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April 18, 2005

録画ネットは他人事じゃない

日本のテレビ番組を海外でも楽しめるという「録画ネット」のサービスについて、著作権法に違反するという東京地裁の仮処分決定が出たのは、2004年10月のことだった。

海外居住者向けのサービスだからあんまり関係ないや、と思っている方も多いだろうが、どうもそういうことでもないのではないか、と思うようになったので、少し書いてみる。ちがうぞ、という意見や、そうだ、という意見があれば、ぜひお聞きしたいのでよろしく。

ご存知の方も多いと思うが、知らない方は「録画ネット」のサイトをご覧いただきたい。要は、利用者が録画機器を購入して運営会社の管理下におき、海外からの指示に従ってテレビ番組を録画し、インターネット経由で利用者のパソコンに配信してくれる、というサービスだ。海外居住者が自分で録画指示を出すから著作権法が禁じる録画代行ではない、というのがウリだった。

これに対して、NHKと民法5社がサービス停止を求めて仮処分申請を行い、これが認められた、というわけだ(ニュースはこちら)。

気になったのは、録画ネットに関する東京地裁の仮処分決定の内容だ。この決定のポイントは、このサービスが「私的複製」にあたるか、である。著作権法第30条第1項は私的複製を適法としている。DVDレコーダーの販売や機器セッティングなど私的複製の「幇助」なら、第三者が業として行ってもよい。しかし複製行為自体は使用者自身が行わなければならない。本人から依頼を受けて行ってもよいのは、家族や友人など個人的な間柄にある者だけである。

で、この決定では、「録画ネット」において、テレビ番組の複製を行っているのは実質的にはサービス運営会社である㈲エフエービジョンである、とした。録画機器本体は利用者が購入したものだが、それ以外の機器は㈲エフエービジョンが所有し、システムは全体として㈲エフエービジョンが管理しており、利用者の自由には使えない。録画ネットのサービスにおける複製は㈲エフエービジョンの強い支配・管理下で行われており、利用者の管理・支配はきわめて弱いからだ、という。

㈲エフエービジョンの支配・管理が強いとした理由は、以下の通り。
・システムは全体として㈲エフエービジョンが調達、設定、管理している。
・録画機器も㈲エフエービジョンが選定、調達し、同社事務所内に設置し、設定、管理している。
・所有者は㈲エフエービジョンの定めた利用方法によってのみこれを利用できる。
・録画の過程は㈲エフエービジョンにより規定されている。
・だから、契約終了時に録画機器の返還を受けられるということ以外は、同社による録画代行サービスと変わらない。

まず注目しなければならないのは、この決定には、「海外」に関連する論点は登場しないということだ。あくまで著作権、著作隣接権の問題であって、利用者が海外かどうかの問題はまったく関係がない。したがって国内居住者向けに同じサービスを行ったら、まったく同じ問題が起きる。2005年1月には関西でも、マンション業者向けにテレビ番組録画システムを販売するクロムサイズをテレビ局が訴えたらしい。要は他人事ではない、ということだ。

さらに注目すべきは、この決定が「管理・支配」を最大のポイントとしている点だ。ひとことでいうと、この決定で著作権法違反とされた最大のポイントは、録画が㈲エフエービジョンの管理・支配下で行われているということだった。録画機器が誰の所有であるか、録画の指示を誰が出したかは副次的な要素だ、と言い切っているに等しい。録画された番組が利用者本人の私的利用であるかどうかは、論点にすらなっていない。つまり、録画の過程を管理してくれるサービスを提供するというビジネスモデル自体が私的複製の範囲を逸脱する危険性をはらんでいるとされたことになるのではないか。

となると、最近のデジタルコンテンツがらみのサービスはけっこうひっかかりがありそうにもみえる。TiVOはとりあえず機器を自分で持って自宅に置くわけだが、最近始めたような、録画したものをネットで送るみたいなサービスは、「過程の支配・管理」という側面からみて、ちょっとグレーっぽくなるかもしれない。たとえば録画機器をレンタルにして、利用者がインターネット経由で指示を出してサービス会社側のシステムから録画をコントロールするようなしくみだったら?

IT技術の進歩は、人間の作業を機械で(より低コストで、あるいはより効率的に)置き換えることを可能にする。それまで個人が物的に所有してきたものが、ネットを通じて利用したり、必要なときだけ利用したりするかたちもよく出てきている。今後より高度なサービスが提供されるようになると、実質的に企業側が複製しているとみなされることになりかねない。

専門家のご意見をお聞きしたいところだが、個人的には、私的複製の範囲は「私的」な使用であるかどうかで決めたらいいんじゃないかと思ったりする。録画代行の禁止なんかは、実際のところ、著作権者というよりは放送局の保護という要素のほうが強いのではないか。本来、このようにビジネス慣行の類や技術的な制約からくるものは、法律で縛ろうとするとろくなことにならない。

法律は硬直的であり、かゆいところに手が届かず、必要のないところまでかきむしってしまう。柔軟で技術変化に対応しやすい方法があったらいいのだが。

※2006/1/30追記
『録画ネット』がサービスを終了、放送局側と和解へ

有限会社エフエービジョンは25日、「録画ネット」を完全に終了すると発表した。… NHKおよび在京民放局5社は、録画ネットが「放送番組の複製・送信サービスにあたる」として、東京地方裁判所にサービス停止を求める仮処分を申請し、サービス提供の是非が司法の場で争われていた。 東京地裁では、2004年10月にサービス停止の仮処分を決定。エフエービジョンは仮処分の異議申請を行なったが、2005年6月に仮処分の認可決定が下った。決定を受けてエフエービジョンは抗告したが、知的財産高等裁判所は2005年11月に抗告を棄却した。放送局側はさらにエフエービジョンに損害賠償を求める訴訟を行なっていたが、エフエービジョンは裁判所からの和解の提案を受け入れ、録画ネットのサービスを完全に終了することで放送局側と和解する運びになったという。

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Comments

やまぐちさん、おはようございます、

なんつうかおもったんですけど、最近のPCってHDD録画できるし、リモートデスクトップとかで自分で録画設定しているじゃないですか?ビデオを並べるんじゃなくて、PCならべてDVDの入れ替えと発送だけというビジネスに変えたらどうなんでしょうね?それでもだめなら、リモートサーバー機能につないで自分でHDD録画したものをVPNみたいな機能で海外にいながらにして見るということでは?なんか技術的にいくらでも判決で指摘されたネックを解消できるような気がします。

ああ、そこの会社にいってコンサルでもしちゃおうかな...(笑)

Posted by: ひでき | April 18, 2005 09:35 AM

ひできさん、コメントありがとうございます。
どうも仮処分決定を読むと、録画の過程自体が企業に支配・管理されていることを最大の理由として、実質上の録画代行にあたるとしているようにみえます。
録画ネットの場合は海外居住者なので、機械の管理はどうしても企業がやる必要があるわけです。で、機械を利用者本人所有にして規制回避したつもりが、送信するしくみまで備えたことを理由に、システム全体を管理しているとみなされちゃったわけで。
となると、著作権を握る放送局自体がこのビジネスをやる、または提携してやるとかしないと無理っぽいのでは。
じゃあそもそもリモートコントロールできるHDD録画機器の製造販売は、というあたりまでくると、一応理屈はついているようにみえますけど、どうも実質上、法律論というよりは力関係で決まっているようにみえてしまうのが気に入らないわけですハイ。ビジネスだからもうけてなんぼなのはわかりますが、フェアじゃない感じがして。で、それが「正義」みたいに言われるのがまた感じわるいし。コンテンツの海外流出を防ぎたいっていう気持ちはわかるんですが。

あ、それで本当にいいたいのは、へんに法律をふりかざして基準を作っちゃうと、それに縛られてビジネスがうまく進まなくなっちゃうんじゃないか、ということです。今回も、たとえばですが再送信手数料みたいな解決策があったのではないか、と。

Posted by: 山口 浩 | April 18, 2005 10:03 AM

山口さん、はじめまして。件の「録画ネット」を運営している会社とは、今回問題にされている業務とは別の分野でお世話になっているので、ついついしゃしゃり出ました。

僕自身、ネット関係の法令については素人ですが、今回の「録画ネット」の問題に関して、巨額なオリンピックの放映権ビジネスの崩壊を予感させるものであったからこそ理不尽な訴訟に行き着いたのだと思っています。

ギリシャオリンピックの映像を、時差の関係で合衆国のどの地上波より早く放送するNHKの番組を、ネット経由で全世界どこからでも無料で見られる環境が存在すれば、合衆国のケーブルテレビはOUTです。それだけでなく、オリンピックにおける放映権ビジネス自体が崩壊する可能性があり、今回も多額の放映権料を支払っていたNHKが、他国のメディアに気配りしながら、国内メディアの音頭を取って潰しにかかったと理解しています。

フジとライブドアなら和解できても、NHKプラス民放5社と「録画ネット」ではあまりに資本規模が違います。筋が通らなくても潰しにかかることは目に見えています。司法の冷静な判断により、時代に則した判決が出ることを期待しています。

→ひできくん。本当にそう思っているのでしたら、ぜひ彼等に力を貸してあげて下さい。紹介しますヨ。

Posted by: イワサキ | April 19, 2005 01:11 AM

こんにちは

海外に住む日本人、特に年配の方には日本のTV番組が何よりの楽しみだそうで、LAに住む私の知人も同じ会社か分かりませんが「録画ネット」のようなサービスを使っていましたが、「録画ネット」のように著作関連の問題がおきサービスを停止になってしまいましたが、そのサービスを行っていた会社が実際に使っていた機材を当時加入していたユーザーに安く売りに出したので、私の知人は録画用機材を一式買い、日本の知り合い宅に置かせてもらい難なく今でも日本のTV番組をLAで見ています。

全体のサービスを一社がやるのではなく、機材を売る会社、インターネットとTV回線と機材を置くスペースを貸す会社、メンテナンスをする会社を分ければ、特に問題ないのでしょうか。いっそ、TV電波を録画、圧縮して海外に送るのではなく、電波自体をネット回線を通して海外に送りユーザーの方で録画出来るようになればもっと楽でしょうね。 

↓実際に海外から使用しているユーザー達の声。(雑談も多いですが。)
http://losangeles.vivinavi.com/JA/eb/eb_main.phtml?eb_page=2&eb_kind=0&eb_topic_id=1-01-JA-eb-1097170902-d41d

Posted by: ドリー | April 19, 2005 06:16 AM

やまぐちさん、おはようございます、

どうもしかし最近新しくできる法律だの、判例だのを見ているとバイアスとか、特定の集団の利益につながりそうだとか、あまりにあからさまな気がしてなりません。

Posted by: ひでき | April 19, 2005 10:07 AM

法律には詳しくないので、単なる感想なんですけど・・・
この「録画ネット」でも、例えばテレビ番組をDVDに録画して海外向けに販売したとしても、どちらもそれによってサービスを提供する会社が利益を得ることは同じではないでしょうか。利用する海外の人は私的利用ですが、仲介して利益を得る会社は私的利用ではないように思えます。「録画ネット」は消費者に番組の複製を提供することで利益を得ていると判断されてしまえば、やはり私的複製とは言えないように思えます。だからこそ、『「管理・支配」を最大のポイント』にしているのではないでしょうか。
サービスに付随する利益なしのボランティアならもしかするとOKだったのではないでしょうか。

Posted by: はらぺこ | April 19, 2005 02:07 PM

なんか、私のコメントの最初の部分はわかりにくいですね。
例えば、DVDに録画して販売するとすれば明らかに×ですよね。「録画ネット」もその管理・支配が「録画ネット」側に大きく傾いているので、形態が違うだけで、同じように複製を提供することで利益を得ている、と判断されたのではないでしょうか、ということが最初の「この「録画ネット」でも、例えばテレビ番組を・・・」で言いたいことです。

Posted by: はらぺこ | April 19, 2005 02:15 PM

いま肝心の6ga.netさんのサイトへ行ってみたら、私がコメントしたようにLinuxをユーザーが直接操作する方式に変更して営業されているそうです。非常に納得しました。ただSSHはちょっと使いにくそうな感じです。WindowsでRemoteってやろうとするとこんどはWindowsが高くつくのでしょうね、きっと。

http://www.6ga.net/viewontv.php

Posted by: ひでき | April 19, 2005 03:27 PM

すみません、事実と違うようですね。最初から、PCを使ったサービスでした。

それにしても、読めば読むほどどこが著作権法に触れるのか理解できないです。と、いうか横暴なのか技術に無知なのか、これで仮処分などひどい話です。

http://www.6ga.net/x_index.php

Posted by: ひでき | April 19, 2005 03:57 PM

コメントありがとうございます。

はらぺこさん
利益を得るのは確かに同じですね。自分で複製するのはよし。それを手伝いするのも「幇助」ならいいわけです。どこまでが幇助でどこからが「管理支配」になるのか、がポイントなわけですが、これってそれほどクリアカットなものではないような気がします。特に今のIT技術はそうした支援機能がウリですからね。それから、仮処分では営利が問題というより「業」ととして管理支配することが問題なので(著作隣接権を侵害するという意味では同じ)、ボランティアでもきっとだめですね。要は範囲が幅広すぎるように思えるのです。

ひできさん
法律論は難しいですね。私も一応法学部出身なのですが、何考えてるんだかわからないことがよくあります。今回のケースは、いいたいことはわかるんだけどそれはちょっとあんまりでは、といったところです。

Posted by: 山口 浩 | April 19, 2005 11:16 PM

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