の姿勢の表明として 、政府がアニメを本格的に政策広報手段に用いるというのはそれなりに意味がある。コンテンツ企業の中にも、実力はありながら資金力がなく下請に甘んじることを余儀なくさせられているところがある。「コンテンツ公共事業」として、こうした企業にあえて発注することで、業界全体の底上げをはかることができる。望ましい契約方式を広めるにも役立つし、そうしたいい条件の仕事で若干のクラウディングアウトを行っても、この状況なら許されるのでは。
(8)アニメーター支援
アニメ産業において、現場のアニメーターたちの労働条件が劣悪なことは既に有名だ。いい仕事をするスタッフにはきちんとした賃金が支払われる業界慣行を作りだすために、政府が制作を発注するというのはどうか。こちらもクラウディングアウトによって単価を引き上げる効果を期待するわけだ。
(9)コンテンツODAの可能性をさぐる
このコンテンツの有用性は日本だけにあてはまるものではない。納税の重要性はどの国でも重要だし、特に途上国では徴税基盤がきちんとしていないところが少なくない。アニメ「税務署員ラオ」をこうした国に無償供与する事業をODAとして展開してはどうだろうか。
(10)モリゾーとキッコロだってアニメになってるんだから、いいじゃん!
ゲストでモリゾーとキッコロを出演させたっていいではないか。どうせなら、息のかかった業界のキャラクター、たとえばアフラックのアヒル(「アフラックダック」という)とか損保ジャパンダとかも順繰りに登場させたらいい。
・・・最後はだいぶやけっぱちっぽいし、なんだかダブっている雰囲気もあるが、まあ許されたい。「税務署員ラオ」、ぜひ見たいぞ。
ちなみに。
「霞ヶ関官僚日記」からトラックバックをいただいた。ついでに他の官庁のゲームをご紹介しておられる。
経済産業省「アトムdeポン!」(制作費3億円ってほんと?)
警視庁「どきどきまあちゃんゲーム」
環境省「つくろう!ポンポコ理想郷」
経産省のはすごい。原子力発電ネタのマージャンゲームだ。役満の「エコ名人」(プルサーマル+廃棄物処分+再処理工場)なんか脱帽もの。警視庁のも負けていない。思いっきり萌え系だ。まあちゃん派と婦警さん派に分かれるかも。環境省のは試していないからわからないが、一番「まじめ」に作っているかも。他の官庁のゲームも見たい。やはり個人的に最も期待するのは防衛庁だろう。アメリカなら大真面目に軍隊シミュレーションを新兵募集用に配っちゃうぐらいだが、日本ならもうちょっと穏やかに「PKOゲーム」なんてどうだろうか。テロを避けて橋を作るとか。
※追記
「どきどきまあちゃん」だが、もしかして、禁断の「お母さん萌え」の方もいたりするんだろうか?
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